蒼星石は自らの弁当箱を持ってくると、中からプラスチックの楊子に刺さったミートボールを取り出した。
輝くタレがとろりとからめられた、我ながら自信作。
真紅たち3人の視線を受けながら、蒼星石は金糸雀の横にひざまずくとミートボールをゆっくり差し出していく。
金糸雀の鼻の前へと。
・・・・・・ぴくっ。
「「「!!!」」」
蒼星石以外の3人が息をのむ。
わずかに金糸雀の鼻が動いたのだ。
ぴく。ぴくぴく。ひくん。
続いて鼻が動く。
「みんなも何か持ってきて!金糸雀は食べ物の匂いに反応してるんだ!!」
蒼星石の声に、3人も急いで各々の弁当箱からおかずを取り出してくる。
「蒼星石の南蛮漬けで目を覚まさなかったら承知しないです」
「鴨ロースの紅茶蒸しでいいかしら・・・・・・?」
「デザートのうにゅーなの」
4人がそれぞれ食べ物をつきつけると、やがて金糸雀の鼻の動きが加速していった。
・・・・・・ぴくっ、ぴくぴくぴくっ!
それに伴いわずかに眉がしかめられ、ひときわ大きく腹が鳴る。
ぐぎゅるるるるるるるぅぅぅぅぅ~~~~っ!!
そして全ての動きが止まると、
くわっ!
「「「「!!」」」」
金糸雀が目を開いた。
そして、
ぱくっ。
「「「「!!!!!」」」」
食べた。
4人が差し出していた全ての食物に。
一口で。
唖然として見つめる一同の前で、金糸雀はゆっくりと咀嚼し、嚥下する。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐ、ごくん。
「い、生き返ったかしら~~~」
言葉とともにその前髪がぴょこん!と跳ね上がり、顔を上げた動きでおでこがきらりと光を放った。
金糸雀、生還の瞬間だった。
「今カナは何を食べたのかしら・・・・・・この世のものとは思えない美味だったかしら?」
上体を起こし、ほっぺたをおさえて陶然とつぶやく金糸雀。
どうやら無意識の行動だったらしい。食べたものの正体を把握していないようだ。
(苺大福・・・・・・あったよね。雛苺の)
(全部混ぜたらこの世のものとは思えねーですが・・・・・・)
(今度試してみるの。意外とおいしーかもなの)
(やめた方がいいと思うけれど・・・・・・)
「何をコソコソしてるかしらー?」
「「「「何でもない(わ・の・よ・です)」」」」
ミートボールと南蛮漬けと鴨ロースの紅茶蒸しと苺大福は、1人の命を救い、4人の心に消えない謎を残していった。

こうして何とか4人の力によって意識を取り戻した金糸雀を加え、一同は昼食を再開した。
金糸雀の前には4人から分け与えられたおにぎりやらおかずが並べられ、即席の弁当を構成している。
「うぅ、感激かしら。今日ほど友情を大切に感じた日は無いかしら。ごはんの神様ありがとうかしら~」
「なーんで最後だけ得体の知れない神様への感謝になってるです。隅から隅まで翠星石たちに感謝しやがれです」
「翠星石は相変わらず細かいかしら?そんなんじゃ若ハゲになっちゃうわよぅ」
「な、誰がハゲですか!どっちかってーと金糸雀の方が素質ありですこのデコっぱちですぅ!!」
「言ったかしら!?このキュートなおでこをハゲ呼ばわりすると許さんかしらぁぁぁぁぁ!!!」
ぎゃーぎゃーと再び舌戦を開始する2人。そして呆れつつも笑顔の3人。
「まあ、金糸雀も元気が戻って何よりだね」
「少し戻りすぎたかも知れないけれど」
「でもでも、やっぱり元気がない金糸雀は金糸雀じゃないのよ」
「そうね・・・・・・じゃあその元気な金糸雀と翠星石の仲裁は貴女にまかせるわ、雛苺」
「うゃ、そのりくつはおかしいの」




その後も、結局雛苺が2人の仲裁に入ろうとしてはじき出されたり、即席弁当を食べ終えた金糸雀が「午後の戦闘に備えてさらなる補給」を訴えてパン代を蒼星石に借りようとしたり、「なら最初から学食へ行けです」と翠星石の逆鱗に触れて第三ラウンドを開始したりと色々あったが、概ね平和に昼休みは終わった。
どのくらい平和だったかというと、
「あなたたち・・・・・・何やってるのぉ・・・・・・?」
「・・・・・・」
予鈴とともに屋上から教室へと戻ってきた水銀燈と薔薇水晶は異常な光景を目撃した。
そこには、床で転がりながら取っ組み合う金糸雀と翠星石、
はっぴ姿で「どっちもあいとー」と声援を送る雛苺、
周囲のクラスメイトや机を戦闘圏内から非難させている蒼星石、
そして何故か自分のティーカップを頭に乗せ、紅茶と思しき液体をしたたらせつつ(おそらく怒りで)震えている真紅の姿があった。
「・・・・・ケンカする程・・・・・・仲がいい・・・・・・」
薔薇水晶の囁きは、未だ収まらない騒音に紛れて誰の耳にも届くことはなかった。


最終更新:2006年12月19日 15:18