15-76「京極堂シリーズ未来偏、「神人の憂鬱」より」

俺は自転車を押しながら佐々木の家へ向かう坂道を登っている。
決して自転車をこいだまま上れない勾配ではないのだが俺はここでは必ず自転車は押すようにしている。
この坂は眩暈坂とよばれる坂で、周囲の立地や勾配の角度がいろいろ作用するらしく人に眩暈を起こさせる。
科学が発達しないころここはやはり、周囲が墓ということもあっていわくつきの場所ということになっているのだ。
実際問題どこかの誰かが解明したとしてもそんなことは知らない現代人の俺でさえ中学のとき佐々木を家まで送った帰り
この坂で眩暈を起こしたときは───その日佐々木の話した内容もあって───妖怪の仕業と勘違いしたものだ。
そのことを佐々木の奴に話したら偉く長ったらしい科学的解釈と、妖怪などいないということをセットで話された。
このだらだらと続く坂を上りきったところに佐々木の家がある。
年代物の看板が立てられている。
「京極堂」
これが佐々木の実家だ。
なんでも祖父の代から営んでいる古本屋らしく、古書新書に至るまでのその蔵書のはばはどこぞの大型チェーン店とは比較にならない。
佐々木の奴も
「こういった古書店は大型チェーンに対抗するため横の繋がりが重要なんだ、その点うちはそこそこの老舗だからね
 キョン、君が欲しい本があったらいってくれ。絶版本でも探してあげるよ」
なんていってたっけか。
まぁもっとも俺が絶版本など欲しがることは恐らく未来永劫無いのだが。
そんなことを思い出している間に佐々木の家についた。
年代物の家のせいかこの家にはインターフォンなんてものは無い。
少しばかり立て付けの悪い扉を昔佐々木に教わったコツを使って開けると、少しだけ大き目の声であいつの名を呼んだ。
数秒の間を空けて足音が聞こえる。
あいつも大概インドア派だからきっと今日も部屋で長々と本を読んでいたのだろう。

「やぁ、キョン。久しぶりだね、突然どうしたんだい?」

奥の間から現れた佐々木が声を書ける。
卒業いらい会っていなかったがどうやら少し髪が伸びたくらいでそう変わっていないようだった。
佐々木の言葉から解るように俺はアポイトメントなんて取っていない。
と、いうかこの家にはそんな概念は───あることは有るのだが───守る人間はほとんどいない。
古書店という職業上大概は家にいるし、この家の交友関係にある人たちはそんなもの気にしない人たちらしい。
最初こそ俺も遠慮していたのだが、一年の付き合いになる今では俺はすっかりその人たちに染まっていた。
佐々木に連れられて居間に通される。
少し待っていてくれ───そう言って佐々木は台所のほうに向かった。
きっとお茶でも入れてくれているのだろう。
佐々木が来るのを待つ間、俺はぐるっと今を見渡す。
所せましとつまれた本の山。
恐ろしいことに佐々木はこれを全て読み、あまつさえ何処に何があるか把握しているという。
初めてこれを見たときには俺は佐々木の中学生としてはありえない知識量の由縁を見たと思ったものだ。
今度長門の奴を連れてきてやるか───そこまで考えた所で佐々木がお茶を持ってこちらにやってきた。

「用件は何かな?」
佐々木は俺の前にお茶を置くと、まぁ用件なんか無くっても歓迎するけどね、と付け加えた。
そうだな、何から話すべきだろうか?
佐々木の知識から考えてやはり最初にする質問はこれだろう。

「なぁ佐々木、神人って妖怪はいるか?」


京極堂シリーズ未来偏、「神人の憂鬱」より

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最終更新:2007年07月22日 21:19
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