61-36「僕は友達が少ない」

佐々木 「くっくっくっ… ついに驚愕まで一月を切ったね…」
佐々木「くっくっ…、長かったよ…」
佐々木「これからは僕が本格的に参戦し、涼宮ハルヒシリーズを大いに盛り上げていこうではないか!!」
佐々木「んっ? なんだい?これは…
……くっくっくっ… まさか、驚愕の発売日にドラマCD特典付きのラノベを出す者がいるとは…
いい度胸じゃないか…」
佐々木「なになに… 僕は友達が少ない?」

放課後、教室に忘れ物を取りに戻ると一人の少女が「会話」をしていた
キョン 「あれは確か… 佐々木?」
佐々木「くっくっ…、くーちゃんは面白いな~」キョン 「佐々木ってあんな風に笑うのか…
んっ?」
俺は佐々木が携帯で友達と話しているのかと思っていたが…
彼女は携帯を持っていなかった…
 

教授には可能一人しかいないし、声も彼女のものしか聞こえない的
誰もいない空間を見つめながら
まるでそこに誰かといるかのように楽しげに話す佐々木…

なんだかとっても入りにくいというか見なかった事にして帰りたい状況なのだが…
忘れ物を取らないといけない…
俺はしかたなく教室のドアを開けた…
佐々木「そういえばあの時く~ちゃんが…」
佐々木と目があった。
彼女は一瞬 きょとんとした顔をした後
顔を赤くし目を反らした
キョン「うわっ、超気まずい…」

忘れ物を取ってささっと帰ろうと思ったが俺の机の近くに佐々木がいる…

仕方なく佐々木に近付く…
佐々木「な、なんだい?」
キョン「いや…、忘れ物を取りに来ただけ…」
佐々木「そ、そうなんだ…」

机から忘れ物を取出し佐々木のほうを見ると相変わらず顔は真っ赤だ…
このまま出るのも気まずいと思い…
というか怖い物みたさというかさっきの事が気になり
キョン 「あ、あのさ…」
佐々木 「ん、んんっ?、な、なななんだい?」何故かかなり動揺している…
キョン 「もしかして幽霊とか見えるの?」
佐々木「な、いきなり何を言い出すんだい君は!?」
キョン 「いや、なんかさっきまで誰もいないのに誰かと話して…」
佐々木「ふぇっ…」
佐々木の顔が更に赤くなる
佐々木「やはり見ていたのか…」
憎々しげに呻き…
佐々木「くっくっくっ…」

佐々木は俺の顔を消滅から見据え、開き直ったかのように
堂々と言った



「僕は友達と話していただけだ。 エア友達と!」

























キョン「……エア友達?」













 

こくんと佐々木は頷く

キョン「なんだそれ?」
佐々木「言葉通りの存在だよ。エアギターというものがあるだろう。それの友達版だ」
キョン「え~と…」
俺は思わずこめかみを押さえた
「つまりその場に友達がいると仮定して喋ってたってことか? なんでそんな…」
佐々木 「仮定ではない。く~ちゃんは本当にいる。ほらここに」

もちろん俺にはく~ちゃんの姿は見えない

佐々木「く~ちゃんとお喋りしているととても楽しくて、いつも時間が経つのを忘れててしまう。
友達とは本当にいいものだな。くっくっ…」
佐々木「さっきも中学生の時く~ちゃんと二人で遊園地に行った時
数人のグループにしつこくナンパされたのだが
その中に新任のイケメン教師がいたという設定で
大いに盛り上がっっていたところだ」
キョン「今設定って言ったよな…」
佐々木「言ってない。あれは本当にあったことだ」
キョン「…どこまでか本当にあったことなんだ」
佐々木「中学生のとき」
キョン「ほぼ100%捏造じゃねぇか!
せめて遊園地にいったことくらいは真実であってほしかった…」

 

佐々木「一人で遊園地行って何が楽しいんだい?」
キョン「一人って認めてるじゃないか」
佐々木「あっ、今のなし。く~ちゃんはとても可愛く
遊園地なんか行ったら絶対変な男が寄ってくるに決まってるから
仕方なく脳内遊園地で我慢しているのだよ。」
キョン「エア友達に脳内遊園地、だと……」
……駄目だこいつ…早くなんとかしないと……
佐々木「なんだいその目は?」
キョン「いや、その……友達とお喋りしたいならリアルで作ればいいんじゃないか? …そのエア友達てかじゃなく、現実の友達を…」

佐々木 「くっくっくっ… それが出来たら苦労はしないよ。」
うわぁ。
ごもっともすぎて返す言葉もない。

佐々木 「んっ?よく見れば君はクラスでいつも一人でいるキョンではないか」
キョン「今更気付いたのかよ!」
って言うか佐々木までキョンって呼ぶんだな…
佐々木 「学校が始まって一ヶ月もたつのに一人も友達がいないなんて、キョンは寂しいやつだな」
キョン「エア友達作ってるやつには言われたくねぇよ」
佐々木「く、くぅちゃんを馬鹿にするのか?
くぅちゃんは可愛くて運動神経抜群で優しくて
話し上手で聞き上手で、
それに……絶対に裏切らないのだ」
最後の部分だけ妙に常念がこもってる気がした。
佐々木「いいぞエア友達は。キョンも作ったらどうだい?」
キョン「遠慮しとく。それをやってしまうと人としてアウトな領域に足を踏み入れそうだ」
佐々木「それだとまるで僕が人として終わってる見たいじゃないか」
キョン「…」

 

佐々木「くっくっくっ… わかってるさ… これが逃避だということくらい。 だか仕方ないだろう。
友達の作り方なんてわからないのだから……」

まず、その変な笑い方をやめたらどうかと思ったが
友達の作り方がわからない

あまりにも共感できるその言葉に、俺はしばらく何も言えなかった
キョン「どうすりゃ作れるんだろうな……友達」
俺はため息混じりに呟いた。
佐々木も嘆息する。
キョン「………普通に友達になろうって言うのは?」
俺が言うと佐々木は「ふん」と鼻を鳴らした。
佐々木「そういうのはドラマとかでたまに見るが、よくわからないんだ。
友達になろうと言って承諾されたその瞬間から友人関係が成立するのかい?
これまでほとんど喋ったことのない者同士でも?
友達になることを承諾されて以降まったく会話をしなくても友達状態は続いていると判断していいのだろうか?」

 

キョン「…まぁ、そういうのがしっくりこないねは俺も同じなんだけどな」
佐々木「だろう?あ、そうだ!」
キョン「何か名案でも?」
佐々木「あぁ…、くっくっ…
お金をあげて友達になってもらうというのはどうだい?
ただの口約束よりも現実的な拘束力がありそうだろう」
キョン「寂しいすぎるだろそれは!」
佐々木「学校で一緒に過ごしてくれたら一週間千円とか、昼飯代おごるとか…」
キョン「愛人契約…いや、友人契約かよ」
佐々木「くっくっくっ…上手いことを言うな。大爆笑だよ。そう、まさに契約だ 僕と契約して友達になってよ」
微塵も面白くなさそうに淡々と佐々木はいった。

 

佐々木「……それはそうと、キョンは何か案はないのかい?」
キョン「お、俺か?
う、う~ん…」
キョン「部活を始めるってのはどうだ?」
佐々木「部活?」
キョン「同じ部活に所属すればイヤでも接点は作れるし活動を通じて仲良くなれるんじゃないかって思うんだか」
佐々木 「ふむ…部活か…
実に現実的でいい案だと思うよ」
キョン 「だろ?」
佐々木「しかしそれには問題がある」
キョン「えっ…?」
佐々木「考えてみてくれないか?今僕達は二年生の六月だ。
部内の人間関係がとっくに固まってるこんな時期に入部したらどうなる?」
佐々木「多かれ少なかれ確実に部内の人間関係にも乱れがでる。
『友達がほしいから』なんて理由で望まれてもいないのに入ってきてチームワークを乱す事になる…

今から入っても活躍できる実力があれば別だが…何か得意な事はあるのかい?」
キョン「……な、ないな…」
佐々木 「そんな新入部員…誰が歓迎するんだい?」
キョン「う……」
まったく反論出来ない…キョン「ごもっともです…」
佐々木「しかし部活…それは実にいい意見だ…
うん、そうだ!」
キョン「……?」
戸惑う俺に、佐々木はニヤッと笑みを浮かべた。


それから佐々木はさっさと教室を出ていってしまった。
よくわからなかったが、
一人で教室に残っていても仕方なないので俺は忘れ物を回収し家路についた。
 

家に帰って夕食を食べたあと、俺は宿題をするため鞄の中身を出した。
「ふう……」
ため息をつきながらノートを開いた…
この学校で、俺は浮いていた。
なんというかその、いわゆる不良?ヤンキー?みたいな目で見られていた。
原因は俺のこの外見にある。
中学時代などは普通にしてるだけなのに「どうしてそんな睨むような目をするんだ」と言われた事が何度もある
聖クロニカ学園は品行方正な学校と知られており
前の学校よりも落ち着いた雰囲気の生徒が多く、今のところ不良に絡まれたりということもないのだが、不良がいないからこそ余計に俺の外見が浮いている。
あとは… 天候初日に遅刻するという最悪のポカをやらかしてしまったのも大きいのかもしれない。

 

一ヶ月前のこと…
転校生は第一印象が大事と思い遅刻なんて絶対にいけない…
そう思って 俺は始業時間の2時間ほど前に家を出たのだが、
今思えばそれがまずかった
あの時同じ制服の奴がいればそいつについていけば学校につくこともできたであろう
だが時間が早過ぎて誰も同じ制服を着た学生はおらず
俺は間違えて全く逆方向のバスに乗ってしまった
そのあと、すぐ運転手に尋ねればよかったのだが満員のサラリーマンを押しのけて尋ねる事ができずバスに揺られ一時間…
結局終点まで行ってしまった…
そのあとさらに一時間以上かけてバスに揺られ
学校に着いたのだが
もう一限目は始まってるという転校初日にしてまさかの大遅刻をしてしまい
俺はちょっと泣きそうだった。
仕方なく授業の最中に一人で教室に入ると、新しいクラスメートたちが奇異の視線を向けた。

ちょっと目が赤くなっているのをごまかすために目を細め、
緊張で震えそうになる声をごまかすために声のトーンを極力落とし
無愛想に(俺としては無愛想なつもりは全然なかったのだが
家に帰ったあと携帯電話の録音機能で俺の挨拶を再現して聞いてみると
あまりにドスのきいた声だったので自分の声なのに軽く引いた)
挨拶した俺にクラスメートはざわめき、気弱そうな教師までもが
少し怯んだ様子で空席に座らせた。

……授業が終わったあとも俺に話しかけてくる同級生は誰もいなかった。

普通転校生なら前に住んでた場所てか好みのタイプとか
根掘り葉掘りきかれるものなので、
俺は事前にそれらの質問を想定してなるべく好印象を与えられるような良回答を頭の中に用意していたのだが、見事に無駄になった

それから一ヶ月。
第一印象で失敗した俺は、未だにその失敗を取り返せないでいる。
英語のパートナーはいつも先生だし、体育の準備体操で組むのは他のクラスの余ったやつ(露骨に俺のことを怖がっているのがわかる)で、
サッカーのパス回しの練習では滅多にパスは来ない
たまに恐る恐るという感じかコントロールを謝って俺の方に来るだけで、
しかもパスした相手は気まずそうに「ご、ごめん」と何故か謝る。
そう言われてしまってはこっちも気まずそうに「ああ…」と素っ気なく頷くしかない。
一度だけ試しに笑顔を作って「気にするなよ」と言ってみたところ、
相手は「ひい……っ?」
と縮こまってしまい、その日の昼休みに何故か「こ、これであの時の事は許して…」とジュースを差し出してきた。

昼飯も教室で一人で食べる。
一度購買でパンを買っている間に他の女子生徒が俺の椅子を使っていたことがあったのだが、
俺が戻ってくると慌てて一緒に食べていた同じクラスの女の子たちともども
教室を出て行ってしまった。
高校生男子にとって、「女子に避けられる」ことほどショックなことはあまりないと思う。
俺はその日のお風呂場で少し泣いた。
他にもこのような切ないエピソードは幾つもあるのだが、
思い出すたびに俺の心がダメージを負い
そろそろ限界なのでこのあたりで切り上げておく。

図書館や教室で勉強や読書をしてみたりといった『真面目アピール』もやっているのだか、今のところ特に効果は見られない。
そんな切なくて泣ける(もしもケータイ小説とかで『切なくて泣ける青春ストーリー!』
みたいな触れ込みで売り出そうものなら確実に苦情がきそうな)
自分の学園生活を思いながら、俺はサクッと宿題を済ませた。


そこでふと、放課後の教室で会話した佐々木のことを思い出した。
エア友達と楽しげに会話していたイタいクラスメート。
美人なのに……残念すぎる。


………でも、エア友達、か………

……楽しそうだったな佐々木…………。

ばちんっ!

いつの間にか真剣にエア友達の導入を検討している自分に気付き、俺は頬を叩いた。
「だ、駄目だ!そんなのに頼るようになったら本気で終わりだ!」
宿題も終わったし、今日はさっさと風呂に入って寝よう…。

翌日の昼休み
俺がいつものように一人で昼食を食べていると、佐々木が目の前にやってきた。
佐々木「キョン。 ちょっといいかな?」
そう言うと俺の返事も聞かず教室を出ていく佐々木。
キョン「えっ?ちょっ、おい!?」
俺は仕方なく彼女のあとを追う。
俺が出ていったあと教室が一斉にざわついたのがわかった。
足早で佐々木が向かったのは、校舎の端、人気のない階段の踊り場だった。
俺が追い付いてくると佐々木はくるりと振り向いて、
佐々木「とりあえず手続きは終わったよ」
キョン「…………手続き?」
佐々木「くっくっ…新しい部活の手続きだよ」
キョン「新しい部活?」
佐々木「ああ。人間関係ができあがってる既存の部活に入るのが駄目なら、自分で部活を創ってしまえばいいのだよ」
ここでようやく、俺は佐々木が昨日の放課後の話の続きをしていることに気付いた。
キョン「…あー、友達作り云々の話か。
そりゃたしかに新しい部なら人間関係も最初から始められるが…」
そもそも関係を構築する人間がいなければ話にならない。
既存の人間関係の輪に入らずに済むように新しい部を創るというのは
本末転倒のような気がした。
キョン「…って待て、今、『創部手続きは終わった』とか言ったな?」
佐々木「あぁ、言った」
キョン「…どんな部を創ったんだ?」
恐る恐る尋ねる俺に、佐々木はやたら自信ありげに告げる



「『隣人部』だ」

 

キョン「りんじんぶ?」
佐々木は頷く。
「『キリスト教の精神に則り、同じ学校に通う仲間の喜き隣人となり
友誼を深めるべく、誠心誠意、臨機応変に切磋琢磨する』部活動だ」

キョン「う、うさんくせー」
俺は素直に言った。
何をする部なのかまったくわからない。
キョン「ていうか、そんなんで創部の申請が通るものなのか?」
佐々木「くっくっ…この学校は良くも悪くも大らかだからなね。
頭にキリスト教の精神とかイエス様の教えとかマリア様の慈愛とか、
それっぽい名目を言っておけば大抵のことはごまかせる。
宗教はチョロいね」
クリスチャンが聞いたら激怒しそうなことを言う佐々木だった。
キョン「……にしても昨日の今日でそんな手続きを終えるなんてすごい行動力だな」
呆れ混じりに俺が言う。
そんな行動力あるなら、普通に部活に入ればいいのに。
佐々木「僕はこういう事務手続きとか、終わればそれっきりの無味感想な作業は得意なのだ」
キョン「さいですか」
佐々木「うん。テレビショッピングだって得意だぞ」
何故か得意げに佐々木は頷いた
テレビショッピングに得意不得意があるのだろうか。
キョン「んで、その隣人部? って、結局なにをする部なんだ?」
 

佐々木「くっくっ…、友達作りに決まっているではないか」


キョン「………その発想はなかった」

 

キョン「まあいいけどさ……。せいぜい頑張れよ」
すると佐々木はきょとんとして、
佐々木「なにを他人事みたいに言ってるんだい?
部員なのに」

キョン「は?」
佐々木「昨日勝手に帰ってしまったから、キョンの入部届は私が書いといたよ。感謝してもらいたいねくっくっ…」
キョン「するか!」
佐々木「くっくっ…キョンは先生に目を付けられていたようだね。
『キョン君が部員になります』って言ったらものすごく喜ばれたよ。
『彼が部活動を通じてキリスト教の友愛の精神を学び、
立派に更正できるように祈ってます』って」
キョン「更正もなにも、俺は不良じゃないのに!」
先生にまでそう思われていたショックで愕然とする。
佐々木「というわけで今日の放課後から活動を始めるよ、キョン部員」
踵を返し佐々木はさっさと歩き去っていく。
佐々木に友達ができない理由の一つは、人の話を聞かないからだと俺は確信した。
……ともあれ、なんか、そういうわけで。
俺は佐々木という変な子と一緒に『隣人部』という変な部活を始めることになった。

 

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最終更新:2011年05月25日 02:32
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