70-258「佐々木さんのキョンな日常 最終章 真相~再生その6~」

 「キョン君、佐々木さんから離れて!」
 その声は良く知っている人の声だ。でも――
 「誰ですか、あなたは」
 反射的に、俺は佐々木を自分の後ろに隠し、その人の前に遮る様に立った。
 声は朝比奈さんにそっくりだ。いや、その容姿も、まるで俺達が良く知る朝比奈さんが大人になったような感じで――

 ”朝比奈さん(大)”
 俺の頭の中に、答えが響く。と、同時に俺の頭の中に、膨大な記憶が――としか言いようのない情報が流れこんでくる。
 「キョン!!」
 佐々木の悲鳴にも似た声が聞こえ、俺は自分の体が佐々木に支えられている事に気付いた。
 「だ、大丈夫だ、佐々木」 ”何でここに佐々木がいる?”

 そいて、この場にいたのは朝比奈さん(大)だけじゃなかった。

 「キョン!!」
 涼宮――ハルヒ。
 「なぜここに涼宮が?」 ”ハルヒ、一体これは”

 そしてもう一人。
 「時は来た。終わりにして始まりの時。歪空座標の終焉、偽未来の消滅。鍵が動き、扉は開く」
 朗々と、まるで神託を告げるかの如く語りそこに立つのは――
 周防九曜――光陽学園の生徒にして谷口の彼女。 ”天蓋領域の使者”

 二つの答え。どちらも真実。どちらも現実。
 俺が愛した2人の女性。佐々木、ハルヒ。
 この感覚を俺は過去に体験している。二年生の春。佐々木と再会した時より始まった、あの事件。世界が二つに分かれ、
そして融合した。ハルヒを愛した俺の世界の出来事。

 世界の色が変わって行く。この感覚も覚えている。
 閉鎖空間。ただし、これはハルヒのものではない。この世で閉鎖空間を生み出せるのはもう一人だけ。
 すなわち佐々木だ。
 一人を除いて、俺達は閉鎖空間に閉じ込められた。


佐々木の閉鎖空間。ここに入るのは二年生になったあの世界、ハルヒを愛した俺がいる世界で、橘と共に入った
時以来だ。ハルヒと違い、佐々木の閉鎖空間は常時存在し、穏やかな世界である。
 閉鎖空間とは”力”の保持者の心が反映したもので、それを生みだすことにより、”力”の保持者たちが無自覚
に生み出すエネルギ-。あるいは情報の奔流を調整している。実はそうでもしないと、”力”の保持者たちが発生さ
せるエネルギ-は溜め込まれて、それが一定の値になると、深刻な影響が出る。
 正直、なぜこんな能力が佐々木とハルヒに存在していたのかがわからない。しかし、それであるが故、二人は妙な
連中を呼び寄せてしまった。すなわち、宇宙人、未来人、そして、超能力者だ。

 閉鎖空間に取り込まれたのは四人。俺、佐々木、朝比奈さん(大)、そして周防九曜。
 ハルヒは”外”にいるらしい。
 「ここなら、ゆっくり話が出来るからね。特に涼宮さんには聞かれたくない話でもね。そうだろう、朝比奈さん?」
 佐々木は笑いながら、しかし目の奥に憎しみと怒りと哀れみの感情を宿しながら、朝比奈さん(大)に視線を向ける。
 「私も涼宮さんもお互いいい場面で邪魔されたんで、少し腹ただしいのだけど、あなたたちの勢力が現れるのはあの
場面だと思ってたから。予想通りね」
 朝比奈さん(大)に対する佐々木の言葉はかなりトゲトゲしさが感じられる。それに対して、朝比奈さん(大)は答え
ない。
 「キョン。君も僕と同じく”二つの記憶”を持っているね。あの場面がどういうものだったか、言わなくてもわかるよ
ね」
 佐々木の言うとおりだった。なぜ、あの場に涼宮が―ハルヒがいたのかは、今ならわかる。
 佐々木を愛した世界、これをα世界として、ハルヒを愛した世界、これをβ世界とすると、β世界の日時はα世界と同
じ北高の卒業式の日。β世界の俺とハルヒがお互いの気持ちを確認し合い、団長と団員の関係を終わらせ、恋人として歩
み始める場面だったのだ。α世界の俺と佐々木が全く同じようにお互いの気持ちを確かめ合っていたように。

 「佐々木さん、あなたがやっていることは、私たちにはとても容認できることではありません。既に時系列及び時空連続
体系に重大な齟齬が生じ初めています。このままでは未来が崩壊する可能性が出てきました。時空改変――あなたがやって
いることは私達にとっては時間犯罪とみなされることだわ」

 「ふざけるな!」

 日頃冷静な佐々木が初めて見せた怒りの言葉と表情。朝比奈さん(大)の言葉に、佐々木の積もりに積もった感情が爆発
した。

 「偽りの時空間の上に存在している者たちがよくもそんなことを言えたものだわ。過去に介入し続け、自然に進むべき時間
系体を捻じ曲げ、自分たちが望む未来を作り上げた人間たちが、他人を犯罪者扱いとは。滑稽極まりないわ!」
 「あなたに何がわかるというの!絶望に喘ぐ人々を救うためにはあの方法しかなかった。その過程で多くの犠牲者が出た。私
もかけがいのない人を失った。その人は二度と戻ってこない。たくさんの犠牲の上に私が生きる世界は存在しているのよ!」
 朝比奈さん(大)の血を吐くような叫びにも、佐々木は全く動じた様子はない。

 「そのために、キョンと涼宮さんを結びつけた。それは本来ありえない流れだったのにね。”力”の発動要件と次元固定因子は、
”鍵”と”保持者”との接触により生み出され、やがて時間流を決める大きな要因となる。だからこそ、あなたは中学二年生の涼宮
とキョンを接触させた。それこそ、時間介入じゃなくて?」

 「なぜ、あなたがそのことを・・・・・・」
 朝比奈さん(大)の顔が青ざめていたが、ハッとしたような表情になり、周防の方へ顔を向けた。


無表情の周防は、先ほど喋った時とは、うって変わってお黙り人形と化していたが、朝比奈さん(大)
に視線を向けられて、薄い微笑を浮かべた。
 「九曜さんが長門さんと同じ属性であるならば、長門さんと同じような事が出来る。異次間同期も可能だ。
彼らは時空改変の影響を受けない事が可能な存在。つまり人類が改変を行おうとも、観察者として”外”から
知る事が可能だから、真実を知る事が出来る」
 そういえば、周防は、β世界で長門有希が起こした時空改変の時、現象の”外側”で観察していたと言ってい
たな。
 しかし、真実とは一体何なんだ?

 「キョン。僕等の世界は未来人によって改変された世界なんだよ。君と涼宮さんが結ばれたのは、君自身の選
択というわけじゃない。仕組まれた選択なんだよ」
 なんだって?どういうことだ?
 朝比奈さん(大)は佐々木の言葉に黙ったままだった。。
 「キョン。君が涼宮さんと最初の接点をもった時間軸はいつだい?」
 北高に入学・・・・・・と言いかけて、それが間違いであることに気付く。
 ハルヒが中学1年の時、俺はジョン・スミスとして、朝比奈さんの手引きで出会っている。ハルヒを変人と認定
させた校庭落書き事件で、俺と出会った事がハルヒを北高に入学させたきっかけであるのは間違いない。
 だが、今冷静に考えると、あれは朝比奈さんがいないと成り立たない出会いだ。中学時代にはハルヒの存在など
俺は知りもしないし、知り合う接点もない。

 「朝比奈さんは、未来の勢力は僕より先に、君と涼宮さんを接触させる必要があったんだよ。涼宮さんや僕が操
れる”力”は、僕等単体じゃその力は作動しないんだ。キョン、君がいて初めて作動するんだよ。君が”鍵”と各
方面から注目されているのはそのためだ。僕と涼宮さんは”力”の扉で、それを開ける鍵が君なんだ。」

 にわかには信じがたい話だ。古泉がβ世界で俺のことを調査して、俺のことを平凡な一般人と決め付けていたが。
 「キョン。”鍵”自体には力がないが、”力”を作動させるには必要なものなんだよ。パスワ-ドみたいなものさ。
それ単体の意味は起動装置のスイッチでしかないが、それがないと力全体を起動させることもできない。中学時代の
涼宮さんはエキセントリックなことをやったらしいが、高校時代みたいな不思議現象を巻き起こしたことはないと聞
いている。次元断層を作ったらしいとも聞いたけど、それはあの時、キョンが未来から来て涼宮さんと接触したから
作動した。涼宮さんが求める『不思議なもの』が涼宮さんの前に現れるための布石だったわけだけど」

 朝比奈さん(大)はずっと黙ったままだ。佐々木の言葉を肯定も否定もしない。だが、佐々木の言葉はおそらく真
実だ。
 だが、佐々木よりハルヒを先に接触させる必要がなぜあったのかがまだはっきりとわからない。
 「次元改変能力には、実は表裏一体の能力があるんだよ。次元固定因子能力。改変された世界は、かなり不安定なモノ
で、へたをすれば、消滅する危険性がある。その不安定な世界を固定化させるのが次元因子固定で、それがあるからこそ、
世界改変なんて危なっかしいものが可能になる。未来人――キョン、藤原くんを覚えているかい?」

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最終更新:2013年04月29日 14:54
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