70-483『辞めたい理由』

※キョン子注意。キョンとは双子設定。

県立北高校女子ソフトボール部。同校史上最強と誉れ高いチーム。
これは、そのチームにいる控えピッチャーと、控えキャッチャー。そして控えキャッチャーの双子であるマネージャーの物語。

剛球投手、長門有希。その女房役、朝倉涼子。意外性のファースト、朝比奈みくる。守備職人のセカンド、橘京子。恵体剛打のスラッガー、サード鶴屋。鉄壁のショート、周防九曜。レフトに俊足阪中、センターには5ツールプレーヤー、涼宮ハルヒ。ライトに巧打の喜緑江美里。

「中学でソフトボールは辞めるはずだったのに、どうしてこうなった。」
ポニーテールの少女…キョン子はレガースをつけながら溜め息をついた。
「俺が知るか。というよりは、俺を巻き込むな。」
キョン子の双子であるキョンは、盛大に溜め息をつく。
「愚弟が。どうせハルヒか長門に鼻の下伸ばして入部したんでしょ。」
「それは違うぞ、愚妹。」
この二人。お互いに自分が兄姉といって譲らないのであるが、そこはどうでもいい話だ。
「キョン子、用意はいいかい?」
「ああ、佐々木。今行く。」
レガースをガチャガチャ鳴らし、キョン子がブルペンに走っていく。その後ろ姿を見守りつつ……
「はぁ……仕事すっか。」
キョンは大量にある洗濯物を見て溜め息をついた。
汗まみれのシャツに、靴下。中には下着を出すバカもいる(確信犯だが)中、キョンは洗濯物を洗濯機にぶちこむ。
谷口あたりは「あの美人達の汗にまみれたものを触れるなんて」と羨ましがっていたが、キョンにしてみると代わってやりたかった。
汗や匂いに男女差はあまりない。感覚の違いだ。
「うおっ…!くせぇ!」
匂いフェチには天国だろうが、キョンには地獄以外何物でもない。
さっさと洗い乾かし、とっとと帰りたいキョンであった。


投球練習をする佐々木。
それを受けるキョン子。
中学からの恋女房。
この二人がスタメンになれない理由は、長門、朝倉の実力もさることながら、二人の欠点にある。
佐々木は、イップス。
キョン子は、打撃が下手すぎる。
この欠点は、とりわけキョン子が重症だ。
中学時代、通算打率は1割、ホームラン3本。ヒットの半分がホームランという、当たれば飛ぶバッター。因みに他は全て三振。ゴロひとつない。おお、もう……。
キョンが皮肉で
『振り回~せ キョン子 キョン~子~♪
確かに三振多いけれど♪
振り回~せ キョン子 キョン~子~♪
当たればホームラン♪』
と、生稲晃子の『麦わらでダンス』調にうたったところ、それが彼女のヒッティングマーチとして定着。試合で打席に立てば、ベンチからまで歌われるというネタキャラぶりである。
キョン子の名誉の為に言っておくと、キャッチャーとしてであれば、朝倉よりも上手い。
インサイドワーク、リード、どれを取っても非凡であり、手首が強く、肩も強い。ただ打てなく、性格的に扱いづらいだけだ。
「ソフトなんて辞めたいんだが……」
それがキョン子の口癖だ。

佐々木もまた、高校時代は勉強に集中しようと考え、ソフトボールを辞めようとしていたが……
「頼む!佐々木、あたしとバッテリーを組んでくれ!あたしゃ長門の球を受けるのは嫌だ!」
というキョン子の泣きつきに遭った。
「長門さん?ああ、あの有名な剛球ピッチャーか。彼女も北高なのかい?」
キョン子は入学初日に長門に捕まり、長門のマンションで長門に一晩説得されたのだという。
「あなたは私とバッテリーを組むべき。……許可を。」
と、長門に無表情に迫られ、朝倉のにこやかな笑顔に隠れた殺意を向けられ、泣きながら承諾したのだという。
「……どうしようもない奴だね、キミは……。でも、イップスを抱えたピッチャーが、使い物になるのかね?」
「あたしのリードなら、佐々木のイップスだって最小限に抑えきれる!あたしゃあんな球を受けて指を折りたくない!」
と泣き落とされ、渋々承諾し、入ったソフトボール部。入った先は……
「「なんだ、ただの最強チームか。」」
という、何のために自分がソフトボールなんかやるのか、理解出来ない位のチームである。
「いつ辞めてもいい」
という条件を取り付け、二人は入部したが……
「監督ー!ジャーマネ連れて来たんだから!」
「離せコラァーッ!涼宮ぁーッ!」
「ぐ、愚弟……!」
「キョン……!」
……と、退部しようにも出来ない状況になり、今日に至る。
ほっとくと、涼宮ハルヒか長門有希に、キョンが喰われる。それが二人の共通認識だ。


戦略や技術指導などは、監督である森と、もう一人のマネージャーである古泉一樹の仕事だ。
橘京子は古泉を見て一目惚れしてしまい、諸先輩方を押し退けレギュラーに定着した。呆れた努力家である。
キョンは雑用。お茶汲みから始まり、事務処理や洗濯などを一手に引き受けている。ブツブツ文句言いながらもきちんと役割をこなすのが彼らしい。
フラグ建築士、フラグクラッシャーの技量は健在のようで、ハルヒ、長門のアプローチに対するスルースキルは、最早芸術の領域である。
「ハルヒ、お前動き悪いぞ。あ?筋肉痛?……ったく。横になれ。マッサージしてやる。」
「長門、肩を痛めてないか?アイシングしてやるから、こっちに来い。」
これに味をしめた二人だったが、二匹目のドジョウは無かった。
「キョン!腰揉んで!」
「肩を痛めた。冷やして欲しい。」
「丁度良かった。ほれ、部費でマッサージの機械とアイシングのマットが落ちたんだよ。」
「」
などなど。
こきつかわれるので、後任のマネージャーが入ればすぐにでも辞めたいキョンである。
因みに古泉とは仲が良く、仕事がない時は二人で盛り上がっている。
「今度、谷口、国木田、藤原と遊びに行こうぜ。」
「んっふ。また全敗ナンパですか。そういえば田丸さんに彼女が出来たみたいですよ?」
「マジかよ!はぁーあ、彼女欲しいなぁ。」
「全くです。僕はあなたほどモテませんし。」
「ほざけ、橘や阪中さんなんかお前にベタボレじゃねぇか。モテる奴は言うことが違うぜ。」
「それはないですよ。涼宮さん、長門さん、佐々木さんの三人に好かれているあなたこそモテモテでしょう。」
「ねーよ、馬鹿。」
「こっちも同様ですよ。」

フラグをバッキバキにへし折られた五人が、大地に膝と手をつく。
「ぜ、前途多難っさね!ハルにゃん、ゆきっこ、佐々にゃん、阪中っち、きょこたん!」
「……鈍いって罪よね。あのマネージャー二人、頭かち割って中身覗いてやろうかしら?」
「ふええ!朝倉さん、ナイフはだめです!」
「愚弟が。あたしゃあの中なら藤原がいいかな?古泉じゃ阪中さんと橘に殺されそうだし、国木田だとガキ臭いし。愚弟と谷口は論外で。」
「――面食い――――」

なんだかんだと仲の良いソフトボール部であった。


※クロスオーバー注意

練習が早めに終わり、キョンと古泉は谷口、国木田、藤原と合流した。ファミレスでだべり、そこはかとない非リア臭と童貞臭さを漂わせる集団。
ザ・男子高校生の集団である。

ソフトボール部の試合が迫り、相手は石門高校という新設高校らしい。
エースの牧瀬が中心のチームのようだ。データの委細は不明。ただ、微に入り細に入ったデータを駆使しながら戦うらしい。
らしい、というのは、確定したデータが何も無いからである。
いやらしい戦略を立て、勝利を貪欲に目指してくる。それだけが確かな情報だ。何かと顔の広い谷口曰く、この石門高校のマネージャーは男であり、この男が戦略、戦術を組み立てているのだという。
「フゥーハハハって笑い方をするらしいな。確か名前が鳳凰院凶真、だったはずだな。」
高校生にもなって厨二はやばかろう。そう考えるキョンと古泉。
「あー、彼女欲しいよなぁ。」
藤原が机に突っ伏す。
「全くだよ。」
国木田が溜め息をつく。因みにこの二人。見事なハチクロ状態。
キョン子→藤原→鶴屋→国木田→キョン子
どこに手をつけていいのかわからない状態である。
国木田は、キョン子の為だけに北高を受験。中学時代からキョン子を追っている。
高校で藤原と出会ったキョン子は、藤原に恋をした。イケメン、ヘタレ、Sっぽいのに実はどMという、彼女の好みのどストライクだったようだ。
藤原はキョンと古泉と親しくなり、両親の離婚から離れていたみくると再会し、たまたま近くにいた鶴屋に一目惚れ。性格を知り、ますます熱を上げる。
鶴屋は、昔から国木田が好きだという。
では反対は。
キョン子は国木田については、ただの弟の友達。
国木田は鶴屋については、ただの幼なじみ。
藤原はキョン子については、ただの友人の妹。
鶴屋についても同様だ。

谷口?アルバイト先のあきら様と周囲から公認状態だとでも。周防には三日でふられたようだが。

皆が幸せに気付いていないパターン。そして次点を選べば最高の幸せを掴めるというおまけ付きである。

「はぁ……周防……」
「お前、まだ未練あるのかよ……」
「全く……。困ったものです。」

こいつらに関しては、似た者のフラクラ同士だとでも。手遅れになって刺されても知らんぞ、というのが三人の見解だ。
古泉に関しては森、キョンに関しては親戚のお姉さんからの失恋の痛手がまだ残っている、と言い訳をしておこう。


キョンが自宅に帰ると、ローファーが二つ並んでいた。
「あ、キョンくん。キョンちゃんの部屋に佐々木お姉ちゃん来てるよ。」
「佐々木が?……はぁ。あの愚妹、また俺に送って行かせるつもりだな。」
中学時代から、キョン子は佐々木をキョンに送らせる。キョンにしても特に断わる理由もなく、佐々木と会話するのは楽しいので、それはそれで一向に構わない。
佐々木を送るようにキョン子から言われ、キョンが自転車を用意する。
「そろそろ試合だな。……イップス、克服出来そうか?」
「わからない。」
佐々木は首を振る。
「ゆっくり克服していけ。あいつらは、中学の時の連中じゃないんだ。」
「……すまない、心配をかけて。」
佐々木が寂しそうに笑う。キョンは佐々木の頭を撫でた。
佐々木のイップス。それは、内角球である。
クローズドスタンスのバッターの足に速球をぶつけ、膝を砕いて以来、佐々木はクローズドスタンスのバッターの内角に投げきれなくなった。
キョン子のリードでだましだまし投げてきたが、限界を迎え、キョン子以外の選手達から総すかんを受けた。
これもまたイップスに拍車をかけ、佐々木はついに速球すら投げれなくなってしまい、最後はハルヒ、長門、朝倉を擁する東中を相手に大炎上。コールドゲームで幕を下ろす。
試合は長門の一人舞台であり、完全試合達成直前に、キョン子が長門の剛速球をレフトスタンドに豪快に叩き込み、完全試合を意地で阻止。焼け石に水ではあったが、ほんの僅かに溜飲を下げた。
責任を感じて泣く佐々木をキョン子が慰めるが、他の選手達は白けた雰囲気。
ソフトボールなんか二度とやるもんか。佐々木にも絶対させない。そうキョン子は心に決めていた。が。
長門はキョン子のリードを絶賛し、キョン子とバッテリーを組む為に北高への進学を決めた。朝倉には想定外もいいところだ。
長門に口説かれ(脅迫ともいう)、無理矢理ソフトボールをさせられ佐々木を巻き込み、今日に至る。
イップスの要因である精神的な負荷。これが取り除かれない限り、イップスは治らない。
またはイップスが出ないようなやり方をするか。
後者は、キョン子がやっている。配球を工夫し、イップスが出やすくなる内角を使わないで済むよう、最大限に気を回している。
前者はキョンが協力し、完全防備でクローズドスタンスで打席に立ったりしている。
因みに選手達には協力させない。理由?佐々木がコントロールを乱してどこに球が来るか分からず、物凄く危ないからだ。


「そうだ、佐々木。少し涼んでいかないか?」
「涼む?お茶でもしていくのかい?」
佐々木の目が輝く。
「ああ。喜緑さんから美味しいコーヒーの店を聞いてだな。」
「くっくっ。それは楽しみだね。」
ソフトボール部不動のライト、喜緑江美里。コーヒーには一家言あり、彼女の紹介するお店にハズレはない。
久々にキョンとゆっくり話せる。佐々木は思わぬ僥幸に微笑んだ。が。
喫茶店に入ると、そこには……非好意的な視線がいくつかあり、助けを求める視線もあった。

「……なんであんた達が二人で来るのよ。」
「私という個体は、佐々木○○の抜け駆けに対して深い憤りを感じている。」
「(キョンくん、助けて……)」
ハルヒ、長門の険しい視線に、朝倉の崩壊しつつある胃の粘膜。

「空気読むのね。」
「全くなのです。」
「(助けて下さい!お願いしますよ!)」

泣きそうな表情を浮かべた古泉と、険悪な橘と阪中……。

「こ、古泉、朝倉、どうだ?お茶を一緒にしないか?」
「そ、そうですね!朝倉さん、ご一緒しましょうか!」
「え、ええ!古泉くん、キョンくん、お茶しましょう!」
慌てふためいた三人が、同じテーブルに固まる。佐々木もキョンのテーブルに移ろうとしたが……長門に引き寄せられ、ハルヒのテーブルに座る破目になった。
結果的に怨みを一身に買う破目になった朝倉は涙目である。

確かにコーヒーは美味しかった。だが、ブラック好きを公言する朝倉、古泉、キョンにしては珍しく、ミルクたっぷりのカフェオレにして飲んでいたが。
乳脂肪は胃の粘膜に優しい。

こうして、ソフトボール部の一日は過ぎていった……。

To Be continued

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最終更新:2013年06月02日 02:40
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