25-244「佐々木の初恋」

大学生になった俺は佐々木と一緒に酒を飲んで話している。
ひょんな事から初恋の話になった。

「キョン、キミの初恋はいつなんだい?」
「俺の初恋は従姉のねーちゃんだ。ずっと俺がねーちゃんを守ってやるとか思っていたんだ・・・。」
「それで結局どうなったんだい?」
「ねーちゃんは知らない男と駆け落ちしてしまってそれ以来連絡取れてない。
 実際ねーちゃんが駆け落ちして居なくなったと知った時は相当ショックだったぜ。」

昔を少し思い出して俺は感傷に浸っている――
そんな俺を見てかは知らないが佐々木も口を噤んでいる。
このままだと長い沈黙が続きそうだから俺が話を再開するべきだな――

「さすがにもうねーちゃんに対しての恋心なんて残っちゃいないが、連絡くらいは取れるようになりたいな。」
「そうかい、初恋は実らないなんて言うけど・・・キミの場合もそうだったんだね。」
「そういう佐々木はどうなんだ?
それとも恋愛なんて精神病の一種だって言っていたからやっぱり恋なんてしてないのか。」

一瞬佐々木は戸惑ったような表情になったが、偽悪的な微笑を浮かべて話し始めた――

「キョン、キミも失礼な奴だね。
確かに僕も最初は恋愛なんて精神病の一種だと思っていたよ。
少なくとも中学3年の時にキミに話した時まではね。」
「それは初耳だな。俺も話したわけだし、お前の初恋とやらを聞かせてもらおうじゃないか。
俺だけ話すなんてフェアじゃないと思うぜ?」

佐々木も恋をするんだなぁと思って少し安心した。その反面、ちょっと寂しくも感じた。
こいつにちゃんとした恋人が出来れば俺とこうして話す機会も減るんだろうな――
それまではきっとこういう関係が続くんだろうな。佐々木にとって俺は親友だからな。

「僕が初恋を感じたのは高校1年生の時だよ・・・。」
高校のクラスメイトか?たぶん、俺の知らない奴だろうな
しかし、佐々木を恋に落とすなんてどんな奴か気になるな・・・。俺には皆目見当もつかない

「相手は僕の中学のクラスメイトさ。
僕は中学3年の時から無意識的にはその人の事が好きだったんだと思うよ。
キミの知っての通り、当時の僕は恋なんて精神病だとか言っていたけどね。
でも、僕は気付いたんだよ。好きな人と進路を別にしてね。
今でも同じ高校に行っとけば良かったって少し後悔しているよ。」

誰だろうな・・・佐々木の初恋の相手は。中学のクラスメイトなら俺でも知っているはずだ。
しかし、俺は佐々木と親しくしていた男子など記憶にあまりないのだが――まさか国木田か!!
 
 
 
 
 
 
 
佐々木の初恋の相手は結局誰だか分らなかった。
聞いても相手の名前は決して教えてくれなかった。
何故か分らないが無性に佐々木の初恋の相手が誰なのか気になった

本当は誰かにこんな事を聞くのは駄目だって俺も分っている。
だが、俺は気付いたら聞いていた――佐々木の初恋の相手かもしれない国木田に。

「最近、佐々木と飲んだ時に初恋の話になった。
俺の初恋相手なんてどうでもいいだが、佐々木の初恋の相手がうちの中学に居るそうだ。
まさか俺はうちの中学にその相手が居ると思わなくてな」
「キョン、何が言いたいの?」
「お前に誰かその心当たりが居ないかって事だ。
俺は佐々木の初恋の相手が誰だか凄く気になっている。
俺にも何故こんなに佐々木の初恋相手が気になるかはよく分らないが。
もし、お前に心当たりがあるなら教えて欲しい。」

国木田が地動説を信じているコロンブスがインドに向かう途中にリヴァイアサンに会ってしまったような表情をしている。
そうか、やっぱり国木田にも誰か分らないんだな・・・。
一緒に塾通いしていた俺にも分らないんだから仕方ないと言えば仕方ないか

「僕はその相手分るけど。」
本当か
「分ってないのはキョンくらいじゃない?うちの中学のクラスメイトは全員わかると思うけど」
俺以外の奴は知っている?Why?なぜ?
「国木田、誰だか教えてくれ!!頼む!!」
「僕としてはキョンが何でそこまで佐々木さんの初恋の相手が誰だか気にしてる方が気になるな。
黙っていてもクラスメイトの誰かに聞いてしまうだろうし、教えてあげるよ。
彼女の初恋の相手は間違いなくキョンだよ。たぶん誰に聞いてもそう答えるんじゃないかな」
「あいつは俺の事を親友だと言っていたし、絶対違うと思うぞ。」
「あんまり鈍感すぎると嫌われるよ、キョン。
それより僕の問いに答えてくれない?どうしてキョンはそんなに佐々木さんの事が気になるの?
でも、それは僕に言う事じゃなくて、彼女に言うべきだね。」

次の日、俺は佐々木を呼び出して話す事にした――

「今でも初恋の相手が好きなのか?」
佐々木は返事をしなかった。
「聞いてくれ、佐々木。
俺は昨日お前の初恋話を聞いた時は驚いた。ずっと佐々木は恋なんてしないと思っていた。
でもその話を聞いた時に俺は何とも言いがたい感情を抱いた。
考えてみると、俺は誰か分らない佐々木の初恋の相手に嫉妬していたんじゃないかと思う。
そこで俺は思ったんだ、佐々木の事が好きなのかもしれない。いや、俺は佐々木の事が好きだ。
だから――」
「キョンもうそれで十分だよ、僕もキミの事が好き。
初恋は実らなかったという話を聞いてもうキミの事を諦めようかと思っていたよ。」

――気付いたら俺は佐々木を抱きしめていた。

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最終更新:2007年11月24日 13:46
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