27-408「ラジヲ」

 僕とキョンとの思い出を聞きたいって?
そんな事を僕に聞かないで欲しいな。僕も彼も一般的で普通なスクールライフを送りたいと思っていたから、彼とのの間でやましい、
キミに言わせれば色っぽい話なんて全然無かったよ。僕も彼も一般的な学生同士だった、僕はそう思うね。
 それでもいいから話をしろって?僕たちには本当に何も無かったんだよ。

 それは中学三年の最後の学期に入った頃だった。
その頃になると授業も受験科目を除いて、体育や音楽、家庭科(総合だっけ)は僕らにとっては息が抜ける時間と思っていたので、授業
の合間のリラックスと思って気構えしていたんだよ。
 そんな時に降り掛かったのが総合・技術の時間の「ラジオ作成」の実習だった。
お父さんの頃はもっと単純な構造らしかったけど、僕達に与えられたのは立派な筐体があって、プリント基板に何十個の部品を半田付
けして作る、FM/AM/短波(なんで?)対応の、それはそれは立派なラジオの部品達であった。
どうやらこれらの部品をアッセンブリしてラジオを組み立てろと言う事らしい。

 クラスの女子の視線は何故か僕に降り注いだ。
佐々木さんならきっと・・・・と背後から声がするけれど、冗談じゃないよ。僕だってこんなの初めてなんだよ。
取り付けようとしたコンデンサ(たぶん)がハンダゴテの熱でパツーンとひび割れて、僕の不器用に抗議の音を立てた。
僕はコホンと咳払いをして次の部品に取りかかったけど、今度はハンダゴテの熱に負けたのか、リード線が溶けて力無く倒れた。
これは古代の刑罰の現代版なの!?と抗議の声を挙げようとしたら、国木田君に背中を押されたキョンが女子の輪の中に押し込まれた。

「お、お前らちゃんとやってっか?」
素っ頓狂な声を上げてキョンが声を掛けたけど、何さ、僕に話し掛けるより2オクターブも高いよ。緊張しているのかい?
女子ならばいつも僕が傍にいるじゃないかと思った矢先、キョンは僕の後背に移動して手を取りつつハンダゴテを握らさせた。

「半田付けって難しそうでコツを掴めば簡単なものさ」
僕の肩越しにキョンが説明を始めて、僕は本当にビックリしたよ。
キョンが言うには半田を扱うには温度を見極める事が必要で、それは余熱の段階から始まるらしい。半田を小手先に当ててすぐに溶け
る様な状態にならないとダメらしい。
そんな温度になったハンダゴテをリードと基板の両方に当てて、鮫肌のリード線が少し艶っぽくなった瞬間に半田を当てて、溶けた
半田が表面張力でリードと基板に伸びる様にするのがポイントらしい。

 僕も言われるがままに試してみたけれど、キョンの言う様に上手くは行かず焦燥感を感じてしまった。
そのうちにキョン秘伝の方法を会得した女子達が、ラジオから軽やかな音を奏でる様になり僕はますます焦って失敗を繰り返したよ。
そんな僕を見てか見ないか、キョンは自分のラジオと僕のを取り替えて「あと少し、これを仕上げろよ」と言って席に戻った。
 な、なんだいキミ達、僕はいかがわしい事は何もしてないよ!確かに、周りの視線が痛々しかったね。

 それからいくらか過ぎて、机の上にはあの時のラジオがある。
 奏でる曲に懐かしさを憶えつつ、僕はリクエストを1つお願いする事にした。

 あの人の元に届きますように・・・・。

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最終更新:2008年01月05日 20:15
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