本にしてみよう

075

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075.エスケープ


(……勝てないな)

一撃受け止めただけで、♀クルセイダーは率直にそう思った。
ブラックスミスが襲われるのを見て即座に助けに入ってしまったが、無謀だったかもしれない。
腕には重い痺れが残っており、♂ブラックスミスの斬撃の威力を物語っていた。
相手はオーラなのに加えてブラッドアックスを持っている。対してこちらは、今にも折れそうなナイフ。
不利だった。途方も無いほどに。

(かくなる上は……)
ちらりと、横目で♀ブラックスミスを見やる。
まだ座り込んだままだが、外傷は特に無いようだ。
走ることぐらいはできるだろう。
ナイフで牽制しながら、じりじりと後退する。
ブラックスミスのもとまで下がると、腕を引いて立ち上がらせた。
「……良いか、合図したら全力で走れ。その後生き残れたら……アルデバランの旅館で会おう」
小声で♀ブラックスミスに伝える。
それと同時に、手の中に少量の砂を握った。
こういう手は好きではないが、なりふり構っていられる状況ではない。
まだ心ここにあらずといった感じの♀ブラックスミスであったが、言われたことは理解したらしく、小さくうなずいた。

「……殺す」
ブラックスミスが間合いを縮め……

「――走れっ!!」
刹那、三人が三様に動き出した。
走り出す♀ブラックスミス
斧を横に構え、一跳躍で詰めた♂ブラックスミスが射程に♀クルセイダーを捉える。
そして♀クルセイダーは手の中の砂を♂ブラックスミスの顔面に投げつけた。

「……っ!!」
ブラックスミスが一瞬怯む。
その隙を逃さず、♀クルセイダーはバックステップで間合いを取る。
視界を奪われた♂ブラックスミスは斧を滅茶苦茶に振り回したが、それが♀クルセイダーに当たることは無かった。

(これなら……)
逃げ切れる。そう確信して彼女は振り返った。
しかし――。

「なっ!?」
かなりの距離を離したはずのブラックスミスの姿が、小さくながらも見えたのだ。
しかもそれは、だんだんと近づいてくる。
(しくじった!!)
ブラッドアックスの移動速度増加という効果を、すっかり失念していたのだ。
(……くっ)
逃げ切るのは無理。
瞬時に彼女はそう判断した。
アルデバランに向けていた進路を、逆に取る。
戦うしかなかった。たとえ勝ち目が薄くとも。


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