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004.狸

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004.狸

先ずは、一人。
手と、それから袖を汚す鮮血を、目の前の死体から剥ぎ取った外套で、しっかりと拭き取りながら、商人は数を数えた。
そして、彼女は、考えていた。自らが、これから取るべき方策を。

自分の武器は、細身の短剣…スティレット、と呼ばれる種類の物。
それから、自分自身のあどけない、とも呼べる容姿と、商売で培った演技力。
物理的な意味での武器は…り、といっていいだろう。

普段振り回している斧に比べれば、いささか頼りないようにも、それは見える。
だが、自分が取るべき立ち回りを考えてみれば、実に都合のいい武器であった。
虚を突き、倒せない相手はやり過ごし、集団に潜りこめる機会があれば、潜りこんで他者を利用する。
純粋な戦闘能力で、状況を生き残ろうと考えるほど、彼女は愚かではなかった。

もっとも…今の狩人にいては、少々巧く行き過ぎた気もする。
元々が、自身の立てた方策を実行するかどうかの賭けでもあったのだが…いくらなんでも毎回、ああは行くまい。

そして、彼女の考えは、自己戦力の分析から、敵兵力の予想へと移る。
自分にとって最も恐ろしいのは、飛び道具だ。特に、弓使い。
目の前の死体を目標に選んだのは、その理由もあった。
こちらからは、攻撃のしようがなく、逆に相手からは撃ち放題。
逃げるにしても、雨霰と降り注ぐ矢を避けながら、森の中を逃げ続ける自身→自信は商人にはなかった。
他のタイプの脅威…たとえば、魔術師や、暗殺者、騎士といった連中も居るかもしれない。
だが、魔術師や騎士ならば、なんとか逃げ切る自身→自信はある。
暗殺者やローグについては…発見されない可能性に賭けるしかなかったが。

随分と、分の悪い賭けね…

しかし、そのステージに乗ってしまったからには、嫌が応にも勝利するしか選択の余地は無い。
当面の目標は、弓手に発見されない事だろう。

そして、彼らや他の参加者の不意を付き→突き、数を減らしていく。
あるいは、自分を守る壁として利用するために、友好的なグループに潜りこむ事だった。
もっとも、後者には、自分の血匂→血の匂いが、他の殺人者に紛れてわからなくなるまで時間が過ぎるのを待つ必用→必要があるだろうが。
彼女は冷静だ。一番大切なことは、取引で得られる自己の利益の最大化。ただ、それだけ。
手と袖、それからスティレットを拭い終え、汚れた外套を地面に投げ捨てる。
それから、近くに放りだされたままになっていた、ハンターの鞄を拾い上げ、中身から、役に立ちそうな物を抜き取った。
赤ポーションを半分と食料を邪魔にならないだけ。それから、未開封の小さい箱。
「…猫耳?」
ここにくるまでは、町でよく見かけたヘアバンドが、一つ、鞄の中に入っていた。
びょん、びょん、とそれの端を弄びつつ、凝視する。

再度、述べよう。彼女は、根っからの商人だ。
そして、彼女が手にした猫耳のヘアバンドは、見た目によらず、かなり高級な装備品だ。
1+1は2。それくらい当然の帰結として、その結論は導かれる。

いつか、役に立つかもしれない。

心の中で呟き、♀商人は、それを、自分の鞄にしまい込んだ。


<♀商人 猫耳のヘアバンド一個、青く古い箱(小:未開封)一個、赤ポ&食料適量獲得>

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