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100.対狂人戦


♀剣士と♂ノービスの二人は聖カピトリーナ修道院を後にし、衛星都市イズルートを目指していた。
そこの船を使えないかという淡い期待に賭けての行動であった。
敢えてプロンテラを迂回したのは、そこには人が集まりやすいという理由である。

「ねえ師匠。今晩はもーそろそろ野宿ですか?」

♂ノービスの暢気な声が聞こえる。♀剣士も淡々とした口調でそれに答える。
「もう少し急ごう。他の連中に食料奪い尽くされる前に、私達で確保しなければな」
「はいっ! いや~それにしても師匠は冷静ですね~。頼もしい限りですよ♪」

にこやかにそう言う♂ノービス。だが、♀剣士は表情を曇らせた。

「……少年、ここが何処だかわかるか?」
「はい?」

いきなりの質問に♂ノービスは素っ頓狂な声をあげる。
だが、♀剣士は至って真面目な顔だ。
「ここは戦場だ。街中でもなければ狩り場ですら無い。そこに私達の意図や好みは存在しない。あるのは、生きるために何をするべきか、だけだ」
♂ノービウは目を丸くしているが、♀剣士は構わず続ける。
「戦場では、衣、食、住、を得るにも相応の労力が居る。そもそも、ただ生きるという事すら努力と工夫無しでは許されないのだ」
「……は、はい」
「そんな戦場の中でただ生きるだけではなく『人間』でありたいと思うのなら、そこに必要な努力と工夫は並大抵の物ではない。わかるな?」
「…………はい」
「ならば今君がすべきは、無駄口を叩く事でもなく、これから先何が必要になるか、何をする必要があるのか、それを考える事ではないのか?」

♂ノービスはしゅんとなってしまうが♀剣士は止めない。

「判断を要する場面に遭遇した時、予め自身で考えをしっかり持っていなければいざという時に迷いが生じる。だったら考えをまとめられる時間は有効に使った方が良い」
「………………はい」

予想以上にしょげてしまっている♂ノービスに、♀剣士は苦笑してフォローをしようとしたその時、それは来た。

「!?」

♀剣士の体に白光を放つ結界が張られる。
それがプリーストのキリエエルレイソンであると♀剣士が気付く前に、突然背後からもの凄い衝撃が襲って来た。
敵はいまだ背後に居る。そう感じた♀剣士はそのまま前に勢いよく転がって襲撃者から距離を取る。
姿を現したそいつは、両手にカタールを付けた♂アサシンであった。
脳内で舌打ちをしつつ♂ノービスを怒鳴りつける。

「ここは私が押さえる! 君は引け! 足手まといだ!」

そこまで叫ぶとパイクを構えて♂アサシンに向かう。

『ソニックブローを一発でももらったら終わりだ! 先にこちらが……』

そう考えしかける♀剣士の強打を♂アサシンは難なくかわすと、カタールを振るう。
その一撃で、キリエは吹き飛んだ。
余りの破壊力に♀剣士は♂アサシンの得物を確認すると、その理由に気付いた。

『くっ、こいつなんて力……ってまさかそれは裏切り者かっ!?』

流石に死が見えた♀剣士であったが、直後更なる支援が♀剣士を包む。

「キリエエルレイソン! 速度増加! ブレッシング! イムポシティオマヌス!」

♀剣士は支援をくれたのが何者か確認したかったがそんな余裕も無かった。
各種支援が入ったと見るなり、♂アサシンの姿がかき消えたのだ。
そして即座に襲い来るグリムトゥース。
♀剣士は♂アサから距離を取り、支援をくれたプリーストが居ると思われる場所に向かう。
そこには、一人の♀プリーストが居た。
彼女は怯えた表情で、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
♀剣士は彼女を守るように前に立つと、周囲を警戒しながら声をかける。
「助かった。だが戦闘はまだ継続中だ、頼むっ!」
♀プリーストは即座にルアフを唱える。
すぐに見つけられる範囲に♂アサシンは居なかったが、ルアフの届かない場所からグリムトゥースを撃ってきた。
すぐにキリエは切れ、容赦の無い斬撃が♀剣士を襲う。
だが、♀剣士は怯む事無く一直線に♂アサシンの居ると思われる場所に飛び込む。
タイミングを合わせて♀プリーストがその場所にフーニューマを置き、♀剣士がその中に入った事を確認すると♀プリも前進してルアフ範囲に♂アサシンを収める。
軽い衝撃音が響いた後♂アサシンがその姿を現すが、すぐにバックステップで♀剣士の眼前から姿を消す。

『しまった!』

♀剣士が振り向くと、♂アサシンは♀プリの前に立ち、ソニックブローの体勢に入ろうとしていた。
だが、♂アサは裏切り者を振るう事はなかった。代わりに場違いな声で言った。

「……あれ? あなたは♀プリさん?」

♂アサシンは何を思ったか突然♀プリーストの前から更にバックステップでその場を離れる。
二人は、その後分程警戒を解けなかったが、♂アサシンが再度襲ってくる事は無かった。

安全が確認出来た事を知ると、♀剣士はだらしなく両足を伸ばしながらその場に座り込む。

「助かったよ。礼を言う……」

だが、♀プリーストは最初に見た今にも泣き出しそうな、怯えた表情のままだ。

「……どうした? ああ、心配しなくていい。命の恩人に何かをしようという気は無いよ」

♀剣士はそう言って静かな笑みを見せる。
それを見た♀プリーストは堪えきれず滝のような涙を流しながら叫んだ。

「私はっ! どんな努力をすればいいんですか!? 私はどんな工夫をすればいいんですか!? どうすれば……」

そこまで言ってその場にくずおれる♀プリースト。

「どうすれば私は人間として生きられますか……教えてください……私は……人間で居たいんです……」

顔を覆いながらそう言って嗚咽を漏らす♀プリースト。
♀剣士は黙って♀プリーストを見ている。

「私はプリーストとしての誇りも、人間としての尊厳も捨てたく無いです……でも……でも……」

♀剣士は言葉を続ける。

「死ぬのも恐い……な」

その言葉に驚いて♀プリーストは顔を上げる。だが、♀剣士は♀プリーストが考えていたような表情はしていなかった。
静かに、優しく言葉をかける♀剣士。

「みんな一緒だ。死ぬのは誰だって恐いさ。恥じるような事じゃない」

♀プリーストは♀剣士の腕を掴んで再度、火がついたように大声で泣き出した。

♂ノービスはそんな光景を呆然として見ていた。
二次職に相応しい実力を持った彼女、それほどの人でもこのゲームでは恐怖に震え、自らの生き方に苦悩している。
このゲームに対する自分の認識が甘かった、それを♀剣士は知っていたのだ。
今の♂ノービスには、知らず震える我が身を自分の両腕で抱きしめてやるぐらいの事しか出来なかった。

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