28-912「佐々木の難問」

 『佐々木の難問』

2月上旬のバレンタインを控えたある日、俺は佐々木から郵送された小包に頭を抱える羽目になった。
中身は所謂バレンタインチョコというやつだ。ハート型の黒いチョコをキャンバスに
Lから始まるアルファベット4文字で構成された単語がホワイトチョコで描かれた代物で、
それにメッセージカードが一枚添えてあるという極めてオーソドックスな一品だった。
これだけ聞くと、世の一般的な男性諸氏なら何故チョコレート貰って頭を抱えてやがる
このモテない男達の敵め、的な感想を抱くであろう。
俺だって、古泉から長門や朝比奈さんからこんなチョコを貰いましたって言われれば
先の感想に加えて一発殴らせろ、まで言う自信がある。
では何故俺は頭を抱えているのか?その理由は、描いてある文字とメッセージカードの内容にある。

『僕がこの4文字の英単語に込めたメッセージを読み取ってくれたまえ』

佐々木に電話で確認したところ、答えはバレンタイン当日に直接会って発表、
正解なら賞品、不正解ならペナルティを課すとのこと。ついでに余り期待はしていないが、と宣った。
やれやれ、ハルヒだけじゃなくお前まで俺に心労を強いるのか?
まあ佐々木の事だから賞品は参考書あたり、ペナルティでも一緒に勉強させられるってとこだろう。
外れても無料で家庭教師して貰えるって考えれば気が楽だ、少しは考えてみるか。

候補1
単語の意味を素直に捉え、それを佐々木風に言うなら「君よ壮健なれ」みたいな感じか。
だがあの佐々木がそんな単純な問題を出す訳が無い、従って却下。

候補2
スペルを逆から読むと悪って意味になるから、その反対だから善、良いになる。
良い……良い人って事か?なら込められたメッセージは「所詮君はいい人止まり」?
……何故かフラれた気分だ。いや別に俺は告白した訳では無いし、そもそも俺達は付き合っていた訳でも無いのだが。
第一、バレンタインチョコにそんな事書く奴が居る訳が無い。て事でこの案も却下。
訳やら無いやらがやたら多い気がするが、そこは華麗にスルーしてくれ。

候補3……を考えようとした時、突如携帯がけたたましく鳴り響いた。
ああ、この五月蝿さは団長からの呼び出しだな、我ながら着メロの設定にセンスを感じるぜ。
話を聞くに、今年もバレンタインのイベントをやるらしい。去年の大騒動が悪夢となって甦る。
神様というやつは、俺に考える時間を与える気は無いようだ。全く、本日二度目のやれやれだ。

で、バレンタイン当日の夜。
俺は疲労困憊の体に鞭打って、呼び出した当人である佐々木の家にやって来ていた。
昼間どんなイベントやったかは割愛させて頂く、とにかく凄く疲れたって事だけ理解してくれ。

「やあ、お疲れの所呼び出してすまないねキョン。お腹も空いているだろうし、
お茶と食事を用意したからまずは一緒に食べよう。話はそれからだ」

二人でテーブルにつき、最初にお茶を頂く。
もう卒業される朝比奈さん謹製には一歩及ばないものの、疲れた体の隅々に染み渡ってゆくのを感じる。
すると少しばかり余裕が出てきたのか、今まで気付かなかったある事に気付く。

「なあ佐々木、家族の人とかは居ないのか?」
「丁度出張中でね、今家には僕しか居ないんだ。だからキミも気兼ねすることなく安心して寛いでくれたまえ」
「そ、そうか……」

逆に緊張するっつーの。
まあ多少回復したとはいえ、今の俺にお前を押し倒す体力は残ってないだろうが。


「ご馳走さん。旨かったぜ」
「お口に合いましたようで何よりです」

言葉だけ見ると妙に慇懃な受け応えをしつつ、どこか上の空で心此処に在らずな佐々木。
理由を考察したくない事もないが、そろそろ本題に入るとしよう。

「佐々木、チョコレートに込められたメッセージの件なんだが……」
「ああそうだったね。実は直ぐにでも聞きたくて仕方が無かったのだが、なかなか言い出せず困っていたのだよ」

上の空の理由はそれか。

「キミの方から切り出してくれるとは有り難い。
では答えを聞こう、僕はあのチョコレートに、あの単語に、どんなメッセージを込めたと思う?」
「そうだな、LIKEにするか思い切ってLOVEにするか散々迷った揚句、
どっちかに決める事が出来ず二つを合成してしまった。問題形式にしたのは照れ隠しの為、とか?」

はい、妄想乙。
弁明させて貰うと、SOS団でのイベントの準備やら何やらで時間をとられ、真面目に答えを考える時間が無かったのだ。
だから俺は開き直った。どうせ外れでも佐々木が家庭教師をしてくれる勉強会だ、否やは無いどころか歓迎するぜってな。
そして佐々木のこれまでの所作や言動の理由をこうだったら良いなと俺の都合の良いように曲解しまくり、
結果導き出された結論が先程の答えという訳だ。
いやあ佐々木さん、真っ赤になって震えてらっしゃいますな。
多分怒ってるんだろうが、体力が戻りかけてきた俺にとってその表情は黄信号だぞ?。

「しょ、賞品をあげなきゃね……」

え、もしかして正解だったのか!?

あの、佐々木さん?賞品って何なんですか?
何でまさか正解するなんて、等と呟きながら徐に上着を脱ぎ出すんですか?



では問題です。チョコレートに描いてあった英単語は何でしょう?

(終わり)

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最終更新:2013年03月03日 01:32
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