69-88『Made of Tears』3

「キョン………」
私は、電話を切ってから暫く空を見上げた。
昨日と同じ、蒼紫の空。それなのに、何故こんなに物悲しく映るんだろう。
胸をかきむしりたい衝動に駆られる。
問題は今だけでは済まない。そうわかっていたはず。
藤原くんに九曜さんが居なくなった時に、そこを理解していたはずではないか?理解していて、なお自分の想いに嘘がつけず、キョンの想いに応えたのではないか?
「(怖いよ。キョン。)」
自分の我が儘で、消え去る未来。可能性。
涼宮さんを選ばない未来という事は、彼の過ごすはずの未来にパラドックスを生む事になる。
つまりは、朝比奈みくるさんの消滅。それを意味する事になる。
彼女を『犠牲』にした、自分達の未来………。それは、あまりに重い事実だ。

怖い。たまらなく怖い。自分が人一人の未来を握る事実が。

自分の怖さをキョンにぶつけ、安心を得ようとしたさっき。渡橋さんがいなかったら、多分泣いていたはずだ。
そして。朝比奈みくるさんの言葉がずっと頭を駆け巡る。
『キョンくんが選んでいたら、皆、多分想いを受け入れているわ。』
『あなたの我が儘が、ひとつの未来を消し去る可能性があります。………そこを忘れないで。』
自分で選んだ未来。そのはず。なのに、何故こんなに怖い?
朝比奈みくるさんには悪いが、彼女の望む未来にする理由はない。それが私の答えだったはず。
しかし。彼女は明確に『消える』事を口にした。それは、私の心を抉るに十分だった。

私の心は、昨日一日で見る影なく弱くなってしまったようだ。
キョンの温もりを感じ、温もりは、燻り続けた火種に到着し、火種は燃え盛り、凍えていた心を溶かした。
被れないペルソナ。
キョンの側にいたい。もっと触れ合いたい。そう願えば願うだけ、自分のペルソナが剥がれ落ちる。
「(こんな弱い自分じゃ……キョンに嫌われる……)」

後で考えれば、私は肩肘を張りすぎていた。キョンは、私のペルソナの裏を見てくれていたのに。
私は、私が思うような人間でない。私がそう理解した時、事態は取り返しがつかなくなりかけていた。


「俺は、佐々木が好きだ。」
俺は、渡橋にハッキリと伝えた。後ろ暗い事じゃないんだ。
黙っている事自体が、ハルヒに対する裏切りだと思ったが、そこに至るまでのワンクッションが欲しかった。
「ひえええ~っ!す、涼宮先輩泣いちゃいますよぉ!」
「機会があったら、言うつもりだった。俺は、ハルヒの事は確かに好きだが、それは異性としての好きじゃない、と。」
渡橋は、目を白黒させている。こいつはハルヒの無意識。という事は、渡橋を納得させれば、ハルヒは無意識で納得するという事だ。
「な、何でですかぁ?キョン先輩、涼宮先輩を大事に思っているんですよねぇ?」
大切だ。ただ、異性としての愛ではない。
「私には、分かりません。キョン先輩が、何で涼宮先輩を嫌うのか。」
「嫌ってなんかいねぇよ!」
言葉が強くなる。
「じゃあ、どうして佐々木さんを好きだって事を、涼宮先輩に隠すんですかぁ?
涼宮先輩を、信頼してないって事じゃないですかぁ!涼宮先輩は、そんなキョン先輩を見たら、泣いちゃいますよ!」
渡橋の言葉に、胸が詰まる。
「私は、涼宮先輩に協力しまぁす。今のキョン先輩、嫌いです!」
「!」
渡橋は、そう言うと、アッカンベーをしながら去っていった……。

「なんてこった……最悪じゃねぇか……」

空を仰ぐ。昨日の空は、あんなに美しく見えたのにな……。
渡橋の言う事は最もだ。
ハルヒを思うなら、ハルヒにこそ一番に伝えるべきだったんだ。ハルヒは、全く話が判らん奴じゃない。
俺と佐々木がしなければならなかった事は、ハルヒと向かい合い、ハルヒを納得させる事だった。
そうすれば、朝比奈さん(大)が何をしようが、関係なくなる。何故なら、それをハルヒが望まなくなるからだ。

「畜生……」

渡橋が、再び来た理由。それは、正直わからん。
だが、取り返しのつかねぇ事をしちまった。こうなればハルヒは納得しないだろう。悔恨に下を向く。

次の日。不機嫌なハルヒを見て、悟った。
事態は、一番悪い方向に向かっている。そして。
その原因は、俺の判断ミスだという事も。

To Be Continued 『Made of Tears』4

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最終更新:2013年03月03日 03:29
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