69-102『浸食』2

「(ハルヒ。)」
いつからいたのだろう。泣き出す寸前の悲しそうな顔。渡橋は、ハルヒに駆け寄ると、ハルヒの手を引いて去って行こうとする。
ハルヒは、こっちを見ていた。その目は、表情は悲痛なものだった。

――――――――――――――
涼宮さんの表情を見て、私は悟らざるを得なかった。彼女は、間違いなくキョンが好きで、私達の事を歓迎していない、と。
しかし。私は。
「さ、佐々木?」
キョンの腕をぎゅう、と抱く。絶対に離さない。やっと手に入れた、私の『王子様』なの。
醜い。そう我ながら思う。
涼宮さんの表情が、悲痛なものになればなるだけ、心が凍みいるように痛む。

――――――――――――――
キョンを、取らないで……

ねぇ。お願いだから。

「――情報――収縮――」

お願いだから。

「涼宮先輩、早く行きましょうよ!」

お願いだから。

「……いかん!佐々木、少し離せ!」

お願いだから。

「閉鎖空間……!この規模は、不味いですよ……!」

お願いだから。

「じ、時空震……?!」

お願いだから。

「涼宮ハルヒ……」

キョンを、私から取り上げないで!


――――――――――――――
ハルヒの元に駆け寄ったのは、SOS団の皆だった。

「落ち着け!」
「涼宮さん!大丈夫ですか!」
「ふええ~っ!すっ、涼宮さぁ~ん!」
「…………」

ハルヒは、下を向くと……
「帰る。」
と言い、去って行こうとした。
こんな状況で、放っておいたら……佐々木を消されかねない。物理的にも、世界からも。
「佐々木。後で連絡する。」
俺は佐々木にそう告げ、SOS団の皆と共に行動した。

――――――――――――――
「――閉鎖――空間――消失――戦闘準備――――解除」
九曜さんは、ゆっくりこっちを向いた。
「――――あなた――消滅――危険――」
九曜さんが、何の冗談も言っていない事はよくわかっている。
「佐々木!無事か!」
「佐々木さん!」
私は、その場にへたりこんだ。そして、涼宮さんの想いと、その危険性をよく理解した。いや、させられた。
彼女は、恐らく。自我としては子どもに近い。純粋無垢。だからこそ……

子どもが戯れに昆虫を殺すように、残酷になれる。

「(彼女は、神だと言っていたっけ。)」
ここまで来ると、グリム童話なんて可愛いものじゃない。多分。ギリシャ神話のヘラと同じ種類の女神だ。
「あはは……」
その気になれば、彼女は私を躊躇いなく消す事が出来る。逆に、キョンだって同じ危険がある。
仮に彼女が、キョンを心底疎ましいと思えば。キョンだって躊躇いなく消すだろう。

「ふざけるな。」

涙が溢れる。
怖い。堪らなく怖い。
死にたくない。いや、あんな人に消されたくない。キョンを渡したくない。渡せるはずがない。
なら、どうすればいいかなんて、明白だ。
私はあんな力なんて要らない。あんな力があったら、間違いなく頭が狂う。
彼女が、キョンを手に入れなくする方法。それは――――。

「九曜さん。お願いがあるんだけど。」

私は、迷いなくジョーカーを切る事を選んだ。
キョンが言ってたっけ……私は、涼宮さんとは違うベクトルの馬鹿だと……

To Be Continued 『浸食』3

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最終更新:2013年03月03日 03:37
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