オリジナルキャラ・バトルロワイアル2nd(ver.2)まとめwiki

熱き血潮に

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熱き血潮に ◆Z2CJJz2v/o



――――豪と、虚空を切り裂きながら板垣退助の剛腕が奔る。

板垣が放った一撃はまさに必殺。
直撃しただけで跡形すら消し飛ぶのではないかと思うほどの一撃が、人体急所である水月に正確に叩き込まれた。

だがしかし相手は人外。魔の頂点たる大魔王である。
これほどの一撃を受けながら、平然と魔王は反撃の一撃を繰り出した。

「むっ!?」

その一撃を躱さんと、その場を飛びのこうとした板垣が怪訝の声を上げ動きを止める。
何時の間にそこにあったのか。
見れば、魔王の腹から口のようなものが生えていた。
そしてその口が板垣の放った右拳に喰らいつき、その回避行動を封じていた。
咄嗟に力を込め、無理矢理拳を引きその高速から脱するも、そこに容赦なく魔王の鉤爪が振り下ろされる。
半端な刃物では傷つける事すらかなわなかった板垣の皮膚が容易く切り裂かれ、そのまま肉を抉り鮮血が舞う。
板垣がたたらを踏み、僅かに後方に下がった。

『■■■■■■■■■■■■■』

久々の肉の感触に歓喜するような、声ならぬ咆哮。
穏やかだったこれまでの姿とはかけ離れた、己が魔性を剥き出しにした魔王の姿。
だが、その魔性を、誰よりも恐れ、誰よりも忌み嫌っているのは他ならぬ魔王自身に他ならない。

強大な力は同時に、強大な凶暴性をも秘めていた。
その野生がいつ爆発してもおかしくない、魔王は常に、そんな危うい状態だった。

暴虐を是とし、殺戮を良とする。
そんな、価値観ならばよかったのだろう。
だが魔王は違った。
平和を愛し、日常を好む。
そんなあまりにも普通な、あまりにも人間的な価値観。

その不幸は魔王として生まれ。魔王にふさわしい力を持ちながら、魔王らしからぬ人間性を持ってしまった事にある。
故に、魔王は恐れていた。
己の力を、己の暴力を、己の暴走を。
そのため、普段の魔王は己の力を制御するために、その力の大半、実に七割を力の抑制に割いている。
それにより、暴力を律する理性と柔和な精神を獲得した。
それが俗に第一形態と呼ばれる姿である。

だが、魔王という立場上、自称勇者や騎士、冒険者との戦闘は少なからずあった。
中には強者もいる。
平和を好む性分とはいえ、素直に殺されるほどお人よしではないし。
自らの役割を放棄するほど無責任でもない。

そのために生み出したのが第二形態。
理性と本能の釣り合いが取れるぎりぎりのラインまで力を解放した戦闘用の姿である。

そして、この最終形態。
といっても、最終形態とは名ばかりである。
何のことはない、力を押さえつける事をやめただけ。
最終ではなく最初。
魔王の、真の姿だ。

『■■■■■■■■■■■■■』

押さえつける理性から解放された、人でも獣でもないモノの雄叫び。
破壊衝動の赴くまま、魔王は板垣へと襲い掛かる。

それに対し、板垣は身構える。
相手の次の攻撃を予測し、後の先で討つ心積もりだ。
来るのは、爪か足か、それとも牙か。

だが、意外!それは尾先!

人類には存在しない部位からの攻撃である。
完全に意表を突かる形となった板垣の身を、鞭のようにしなりを上げた尾先が強かに打ちつけた。
破裂するような衝突音。
100倍もの重力に耐えきった板垣の体制がぐらりと崩れる。

こうなるとさすがの板垣も認めざる負えない。
一国の軍事力に匹敵するとされている板垣退助の武力が、目の前の相手に完全に後れを取っているという事実を。

それも当然。相手は一国どころか世界を支配した大魔王だ。
賢者や戦士といった仲間もおらず。
伝説の装備も持たず。
拳ひとつで簡単に圧倒できる相手ではない。

だが、こんなことなど珍しい事ではない。
意外に思われるかもしれないが、苦戦など彼には珍しい事ではないのだ。

万の軍勢相手に疲弊し追い詰められた事もあった。
政界に蔓延る魔物どもを相手に苦戦を強いられたこともあった。
理解なき国民に理解を訴えかけるため苦心したこともあった。

そしてその全てを乗り越えてきた。
その全てに己が意志を貫き通してきた。
そのためにありとあらゆる力を手にし、ありとあらゆる手段を用いてきた。

そうやって、生きてきた。
そうやって、勝ってきた。
それが板垣退助の在り方である。

ヨグスの意図に縛られるを良しとせず、己の肉体のみを頼りここまで来た。
だが、本当の自由とは縛られぬことではない。
本当の自由とは自ら選択することだ。
自らの意志を貫くべく、自らの意思で全てを決め、実行することを言うのだ。

つまりコレを使わぬも自由。
そして使うもまた自由なのである。

故に、板垣退助は宣言する。

「スキルカード――――『血流操作』」

瞬間、赤い霧が辺りを覆った。
それは一面に蒔き散った板垣の血液が霧化したものだ。
だが、霧が一面に舞ったのは一瞬。
その一瞬で体制を整えた板垣に向かって、霧散した赤い霧が収束してゆく。

――――スキル『血流操作』。
それは自らの血液を硬質化、射出、霧化など多様な方法で操る汎用性の高い能力である。
だが、板垣が行った使用方法は実にシンプルなものだった。

何の奇をてらうこともなく、血液を凝固させて、ただ身に纏う。
血液の凝固作用を利用した高質化。
その強度は鋼にも勝るだろう。
それは鎧であり武器であった。
幾多のダメージを負った証である大量の出血が、この時より一転、完全なる凶器となる。

全身を赤き血の鎧で覆った、その姿はまさしく――――紅き鬼神。

鬼神が魔王に向かって真正面から突撃する。
拳を振りかぶる板垣。
その光景は、先ほどの焼き直しだ。
先程はその拳は通じなかった、だが、今は決定的に違う点が一つ。
板垣の拳の先に存在する、ひとつの巨大な紅い棘。

接点が少なければ衝撃は収束する。
つまり、面では通らなかった衝撃も点ならば――――貫ける。

『■■■■■■■■■■■■■!!』

これまでとは毛色の違う、痛みを訴えかけるような魔王の叫び。
板垣の正拳突きが魔王の分厚い腹部を破り、その孔から大量の赤い血液が噴き出した。

「ぬっ」

その返り血を浴びた瞬間、板垣の拳を覆っていた血液の鎧がドロリと溶けた。
酸の類か。と一瞬、訝しんだがそうではない。
なるほど、これが他者の血が混じれば無効化されるという特性か。
スキルカードを宣言した瞬間に頭に流れ込んできた情報と照らしあわせて、そう板垣は理解する。
つまり返り血を浴びる度に使用出来る血液の量が減っていくということ。
ならば、こちらの血液が尽きるか、相手の息の根が止まるか、此処から先は根競べである。

「ハァ―――――――――ッッ!!!」

打。
打。
打。
打撃に次ぐ打撃。
拳が肉を打つ音が打楽器のように鳴り響く。

隙間のない連打は嵐のようだった。
降るは拳の雨。
吹くは獣の雄叫び。
もはやどちらのものとも知れぬ血しぶきが飛び交い、戦場を彩る。

魔王を打った拳に返り血を浴びる度に、他の場所から血液を補填しあくまで攻撃を重視する板垣。
それに対して魔王も、攻撃に転化し薄くなった板垣の装甲を文字通り食い破る。
板垣もこれを防御はしない。
なぜなら、ダメージはそのまま攻撃力となる。
魔王の牙によって溢れた血液は再び装甲と化し、板垣の全身を覆ってゆくのだ。

ここからはもう、互いに完全に防御を捨てた命の削り合いである。
無論、ダメージが攻撃力につながる板垣と違い、魔王にノーガードの打ち合いに付き合う道理はない。
だが、板垣がそれを許さない。

パワー、スピード、タフネス。どれをとっても魔王のほうが上だろう。
人類の極地といえど、人外にスペックでは勝ち目がない。

だが、技は、武術家としての技量だけは板垣のほうが上である。
日々の鍛錬という積み重ねにより技を重ねる。
これが生まれついての化け物とは違う、人間の吟味である。

その技量を持って魔王の防御を許さず、攻撃をブチ当てる。

差異はあれどそれの繰り返し。
だがその過程、全てが常人なら触れただけで死に絶えるほどの苛烈さを持っていた。
永遠に続くかと思われた攻防、だが何事にも終焉は来る。

幾度目かの攻防。
魔王の爪が板垣を切り裂く。
だが、これまでとは明らかな違いが出た。
切り裂かれた傷口から血が吹き出さず、ただ白い脂肪が覗くだけだったのだ。
それは遂に板垣の血液が尽きたことを示している。
見れば、健康優良の象徴とも言える板垣の顔色が、見る影もなく青白くなっていた。

勝敗を分けたのは単純な体格差。
2m超の板垣は人間としては規格外の巨体だろう。
だが、魔王の巨大さは次元が違う。
体格に比例して、血液量もまた多いのも道理である。

板垣の全身を纏っていた血液の鎧も遂には右の拳を残すのみ。
対して、魔王は全身を穴だらけにしながらも今だ健在。
その生命力は超次元生物としての在り方をまざまざと見せ付けていた。

そして最後の血液を込めた板垣の一撃も、魔王を倒すに至らず。
返り血により全ては使用不可能になった。
これで、詰みだ。

「■■■■■■■■■■■!!」

理性ではなく本能で勝利を感じ取った魔王が歓喜の雄叫びを上げる。
雄叫びのまま大顎を開き、板垣の肩口から脇にかけて一口で食らいついた。
血の気のない肉を咀嚼するように顎を鳴らす魔王。

喰らわれる板垣は、喰らわれたまま静かに拳を引いた。
血液が底をつき、満身創痍となろうとも板垣の目には諦めの色など一片も帯びてはいなかった。
あくまでも勝利を、己が意志を諦めない。

否、違う、そうではない。

諦める諦めない以前に。
この状況、ここまで板垣の想定通りである。
この距離だからこそできる事がある。

構えるのは拳ではなく貫手。
密接したまま狙うは一点。胸骨の下部、水月。
更にいうならば、最初に打ち込んだ大きな傷口。

危険性を本能で察した魔王が、一刻も早くその息の根を止めるべく齧り付く顎に力を込める。
だが遅い。
勢いよく突き出された指先は、魔王の胸元に空いた大きな傷口に突き刺さった。
そして、板垣はその勢いを止める事無く突き刺した指を傷口に捩じり込み、抉り、抉り、抉る。
ドクドクと魔王から大量の熱き血潮が流れ出した。
それでも板垣は止まらず、肉をかき分けるように魔王の内側を蹂躙する。

強靭な生命力を持つ超生物を殺すには如何とするか?
板垣の出した答えは単純すぎるほどに単純だった。
狙うは外ではなく内。
臓腑を抉り、直接、心の臓を握り潰す。
いかなる生物であろうとも、心臓を潰されて生きていられるものなど存在しないのだから。

これを可能としたのは、布石として最初に打ち込んだ渾身の一撃はもとより。
お互い逃げられぬ零距離での密着。
全身の血が抜け、腕のサイズが一回り落ちていることも、また一つの要因だろう。

「■■■■■■■■!!!!!!」

断末魔の様な魔王の絶叫。
遂に、丸太のような板垣の腕が魔王の中に肘まで埋まった。
そして板垣の腕が、確かに脈打つその臓器をしかと握りしめた。
もはや、板垣を噛み殺すことすら忘れ、魔王は暴れ狂うように叫びをあげた。

「ぬぅん――――!!」

気合一閃。
魔王の抵抗も無視して、裂帛の声と共に板垣は魔王の心臓を握りつぶした。

「―――――――――――」

口からどこに残っていたのかと思えるほどの大量の血液を吐きながら、魔王が声にならない叫びを上げた。
魔王が上空に噴き出した血液が地に落ち、血の雨が降った。
そしてゆっくりと、その巨大が傾き、ドシンという地響きとともに辺りに砂埃が舞った。
板垣は、全身を返り血で赤く染めながら、その姿を見送る。

決着である。

人間、板垣退助の勝利だった。

勝利を収めた板垣はその余韻に浸るでもなく、早急にその場を離れた。
本当にギリギリの勝利だった。
ダメージは多く、なにより血を失いすぎた。
板垣でなければとっくに死んでいる状態だ。
意識があるのが奇跡のようなものである。
この状態を誰かに襲われてはさすがの板垣も言えどもひとたまりもない。

まずは何よりも失った体力を回復することが急務だ。
ここで板垣が取るべき選択肢は三つ。

一つ、どこか拠点を見つけ身を休める。

この状態で、安全な拠点を見つけるのは骨だが、幸いにも市街が近い。
身を隠す場所を見つけるのにそれほ苦労はないだろう。
問題はこれほどのダメージの自然回復を待つとなれば時間がかかりすぎるという点か。

二つ、栄養補給を行い積極的に体力回復に努める。

最低限の支給はあるものの、失ったエネルギーを補給するにはこの程度ではまるで足りない。
食料を探す必要がある。できるなら肉類が望ましい。
野ウサギなどの野生動物がいれば良いのだが。

三つ、病院をめざし輸血を行う。

直接血液を補充するもっとも適切な対処だが。
この舞台に用意された病院にどれほどの設備があるのかは怪しいところだ。
なにより新鮮な血液があるかどうかというのは非常に不明確だ。

どうするべきか。
慎重な判断が必要だろう。

【一日目・早朝/E-4とF-4の堺 平地】
【板垣退助】
【状態】全身にダメージ(極大)、血液枯渇、全身血塗れ
【装備】なし
【スキル】『血流操作』
【所持品】基本支給品、不明支給品1~2
【思考】
基本:自由を愛し、平等に生きる
0.体力回復に努める
1.闘いを挑む者には容赦しない
2.自由を奪う男(主催)を粛清する

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一面の赤だった。
むせ返るような血の臭いが辺りを漂う。
池の様な大量の血溜まりは戦場の名残だ。

その中心に横たわるのは巨大な肉塊。
その肉塊が唐突に動いた。
いや、動いたというのは正確ではない。
巨大な肉塊が収縮し始めたのだ。
1tを超えようかという質量は人型のそれに収束する。
というより、初めの姿に戻っていったといったほうがわかりやすいだろう。

肉塊とは言わずもがな、魔王の死体である。
この場においてのは始まりの姿に戻った魔王、もちろん傷はそのままだが。
だが、命の尽きたはずのその肉体が、何故そのような動きを見せたのか。

「がッ――――ハ!」

死体が吐き出すように息を吐いた。
だが、心臓を失って生きていられる生物などいるはずもなく。
それは魔王とはいえ例外ではない。

大魔王は伝統的に心臓を三つ持つ。
板垣と同量、いやそれ以上の血液を失いながら、まだまだ血液量に余裕を見せていた正体がこれだ。
つまり、彼にはまだ二つ心臓が残っている。
端的に言うと、魔王は死んでなどいなかった。

とはいえ、臓器を直接握りつぶされた事には違いはない。
通常であらばショック死してもおかしくない。
それでもなお生きながらえているのは、魔王の強靭な生命力の賜物だろう。

「くっ―――――ぁ」

声を出すのも苦痛なほど胸が痛む。
当然だ胸には大穴が開いているのだから。

板垣から受けたダメージにより、魔王はその力の殆どを失ってしまった。
不幸中の幸いか、それにより押さえつけるべき力をも失った魔王は、理性を取り戻すこととなる。

理性を失っていたころの記憶は正確ではないが、前後の記憶から今の状況は魔王にもわかる。
まさか全力を出した大魔王が人間一人に負けるとは信じ難いが、己の状態からして信じざる負えないだろう。
ダメージは甚大、というより死にそうだ。
今すぐ生命力を回復させなければ非常にまずい。
幸いにも、その方法は知っている。
この場には材料も事欠かない。
簡単だ。

人間ヲ喰ラエバイイ。

「―――――!?」

あまりにも自然に脳裏に浮かんだ発想を必死で魔王は否定する。
魔の王、魔性の本能としての発想。

力を失い、凶暴性を弱めたと同時に、それを押さえつけるべき理性も弱まっている。
つまりは両方のバランスがとれていない。
今の魔王は、非情に危うい状態だ。

「…………篠田は、下流か」

流れる川を見ながら自分が放り投げた勇者を思う。
まずは彼との合流を目指そう。
今のダメージで一人でいるのは危険だ。
また板垣のような化け物に襲われたら為す術もない。

そしてなにより、もし自分が暴走したとして、篠田ならそんな自分を止める事ができる。

そう縋るように、魔王は勇者を求めて歩き始めた。

【一日目・早朝/E-3 川沿い】
【魔王】
【状態】ダメージ(瀕死)、疲労(極大)、精神不安定
【装備】なし
【スキル】『落とし穴』
【所持品】基本支給品、釣り竿
【思考】
1.篠田と合流

※E-4戦場跡に池の様な血だまりがあります


28:Don't think just feel!! 時系列順 30:転校生
28:Don't think just feel!! 投下順 30:転校生
22:蛮勇引力 板垣退助
22:蛮勇引力 魔王 40:病の呪い

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