とある町の学校にとある一人の少年がいた。
ごくありふれた光景だがその少年は悩んでいた。
悩むと言っても成績が悪いとかそんな事ではない。
そんな所へ同級生らしき少女が現れる。
「どうしたのギコ。何か最近元気ないよ。」
しかしギコと呼ばれたAAは「何でもない」と言い返す。
昨日も一昨日も使った言葉だ。
彼女がそれ以上何も言わないと知ってしまったギコは、またその言葉を使ったのだ。
しかし今日は違った。深く問い詰めてくる。
仕方ないといった表情で、と言っても隠し事ではないのでギコは今の心境を打ち明けた。
「何て言うか…、毎日のありふれた日常が嫌になっちゃってさ。」
そう言い終わるとギコは「しぃにはないだろうけど」と付け加えた。
同級生で親しい仲のギコでなくとも分かることだ。
現にしぃはそんな気持ちは分かりたくもないといった表情をしている。
だが流石はしぃだ。ちゃんとギコの事を察している。
「そういうことは自分で考えて答えを見付けるしかないよ。」
それを聞いたギコは少し困惑した。だがすぐに嬉しそうな表情へと変わる。
しぃがギコにちゃんとした言葉を返すことなんてまるでなかった。だが今日は違ったのだ。
ギコはそれをしぃが自分を受け入れてくれたと思ったのだ。
ギコはそれから色々と考えたが、気付けば日も暮れて学校は放課になった。
ギコも家へ帰ろうと席を立つ。
「じゃあまた明日。」
調度その時しぃが声を掛けてきた。
ギコはいつもより僅かに低めのトーンで声を返した。
しぃはまるで自分の弟を見るような目でギコを見ていた。
ギコはしぃのそういった性格を知っていたが、今日に限ってその事に気付くことはなかった。
ギコは学校を出て独り帰り道を歩いていった。
そしてその途中とあるAAと出会うのだった。
道路から少し離れた小高い丘の上に一人のAAが夕日をぼーっと眺めていた。
何の変哲もない光景に見えるが、その時のギコはそれが気になった。
運命とでも言うのかとにかく気になったのだ。
するとそのAAはいきなりギコの立っている方角を向いてきた。
ギコがはっとした時には既に目が合ってしまっていた。
「あの…、そんな所で何やってるんですか。」
ギコは思い切って声を掛けてみた。
そのAAはギコの呼びかけで表情を変えることはなかった。ギコも一瞬ほっとする。
「ちょっと考え事をしててね…。」
そのAAはそう言うと自分からギコの方へと近付いてきた。
ギコはそこで初めて相手の身体が自分に似てることに気がまわった。
ギコが名前を尋ねると相手はギコエルという名だった。道理で似ている訳だ。
気が付くとギコはギコエルと普通に会話をしていた。
ギコエルは自分が削除人だということまでギコに教えた。
そして話していく内にギコエルの口からこんな言葉が出た。
「最近君みたいなありふれた日常に戻りたいって思うようになっちゃって…。」
ギコはギコエルが自分と逆の事を言っていることに驚いた。そしてその事をギコエルに伝えた。
するとギコエルは何かを閃いたような表情をしたかと思うと、真面目な表情でギコにこう言った。
「君と俺、代わってみないか…。」
その言葉をギコが聞いてから一夜が明けた。
今日は休日、学校は休みだ。
そしてギコは昨日ギコエルと出会ったあの場所に来ていた、と言うより来るように言われたのだ。
「明日の朝十時」と、ギコエルは確かにそう言った。
ギコはギコエルの言うことを不思議とすんなり受け入れられた。
ギコエルが削除人だからということもあるが、それ以上の何かがギコを受け入れさせたのだろう。
ギコが十分程待つとギコエルは現れた。と言っても予定の時刻よりは五分程早い。
そしてその手にはいかにも削除人でなければ使わないような装置が持たれていた。
勿論一般庶民のギコにはその装置が何なのかは分かる筈もないが、大体予想は付いていた。
「その様子だと決心は付いたみたいだね。」
ギコが真剣だった事は周りの人、もといギコエルの目からも明らかだった。
そして遂にその時がやってきた…。
ギコエルは持ってきた装置をセットすると、一般庶民には到底分からないような操作をしていった。
そしてギコエルは全ての準備を終わらせ立ち上がる。
さっきまで期待を押し殺していた流石のギコも少し不安を覚える。
その様子を察したギコエルはギコを宥め、そして装置の元へとギコを招いた。
そしていよいよ始まった。二人が向かい合って装置の前に並ぶと、まずはギコエルの体に変化が起きた。
ギコエルの羽がただの文字列と化していき、その文字列はギコの背中へと集まっていった。
ギコは今自分の目の前で起こっている事に少々驚きながらも、それを純粋に受け入れた。
気付けばギコエルの羽は全て文字列と化してギコの背中にくっ付いていた。
次の瞬間その文字列が眩く光ったかと思うと、次に二人の視覚戻った時には既に普通の羽と化していた。
この瞬間二人は入れ代わったのだった。
それから二人は別れてお互い新しい世界へと入っていく。
ギコが辿り着いた場所は削除人の仕事場だった。削除人に休みはない。
ギコは一瞬立ち止まって上の方を眺めるが、すぐに足を運ばせ中へと入っていった。
「遅かったじゃないか。どこで道草くってたんだ。」
ギコが入ってすぐに削除人らしきAAはそう言ってきた。
どうやらギコエルは仕事の合間に入れ代わりに来たらしい。
「ごめんモララエル。ちょっと手間取っちゃって。」
ギコが慌ててそう言うとモララエルは「そうか」とだけ言って去っていった。
しかしその時ギコには疑問が浮かんだ。
モララエルとは初対面なのにどうして名前が分かったんだろうか、と。
だがその答えはすぐに分かった。このギコエルの羽が教えてくれたのだ。
一方ギコエルの方もギコの家へと足を運ばせていた。
ギコの家は豪華と言う訳ではないが、それなりに新しい感じの家だった。
ギコエルは家に入りギコの部屋へと入っていった。
少々散らかっているが意外と殺風景な感じの部屋だった。
そんな中パソコンだけが一際際立っていた。
ギコエルはパソコンを立ち上げてみようと思ったがやめた。
人のパソコンを勝手にやるのはあまり良いことではない。
次にギコエルが目に付いたのは教科書やプリントが散らばっている勉強机だった。
ギコエルはそれを見て適当に一つ教科書を手にすると少し寂しそうな顔をする。
「少し前までは俺もこんな生活してたんだよなぁ…。」
その頃ギコは辺りに障害物のない町にしては広い場所へと来ていた。
だが勿論ただ来た訳ではない。
「本当に戦うのかモナファー。」
モナファーはギコエルが入れ代わってるとも知らずに「当たり前」と投げ返す。
そう削除人の本来の仕事は荒らしの削除だ。今ギコの目の前には数体の荒らしがこちらを睨んでいる。
そしてとある一体の荒らしが合図を出すと同時に、一気に荒らしはギコ達へと襲い掛かってきた。
モナファーは手馴れた手付きで荒らしをあぼーんしていく。
それとは対照的にギコはこちらに襲い掛かって来た荒らしに対応するのが精一杯だった。
まあギコは削除人の訓練を受けていないので当然と言えば当然だ。
それでも何とか、と言っても殆どモナファーのお陰だが荒らしを全滅させることが出来た。
ギコがそんな苦労をしているとは知らずにギコエルは家の周りを散歩していた。
すると運良くか悪くかばったりとしぃに出会ってしまう。
最初に声を掛けてきたのはしぃの方だった。ギコエルは突然の事に少し驚く。
「えっと…、しぃか。」
ギコエルは冷静に対処したつもりのようだが流石はしぃだ。しぃの顔からは疑問の色が見える。
しかしその場は何とか切り抜けられた。それから二人は暫く会話をし話はあの話題へ。
「それでギコ答えは見付かった?」
ギコエルはその質問にどう対応すれば良いか分からなかった。
例え入れ代わってもそこまで細かい事までは流石に教えられないのだ。
だがしぃがギコが忘れたんだと思ったのか、その事を説明してくれたお陰で二度目の難も逃れられた。
それから暫くしてギコエルはしぃと別れた。
ギコエルは「ふぅ」と溜息を付いて少し間を置いた後にこう言った。
「にしてもギコあんな可愛い子が友達に居るんだな…。」
ギコエルは違う意味でありふれた日常に幸を覚えた。
そんなこんなでどうにか二人の一日は過ぎ二日目の朝がやってきた。
ギコエルは今までの忙しい生活から一変して退屈になっていた。
そして今ギコエルはとある物を睨んでいた。それはギコのパソコンだった。
流石のギコエルもここまで退屈になると何かやりたくってしまったようだ。
そして遂にギコエルは電源へと手を伸ばしてしまった。
しかしギコはと言うととっくにギコエルのパソコンへと手を伸ばしていた。
と言っても仕事用のパソコンなので仕方ないのだが。
今日は荒らしも発生することもなく、ギコを含め削除人達は比較的のんびりしている。
しかしギコの中にはいつまた荒らしが現れるかという不安が少なからずあった。
今までの生活ならこんな気持ちに縛られることはなかったであろう。
だがギコエルが削除人だと分かって選んだ道だ。ちゃんとけじめは付けなければならない。
それからギコがあれこれ考えている内に不安は現実のものとなる。
「荒らしが現れた。行くぞギコエル。」
ギコは意を決して荒らしの元へと向かった。
ギコエルがパソコンをやめて家を出たのもそれとほぼ同時刻であった。
家を出たギコエルは昨日とは違う道を歩いていく。
ギコエルは歩きながら昨日の子に会いたいような会いたくないような、と考えていた。
暫くするとギコエルはちょっとした小さな山に来ていた。
とある時期になると人混みで賑わうこの場所も今は殆ど誰も居ない。
そんな所へ来た矢先ギコエルの目にとある光景が映る。
時を同じくしてギコの目にも荒らしの姿が映し出されていた。
そしてギコの周りにはモナファーとモララエルの姿もあった。
ギコエルの組織の削除人ではトップ三のこの三人が揃うということは、荒らしもかなり手強いのだろう。
実際に揃っているのは二人だということをギコ以外は知らずに。
場面は戻りギコエルの目に映った光景は小さな子供だった。
「分かった。じゃあ兄さんが取ってあげるよ。」
どうやら玩具を木に引っ掛けてしまったらしい。
ギコエルは入れ代わっても困っている人を見過ごすことはなかった。
ギコエルは早速木を登り始める。この時程羽が恋しく思ったことはないだろう。
一方ギコの方はと言うと荒らしに予想以上に苦戦していた。
そしてとうとうモナファーとモララエルは倒れてしまった。
「俺のせいでモナファーとモララエルが…。」
決してギコが足手まといになった訳ではない。純粋に荒らしが強いのだ。
しかしギコはそれを自分のせいだと思い込み責めた。だがそれが逆にギコに力を与えた。
「俺はもう不安から逃げたりはしない!」
ギコは入れ代わっても真直ぐな性格が曲がることはなかった。
すると羽が光り始めたかと思うと、ギコの持っていた剣が突然輝きを放った。
そしてギコは羽を羽ばたかせ、上空から優々とこちらを眺めている荒らしに突っ込んでいった。
次の瞬間剣と剣がぶつかり合い辺りに花火でも上がったかのような光が立ち込めた。
それとほぼ同時にギコエルも木を登り切り玩具を手にすることが出来た。
しかしその先に二人を待っていたものは『落』。
二人は落ちていく。体も心も…。
そして地面に叩き付けられた。だがギコエルは笑顔で子供に玩具を差し出した。
その子はギコエルにお礼を言ってどこかへ行ってしまった。
それと入れ違い、否まるでタイミングを待っていたかのようにあの人が現れた。
「あなた本当にギコなの…?」
それは紛れもなくしぃだった。ギコの事が気に掛かりあとを付けてきたらしい。
ギコエルはそんなしぃを見てもう限界だと悟った。
「しぃと言ったね…。本当にごめん…。」
一方ギコの方もその事で二人に問い詰められていた。
それもその筈だ。ギコエルにはあんな技は使えないのだから。
更にモナファーは昨日から勘付いていて、例の装置が無くなっていた事も既にチェック済みであった。
「さあ、もう言い逃れは出来ない。正直に答えるんだ。」
モナファーの声は静かにも恐さを感じた。
そしてギコも遂に降参してしまった。
「本当にすいませんでした…。」
ギコはあの丘へと戻ってきた。そこには夕日に照らされたギコエルの姿もあった。
二人はお互いバレてしまった事を言うと少しおかしくなってしまった。
それから一瞬沈黙が流れたとギコが改まったかのようにこう言う。
「結局自分が一番なんだよな…。」
ギコの言ったことにギコエルも意義はなかった。
そして二人は戻っていった。今までの自分へと…。
そして次の朝がきた。ギコは今まで通り学校へと向かう。
学校に入り席に着いたと思うと早速しぃに声を掛けられた。
「それで答えは見つかった?元ギコエルさん。」
しぃは嫌味混じりでそう言ってきた。
ギコは一瞬勘弁してくれといった表情を見せるが、すぐに改まって答えを返した。
「俺分かったんだ。今の日常があるから今の自分が居るんだって。」
しぃはギコが予想以上の答えを返してきたことに驚きつつも喜びを浮かべた。
ギコもそれに釣られて喜びの顔を浮かべた。
ごくありふれた光景だがその少年は悩んでいた。
悩むと言っても成績が悪いとかそんな事ではない。
そんな所へ同級生らしき少女が現れる。
「どうしたのギコ。何か最近元気ないよ。」
しかしギコと呼ばれたAAは「何でもない」と言い返す。
昨日も一昨日も使った言葉だ。
彼女がそれ以上何も言わないと知ってしまったギコは、またその言葉を使ったのだ。
しかし今日は違った。深く問い詰めてくる。
仕方ないといった表情で、と言っても隠し事ではないのでギコは今の心境を打ち明けた。
「何て言うか…、毎日のありふれた日常が嫌になっちゃってさ。」
そう言い終わるとギコは「しぃにはないだろうけど」と付け加えた。
同級生で親しい仲のギコでなくとも分かることだ。
現にしぃはそんな気持ちは分かりたくもないといった表情をしている。
だが流石はしぃだ。ちゃんとギコの事を察している。
「そういうことは自分で考えて答えを見付けるしかないよ。」
それを聞いたギコは少し困惑した。だがすぐに嬉しそうな表情へと変わる。
しぃがギコにちゃんとした言葉を返すことなんてまるでなかった。だが今日は違ったのだ。
ギコはそれをしぃが自分を受け入れてくれたと思ったのだ。
ギコはそれから色々と考えたが、気付けば日も暮れて学校は放課になった。
ギコも家へ帰ろうと席を立つ。
「じゃあまた明日。」
調度その時しぃが声を掛けてきた。
ギコはいつもより僅かに低めのトーンで声を返した。
しぃはまるで自分の弟を見るような目でギコを見ていた。
ギコはしぃのそういった性格を知っていたが、今日に限ってその事に気付くことはなかった。
ギコは学校を出て独り帰り道を歩いていった。
そしてその途中とあるAAと出会うのだった。
道路から少し離れた小高い丘の上に一人のAAが夕日をぼーっと眺めていた。
何の変哲もない光景に見えるが、その時のギコはそれが気になった。
運命とでも言うのかとにかく気になったのだ。
するとそのAAはいきなりギコの立っている方角を向いてきた。
ギコがはっとした時には既に目が合ってしまっていた。
「あの…、そんな所で何やってるんですか。」
ギコは思い切って声を掛けてみた。
そのAAはギコの呼びかけで表情を変えることはなかった。ギコも一瞬ほっとする。
「ちょっと考え事をしててね…。」
そのAAはそう言うと自分からギコの方へと近付いてきた。
ギコはそこで初めて相手の身体が自分に似てることに気がまわった。
ギコが名前を尋ねると相手はギコエルという名だった。道理で似ている訳だ。
気が付くとギコはギコエルと普通に会話をしていた。
ギコエルは自分が削除人だということまでギコに教えた。
そして話していく内にギコエルの口からこんな言葉が出た。
「最近君みたいなありふれた日常に戻りたいって思うようになっちゃって…。」
ギコはギコエルが自分と逆の事を言っていることに驚いた。そしてその事をギコエルに伝えた。
するとギコエルは何かを閃いたような表情をしたかと思うと、真面目な表情でギコにこう言った。
「君と俺、代わってみないか…。」
その言葉をギコが聞いてから一夜が明けた。
今日は休日、学校は休みだ。
そしてギコは昨日ギコエルと出会ったあの場所に来ていた、と言うより来るように言われたのだ。
「明日の朝十時」と、ギコエルは確かにそう言った。
ギコはギコエルの言うことを不思議とすんなり受け入れられた。
ギコエルが削除人だからということもあるが、それ以上の何かがギコを受け入れさせたのだろう。
ギコが十分程待つとギコエルは現れた。と言っても予定の時刻よりは五分程早い。
そしてその手にはいかにも削除人でなければ使わないような装置が持たれていた。
勿論一般庶民のギコにはその装置が何なのかは分かる筈もないが、大体予想は付いていた。
「その様子だと決心は付いたみたいだね。」
ギコが真剣だった事は周りの人、もといギコエルの目からも明らかだった。
そして遂にその時がやってきた…。
ギコエルは持ってきた装置をセットすると、一般庶民には到底分からないような操作をしていった。
そしてギコエルは全ての準備を終わらせ立ち上がる。
さっきまで期待を押し殺していた流石のギコも少し不安を覚える。
その様子を察したギコエルはギコを宥め、そして装置の元へとギコを招いた。
そしていよいよ始まった。二人が向かい合って装置の前に並ぶと、まずはギコエルの体に変化が起きた。
ギコエルの羽がただの文字列と化していき、その文字列はギコの背中へと集まっていった。
ギコは今自分の目の前で起こっている事に少々驚きながらも、それを純粋に受け入れた。
気付けばギコエルの羽は全て文字列と化してギコの背中にくっ付いていた。
次の瞬間その文字列が眩く光ったかと思うと、次に二人の視覚戻った時には既に普通の羽と化していた。
この瞬間二人は入れ代わったのだった。
それから二人は別れてお互い新しい世界へと入っていく。
ギコが辿り着いた場所は削除人の仕事場だった。削除人に休みはない。
ギコは一瞬立ち止まって上の方を眺めるが、すぐに足を運ばせ中へと入っていった。
「遅かったじゃないか。どこで道草くってたんだ。」
ギコが入ってすぐに削除人らしきAAはそう言ってきた。
どうやらギコエルは仕事の合間に入れ代わりに来たらしい。
「ごめんモララエル。ちょっと手間取っちゃって。」
ギコが慌ててそう言うとモララエルは「そうか」とだけ言って去っていった。
しかしその時ギコには疑問が浮かんだ。
モララエルとは初対面なのにどうして名前が分かったんだろうか、と。
だがその答えはすぐに分かった。このギコエルの羽が教えてくれたのだ。
一方ギコエルの方もギコの家へと足を運ばせていた。
ギコの家は豪華と言う訳ではないが、それなりに新しい感じの家だった。
ギコエルは家に入りギコの部屋へと入っていった。
少々散らかっているが意外と殺風景な感じの部屋だった。
そんな中パソコンだけが一際際立っていた。
ギコエルはパソコンを立ち上げてみようと思ったがやめた。
人のパソコンを勝手にやるのはあまり良いことではない。
次にギコエルが目に付いたのは教科書やプリントが散らばっている勉強机だった。
ギコエルはそれを見て適当に一つ教科書を手にすると少し寂しそうな顔をする。
「少し前までは俺もこんな生活してたんだよなぁ…。」
その頃ギコは辺りに障害物のない町にしては広い場所へと来ていた。
だが勿論ただ来た訳ではない。
「本当に戦うのかモナファー。」
モナファーはギコエルが入れ代わってるとも知らずに「当たり前」と投げ返す。
そう削除人の本来の仕事は荒らしの削除だ。今ギコの目の前には数体の荒らしがこちらを睨んでいる。
そしてとある一体の荒らしが合図を出すと同時に、一気に荒らしはギコ達へと襲い掛かってきた。
モナファーは手馴れた手付きで荒らしをあぼーんしていく。
それとは対照的にギコはこちらに襲い掛かって来た荒らしに対応するのが精一杯だった。
まあギコは削除人の訓練を受けていないので当然と言えば当然だ。
それでも何とか、と言っても殆どモナファーのお陰だが荒らしを全滅させることが出来た。
ギコがそんな苦労をしているとは知らずにギコエルは家の周りを散歩していた。
すると運良くか悪くかばったりとしぃに出会ってしまう。
最初に声を掛けてきたのはしぃの方だった。ギコエルは突然の事に少し驚く。
「えっと…、しぃか。」
ギコエルは冷静に対処したつもりのようだが流石はしぃだ。しぃの顔からは疑問の色が見える。
しかしその場は何とか切り抜けられた。それから二人は暫く会話をし話はあの話題へ。
「それでギコ答えは見付かった?」
ギコエルはその質問にどう対応すれば良いか分からなかった。
例え入れ代わってもそこまで細かい事までは流石に教えられないのだ。
だがしぃがギコが忘れたんだと思ったのか、その事を説明してくれたお陰で二度目の難も逃れられた。
それから暫くしてギコエルはしぃと別れた。
ギコエルは「ふぅ」と溜息を付いて少し間を置いた後にこう言った。
「にしてもギコあんな可愛い子が友達に居るんだな…。」
ギコエルは違う意味でありふれた日常に幸を覚えた。
そんなこんなでどうにか二人の一日は過ぎ二日目の朝がやってきた。
ギコエルは今までの忙しい生活から一変して退屈になっていた。
そして今ギコエルはとある物を睨んでいた。それはギコのパソコンだった。
流石のギコエルもここまで退屈になると何かやりたくってしまったようだ。
そして遂にギコエルは電源へと手を伸ばしてしまった。
しかしギコはと言うととっくにギコエルのパソコンへと手を伸ばしていた。
と言っても仕事用のパソコンなので仕方ないのだが。
今日は荒らしも発生することもなく、ギコを含め削除人達は比較的のんびりしている。
しかしギコの中にはいつまた荒らしが現れるかという不安が少なからずあった。
今までの生活ならこんな気持ちに縛られることはなかったであろう。
だがギコエルが削除人だと分かって選んだ道だ。ちゃんとけじめは付けなければならない。
それからギコがあれこれ考えている内に不安は現実のものとなる。
「荒らしが現れた。行くぞギコエル。」
ギコは意を決して荒らしの元へと向かった。
ギコエルがパソコンをやめて家を出たのもそれとほぼ同時刻であった。
家を出たギコエルは昨日とは違う道を歩いていく。
ギコエルは歩きながら昨日の子に会いたいような会いたくないような、と考えていた。
暫くするとギコエルはちょっとした小さな山に来ていた。
とある時期になると人混みで賑わうこの場所も今は殆ど誰も居ない。
そんな所へ来た矢先ギコエルの目にとある光景が映る。
時を同じくしてギコの目にも荒らしの姿が映し出されていた。
そしてギコの周りにはモナファーとモララエルの姿もあった。
ギコエルの組織の削除人ではトップ三のこの三人が揃うということは、荒らしもかなり手強いのだろう。
実際に揃っているのは二人だということをギコ以外は知らずに。
場面は戻りギコエルの目に映った光景は小さな子供だった。
「分かった。じゃあ兄さんが取ってあげるよ。」
どうやら玩具を木に引っ掛けてしまったらしい。
ギコエルは入れ代わっても困っている人を見過ごすことはなかった。
ギコエルは早速木を登り始める。この時程羽が恋しく思ったことはないだろう。
一方ギコの方はと言うと荒らしに予想以上に苦戦していた。
そしてとうとうモナファーとモララエルは倒れてしまった。
「俺のせいでモナファーとモララエルが…。」
決してギコが足手まといになった訳ではない。純粋に荒らしが強いのだ。
しかしギコはそれを自分のせいだと思い込み責めた。だがそれが逆にギコに力を与えた。
「俺はもう不安から逃げたりはしない!」
ギコは入れ代わっても真直ぐな性格が曲がることはなかった。
すると羽が光り始めたかと思うと、ギコの持っていた剣が突然輝きを放った。
そしてギコは羽を羽ばたかせ、上空から優々とこちらを眺めている荒らしに突っ込んでいった。
次の瞬間剣と剣がぶつかり合い辺りに花火でも上がったかのような光が立ち込めた。
それとほぼ同時にギコエルも木を登り切り玩具を手にすることが出来た。
しかしその先に二人を待っていたものは『落』。
二人は落ちていく。体も心も…。
そして地面に叩き付けられた。だがギコエルは笑顔で子供に玩具を差し出した。
その子はギコエルにお礼を言ってどこかへ行ってしまった。
それと入れ違い、否まるでタイミングを待っていたかのようにあの人が現れた。
「あなた本当にギコなの…?」
それは紛れもなくしぃだった。ギコの事が気に掛かりあとを付けてきたらしい。
ギコエルはそんなしぃを見てもう限界だと悟った。
「しぃと言ったね…。本当にごめん…。」
一方ギコの方もその事で二人に問い詰められていた。
それもその筈だ。ギコエルにはあんな技は使えないのだから。
更にモナファーは昨日から勘付いていて、例の装置が無くなっていた事も既にチェック済みであった。
「さあ、もう言い逃れは出来ない。正直に答えるんだ。」
モナファーの声は静かにも恐さを感じた。
そしてギコも遂に降参してしまった。
「本当にすいませんでした…。」
ギコはあの丘へと戻ってきた。そこには夕日に照らされたギコエルの姿もあった。
二人はお互いバレてしまった事を言うと少しおかしくなってしまった。
それから一瞬沈黙が流れたとギコが改まったかのようにこう言う。
「結局自分が一番なんだよな…。」
ギコの言ったことにギコエルも意義はなかった。
そして二人は戻っていった。今までの自分へと…。
そして次の朝がきた。ギコは今まで通り学校へと向かう。
学校に入り席に着いたと思うと早速しぃに声を掛けられた。
「それで答えは見つかった?元ギコエルさん。」
しぃは嫌味混じりでそう言ってきた。
ギコは一瞬勘弁してくれといった表情を見せるが、すぐに改まって答えを返した。
「俺分かったんだ。今の日常があるから今の自分が居るんだって。」
しぃはギコが予想以上の答えを返してきたことに驚きつつも喜びを浮かべた。
ギコもそれに釣られて喜びの顔を浮かべた。