モナー小説掲示板ログ保管庫@wiki(´∀`*)

線香花火 (???)

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

第一話 思い出


ベランダから夜空を見てると、昔のことを思い出す……

どうして人間は、想っても無駄なようなことを思い、切なくなるのだろう…           

7月26日、午後7時38分…


ギコはベランダから外を見ていた。高校最後の夏休みに入ったが何もやるきが
起きなかった。

少し顔を上げれば星が光る空が、顔を下げれば人の家の明かりが見える

「あちぃ……」

ギコは思わずそう呟く、とは言え今日はそれほど特別暑いわけでも無かった。
かと言って涼しい訳でもなく、ごくごく当たり前の平均的な夏の暑さと言った
ところか…

あの時もそうだった。あの最後の夜も…

結局ギコが考えることは全てあの日に結びついていた。
後悔してもいまさらどうにもならない……分かってるのに…

そんな事を考えている時、懐かしい匂いがしてきた。

これは―――

嗅ぎ覚えのあるこの匂い…線香花火の煙の匂い・・・

どうやら隣のフサさん一家がみんなで花火をしてるらしい

しかも…最後の…最後の…線香花火……

ギコはたまらなくなってベランダから家の中へ駆け込んだ
涙が溢れてきた。一度は枯れたはずの涙がまた…

やがて……ギコは財布と携帯を持って家を出た。今日は親が二人とも家に
いないため、どこに行くかなんて言わなくても夜の散歩にでかけられる

どこへ行こうかなんて決めてない、とりあえず夜道を歩こうと思った。
なんかいいことが無いかと思いながらとりあえず歩く

「なんか…いいこと…ねぇかなぁ……」

心の中で思っていた言葉が思わず口に出る、思うのはやはりあの時の事だけ…

そう…あれは去年の夏……あの人がまだ…この街にいた…


第二話 悪癖(あくへき)


ギコには高校一年の時から好きな人がいた。その人の名前は しぃ

最初は特に何とも思ってなかったのだが、彼女が明るい性格で男子生徒にも
よく話しかけていて、ギコもしぃとよく話をしていた。どういうわけか
そうしてるうちにだんだん彼女が気になり始めたのだった。

ただギコは中学時代ずっと恋愛と言うものに縁が無かったため、そういう時
どうしていいか分からなかった。

友達にも相談してみたが、やはりどうしていいのか分からなかった。

そうこうしてるうちにギコのしぃを思う気持ちはどんどん大きくなっていった
すれちがうだけで緊張してしまうし、話しかけられると少しあわててしまう

そんなギコがしぃにそう簡単に想いを伝えられる訳も無く、日々は過ぎていった。

ギコはそんな勇気の無い自分が情けなくも思えたが、今のところはいいや
と思っていた。

しぃにはまだ彼氏もできるような様子も無いみたいだし、テキトーにチャンス
が来たら告白すりゃいいか と思っていた。

これはギコの悪癖である、ギコはこのように大切なことをいつもあとまわし
にしてきたのだ、そしていつも後悔してきた。

そして今回も、ギコは自分の悪癖を思い知らされる事になる…

時は過ぎ、ギコは高校二年になった。そして夏休みも近づいたある暑い日…
それは突然の事だった……

「おい!! ギコ大変だぞ!!」

ギコの座っている席の前に突然あらわれ、声をかけたのはギコの親友のモララーだった。彼にはよくしぃの事で相談にのってもらった。明るくていい奴だ

「どうしたんだよモララー朝からそんなにあわてて」

ギコはのんびりとモララーに言った。

「おまえ何も聞いて無いのか? しぃの事」

「ああ…で…? 何があったんだよ」

どうも嫌な予感がした。モララーがこれから言う言葉を聴きたくなかった。

「しぃが…アメリカに行くって…もう日本には帰って来ないって……」

「……えっ……」

ギコのあとまわしは最大の悪癖、ギコは今回もそれを思い知らされた。


第三話 決心 


ギコは頭の中が真っ白になった。まさか…――

「マ…マジかよ…それ」

ギコはモララーに聞いた。声が震えていた…顔が青ざめているのが自分でも分かる

「ああ、本当だ…本人からハッキリ聞いた」

モララーはうつむきながら言った。

「そんな……」

ギコは信じられなかった。何がなんだか分からなくなって涙がこぼれそうになった。歯をくいしばり、ギコはそれをこらえる

「しぃがアメリカに行くのは夏休み最後の、8月31日の夜…」

ギコは上の空になりながらも、必死にモララーの話を聞いていた。

「その夜にしぃは空港へ向かい、9月1日に日付が変わる0時に出発の飛行機に乗って、日本を発つ…」

「…………」

ギコは何も言えなかった。この出来事が嘘であってほしいと…そんなことばかりを考えていた。

「なぁギコ…気持ちは分かるが、こうなったらやることは一つだろ?」

モララーは力強い口調でギコに話しかけた。

「しぃに想いを伝えるんだ! 幸いな事に、しぃは夏休みの間ならまだ日本にいる! そのうちに思いを伝えるんだよ! 後悔の無いようにな!」

「…ああ、分かった。最後の…最後だもんな…夏休みが終わったら…もう…会えないんだもんな…」

ギコはモララーの言葉をうけて、絞り出すように言った。

そして…7月22日終業式…忘れられない夏が始まる……


第四話 ラスト・チャンス


「…というわけで、夏休みの間は健康管理に気をつけて…」

終業式……

長ったらしい校長の話はギコの耳に入る前にかき消されていった。

列に並んで座る生徒たち、ギコは前の方を見た。

しぃの背中が見える、しぃは校長の話を真剣に聞いている様子だった。

「…………」

ギコはモララーの言った言葉がまだ信じられなかった。しかしこれは事実、この最後の夏休みでしぃに思いをつたえなければ…

でも…どうやって? どんな言葉をかけたらいい?

しぃに告白する…考えただけで心臓が暴れだす…

でも…これがラスト・チャンス…何とかしなければ…何とか…

そんなことを考えているうちに終業式は終わり、瞬く間に下校の時刻になった。

家に持ち帰る荷物を詰め込んだいつもより重いカバンを持ち、校門坂を駆け下りようとしたとき…

「ギコくーん」

後ろから聞き覚えのある透き通った声…しぃだった。

「し…しぃ…」

しぃの事をまた考えていた所にしぃが現れたのでギコは少し驚いた。

「あれ? 今日はモララー君と一緒じゃないの?」

ギコは普段モララーと話しながら帰っていく、今日はどういうわけかモララーは先に帰ってしまったのだった。

「あ…ああ、モララーのやつ先に帰ってるって…」

「ふーん…じゃあギコ君、今日は私と一緒にかえろ♪」

「えっ!? あ…ああ! いいよ、一緒に帰ろう」

驚いた…しぃに一緒に帰ろうと誘われるなんて初めての事だ、嬉しかったが思わずあせってしまった。

そしてギコとしぃは並んで帰る、何か言わないと…と、ギコが思った時にしぃがギコに言った。

「ねぇ…ギコ君…私がアメリカに行くって話は聞いた?」

ギコは思わずドキッとする

「ああ…モララーから聞いた…」

「…………」

しぃは寂しげな眼をすると、黙り込んでしまった。あの元気なしぃのこんなにも悲しい眼は初めてみた。

「…………」

ギコも思わずつられて黙り込んでしまう

(くっ…馬鹿か…俺は…こういうときに何か言葉をかけてやれなくてどうする…)

ギコは自分を心の中で責める

「あっ! そうだ! しぃは夏祭り行くか?」

ギコは重苦しい空気を打ち壊すため言った。

「えっ? 夏祭りって7月の29日にあるやつ?」

しぃは顔を上げてギコの顔を見た。どうやらギコのこの言葉で、重苦しい雰囲気を打ち壊すことは出来たらしいギコは少しホッとする

「ああ、もし行くんだったらさ 俺と一緒に見て回らない?」

ギコは勇気を出してしぃをさそってみた。

「うん♪いいよ、でもめずらしいねギコ君がそんな事言い出すなんて」

「そ…そうかな…」

その時

「おーい、しぃちゃーん」

しぃを呼んだのはしぃの友達のレモナであった。

「ねぇ、しぃちゃん久しぶりにあそこのケーキ屋さんにでもいこうよ」

「うん…でもギコ君が…」

しぃはギコの方を見る

「ああ…俺はいいよ、後は一人で帰るからさ」

「そう…ごめんねギコ君、それじゃあまた夏祭りでね~」

「ああ、じゃあな」

ギコはしぃと別れた。その時

「ギコ~見てたぞ~やるなオマエ」

「ギコも隅に置けないモナ」

なんとモララーがギコの肩に手をまわしてきた。おまけに友達のモナーまでいる

「モッモララー…なんで…先に帰ったんじゃ…それにモナーまで…」

「帰った振りして様子を見てたんだ、意外とやるじゃんギコ」

「いや~今日はいい物見せてもらったモナ~」

「お…おまえら…」

今までのことを全て見られてたのかと思うと流石に恥ずかしい

「ギコ、後は夏祭りだな…しっかりしろよ…!」

モララーが真剣な眼差しで言った。

「ああ…分かってる……」

ギコは決意を固めるのだった。

一方……

「ねぇ…さっきギコと何しゃべってたの?」

レモナがしぃに聞く

「…ん?別に…」

「ふーん…なーるほどね」

「えっ…何が…?」

「なんでもー」

こうして…しぃとの最後の夏が始まった。


第五話 夏祭り


夏休みに入り、数日…ついにしぃと約束した夏祭りのある7月29日になった。

ギコは自転車に乗り、夏祭りのやっている神社へ向かった。

「…………」

自転車のペダルをこぐたびに気持ちのよい風が吹く、夜も近づき夕日が西の空へとゆっくり沈んでいく

ペダルをこぐ音が蝉の鳴き声にかき消される…どこかの家の風鈴の音もまじっていた。

やがて、神社が見えた。流石に夏祭りと言うだけあってたくさんの人で賑わっていた。

ギコは神社に着くと自転車を止め、祭りの賑わいの中へ入って行った。そしてしぃを探す…

「よっ! ギコ! 早かったな」

後ろから突然声をかけてきたのはモララーであった。

「おお、モララー! なぁしぃ見なかった? 探してんだけど」

「いや…まだ見てないけど、まぁ…それよりその…なんだ…がんばれよな…」

モララーは少し聞き取りにくい声でそう言った。

「ああ…やるだけやってみる…」

とは言ったものの、ギコに自信は無いが…

「さて…じゃあ僕は二人の邪魔になるといけないから向こう行ってるわ…じゃあな! うまくやれよ!」

「あっ…おい…」

モララーは走って人ごみの中に入って行った。ギコは再び一人になってしまった。そしてギコはまたしぃを探した。そしてようやくしぃを見つけた。

しぃは神社の入り口の所にいた。どうやらまだ来たばかりらしい

「よし…!」

ギコは深呼吸をひとつすると、しぃに声をかけた。

「しぃ!」

「あっ、ギコ君ごめんね待たせちゃった?」

「い、いや…そんなこと無いよ、じゃあ行こうか」

ギコはそう言って、しぃと歩き出す。ギコはふとしぃの方を見た。

しぃは浴衣姿だった。普段見ることのできないしぃの姿に、緊張がより高まってしまう

「ねぇギコ君、私一番最初はレモナちゃんと来てたんだよ、そしたらレモナちゃんたら、ギコ君との時間を邪魔しちゃいけないからとか言ってニヤニヤしながらどっか行っちゃったんだよ、まったく何考えてるんだろ…」

しぃは赤くなりながらそんなことを言う

(や…やばっ…むちゃくちゃカワイイ…緊張がさらに…)

ギコはもうすでに緊張が限界近くまできていたが、気力をふりしぼりしぃと話した。

「へぇ…そうなんだ、俺もさっきモララーに会ったんだけどしぃと同じような事言われてさ…」

「ふふっみんな言うことは同じなんだね」

しぃはそう言って笑った。

それからしばらくはこんな感じでしぃとギコは話しながら歩いていた。最初は緊張していたギコも、慣れてきたのか普通にしぃと話せるようになっていた。
そして二人で屋台に出ているものを買って食べたり、金魚すくいなどもやったりした。そして…夏祭りもいよいよ終わりが近づき、最後の打ち上げ花火を残すのみとなった。

「そろそろ最後の花火がやるころじゃないか?」

「神社の階段の上から見ようよ」

ギコとしぃは本堂に続く長い階段を登る

「ここらへんでいいんじゃないか?よく見えるし」

ギコは階段の途中で座った。

「うん、そうだねここで見よう」

しぃもギコの隣に座った。

やがて……ドォン! という音とともに花火が上がった。

色とりどりの花火は次々に飛び、火花を散らし、消えていった。

「おおっ」

ギコの口からも思わず感嘆の声がもれる

「すごい! 綺麗…」

しぃは花火に見とれているようだった。

「…………」

ギコは想いを打ち明けるなら今しかないと思った。そして…勇気を振り絞ってしぃの名前を呼ぼうとした時…

「ねぇ…ギコ君」

しぃに先に話しかけられてしまった。

「何?」

「私ね…この街が好きだった。夏祭りも好きだったし、この街に住んでる人たちも、あたたかくてとっても好きだった。」

「…………」

ギコはただ黙って、しぃの話を聞いていた。言葉がすべて過去形になっているのが切なかった。

「でもね…ほんの少し前まで…私がアメリカに行くってわかる前まで、この街が好きって事…忘れてたんだ…」

しぃの声は震えていた…いまにも泣き出しそうだった。

「きっと…この街にいることが当たり前だと思ってたんだよ…いつまでもずっと…いられると思ってたんだよ…ずっと……ずっと………――」

しぃの目から涙がこぼれた。声が震えていて、言葉の後半は言葉になってなかった。

「さびしいよ…これで…この街とも…みんなとも…お別れしなくちゃいけないなんて…そんなの…さびしすぎるよぉ………」

「しぃ…」

ギコにはもうかける言葉が見つからなかった。あの元気で明るかったしぃが今、大粒の涙を流して泣いている…ギコは何にも分からなかった。しかし、ギコは言った。

「しぃ…寂しいのはしぃだけじゃない…みんなも寂しがってる…あんだけみんなに好かれたしぃなんだ…寂しくない奴なんかいるわけないさ、もちろん…俺も…寂しい…名残惜しいさ……」

「ギコ君…」

「忘れるなよ…しぃ…たとえ何年たとうが…おまえのことを忘れる奴なんかいない…俺はいつまでも…しぃの事は忘れない…」

「ギコ君……っ」

しぃはそう呟くとまたひとしきり泣き、やがて涙をぬぐうとギコの肩に寄りかかった。

いきなりしぃの体が密着してきたため、思わず体が強ばってしまう、緊張で心臓が跳ね上がっている

「あれ? ギコ君顔真っ赤だよ、照れてるの?」

「べ…別に…」

そりゃあ照れもするだろう、女の子にこんなことをされたのは初めてなのだから

「ふふっ…何か…ほんとに恋人同士みたいになってるよね…私たち」

しぃは悪戯っぽく笑って言った。ギコは思いを伝えるならここしかないと思いつつもやはり言えなかった…好きだというその一言だけが…

そして…花火も終わり、夏祭りは終了した。ギコはしぃと別れ、ギコも帰ろうと自転車の置いてある所へ向かった。

賑わっていた神社にはもう人影もなく静まりかえっていた。ギコは神社の裏のあたりに自転車を止めたのでそこまで行った。

するとそこにモララーがいた。

「モララー…」

「どうだった…しぃは…何て言ってた?」

モララーはギコに聞いた。

「…結局…言えなかった…好きだって」

ギコうつむきながら答えた。

「………そうか…言えなかったか…」

モララーはそう言うとうつむいた。

「ああ…言えなかった。どうしても…」

「………るな」

モララーが何か言った。

「ん? 何だモララー?」

「……ったんだ…」

「えっ? なんだモララー? 良く聞こえない…」

ギコがそう言ったとき、モララーがうつむいていた顔を上げた。その目には涙が溜まっていた。

「ふざけるなっていったんだぁ!!!!!!」

モララーがそう言うのと同時にギコの腹に強い衝撃が伝わった。


第六話 狂いだす心


「がはっ !!!」

ギコは腹を押さえてうずくまった。何だ? 何が起こった ?見上げるとモララーがいつもとは違う鬼のような形相でギコを睨みつけている、その時初めてギコはモララーに殴られたことに気付いた。

「モララー…なんで…」

ギコは立ち上がりながらモララーに言った。

「はぁ!? 何で? わかんねぇなら教えてやるよ! テメーが根性無しだからだよ!」

モララーは大声でギコを罵倒する

「モララー…」

「なさけねぇ!!! 好きな人に好きって一言も言えねぇのかい!!! こんな奴のために今まで引き下がっていた俺が馬鹿だったぜ!!!」

「モララー… 引き下がっていたって何だよ…」

「わかんねぇか!!! 俺もしぃの事が好きだったんだよ!!!!!」

「!!!!!」

ギコは驚いた。まさかモララーもしぃが好きだったとは…

「俺はなぁ…しぃが好きだったよ…でもなぁ…お前にしぃの事が好きって相談されたとき、俺はお前のために自分は引き下がろうって思ったんだ、お前は昔いじめられていた俺をかばって助けてくれて、ずっと友達でいてくれただろ、だから…」

モララーはそこまで言うと泣き出した。

「でも…お前には失望したぜ…まさかこんな弱虫の根性なしのヘタレ野郎だったなんてな」

「…………」

「もういい…しぃには俺が告白する…テメェみてぇな奴にはしぃはもったいねぇんだよ…!」

モララーがそこまで言ったとき、ギコが叫んだ

「てめぇ!!!! さっきから聞いてりゃ調子こきやがって!!!!」

そしてギコはそのままモララーに殴りかかった。

「ぐはっ!!!」

モララーはギコに顔面を殴られて吹っ飛んだ

「てめぇ!!!」

モララーが言ったときギコが言った。

「俺が根性無しだと? じゃあ聞くがお前はしぃのために何かしたのかよ! 俺は確かに告白はできなかったが、しぃの事はうけとめてやったつもりだ! お前は何かごちゃごちゃ言って、結局しぃに告白するのが怖くて逃げてるだけだろうが!!!」

ちがう、ギコだってしぃに何かしてやった訳ではない…それに今回の事はやはり、この期に及んで勇気の出ないギコが悪いのだろう、しぃの事が同じく好きなモララーが怒るのも無理は無い…ギコ自信もそれは分かっているはずだった…しかしギコの口が自然にモララーを罵倒していた。それは自分のほうがしぃに対する思いが強いんだ言う意地なのだろうか…

「て…てめぇ…!! 言うに事欠いて……殺してやるぞ!!!」

モララーは再びギコを殴った。

モララーが殴るからギコも殴った。

すると再びモララーがギコを殴った。

ギコもモララーを殴った。

仲のよかった友達同士の二人はいつまでも殴りあった…お互い意地を張り合って……

恋愛は誰かを思い、大切にする反面、人を狂わす事もある…恋愛の闇の部分はある日ある時突然顔を出す、そして…人を惑わし、狂わせる……


第七話 友達


「うおらぁっっっ!!!」

ギコのパンチがモララーの顔面に炸裂する

「ごっ……つっ…や…野郎っ!!!」

モララーもギコに思いっきり蹴りを入れる

「ごふっ…くっ…はぁ…はぁ…」

ギコとモララーの二人はただひたすら殴りあった。くちびるが切れても、鼻血が出ても…

(くっ…コイツ…こんなに体力あったっけ…)

ギコは激しい喧嘩を続けても、まったく疲れる様子の無いモララーを見てそう思った。そう…モララーは昔から体力のあるほうではなかった。だから少し走っただけでも息を上げてしまうため、小学生のころにみんなにからかわれ、いじめられていたのだ、そうだ…ギコはモララーと長い付き合い…小学生の頃からの友達だからモララーの事は良く知っている、モララーの体力の無さは今でも変わって無いはずなのに、今のモララーはまるで人が変わった様だ…

モララーはギコの方を見て、まだ立っている…

(ギコ…お前は…俺の…一番最初の…友達…だったよな…)

モララーはギコに殴りかかりながら昔の事を考えた。

ギコにモララーの拳がえぐり込む…すぐその後、ギコのボディブローがモララーのみぞおちに深く入る…

「ぐほっ……」

(ギコ……俺たちって…友達…だよ…な……)

(そう…あの日から…ガキの頃……いじめられてた俺をおまえが…助けてくれた…あの日から…)

そう…あれは…まだモララーが小学三年生の頃だった…


第八話 昔


モララーはいつでも恐怖に怯えていた。クラスの奴とすれ違えばコソコソと悪口を言われ、ひどい時には殴られる…

嫌だった。こんな毎日が…

誰も助けてくれなかった。

「はい、今日の体育はサッカーをやります」

体育の授業になるたびに憂鬱になる…バカにされるからだ…

「はぁ……はぁ…」

サッカーが始まって10分後…もうモララーは疲れきっていた。

「なんだぁモララー? もう息が上がってんのかぁ?」

聞きたくもない自分をバカにしたいじめっ子の声が聞こえた。

「まったく…テメーみたいなのがチーム内に一人でもいると迷惑なんだよなぁ」

モララーの学校ではサッカーなどをやる時、クラスを2チームに分けてやる事になっていた。モララーは、自分をいじめている奴と同じチームだったため、事あるごとに小言を言われ、いじめられていたのだ

しかし、そんな事を言われたってしょうがない、これがモララーの体力の限界なのだ
どうしようもない…

「よーしそこまで、試合終了!」

先生の声とともに、試合が終わった。モララーの入っているチームの負けだった。

そして、当たり前のようにモララーは授業の後いじめられた。

「おい!テメーのせいでまたうちのチームが負けたぞ! どうしてくれんだよ! 何とか言えよオラァ !!!」

モララーは自分のチームの数人に、殴られ、蹴られる…負けたのは自分だけのせいでは無いはずだ、それなのに……

「ひぃっっ…やっやめて…」

モララーは殴られながら言った。

「やめてだぁ!? じゃあその前にもう少し体力を付けろよ! テメーのためにどれだけの人が迷惑してると思ってんだよ! 自分がいじめられるのは当たり前の事なんだよ! 分かってんのか!? え!? このもやしっ子がぁっ!!!」

いじめっ子はモララーに罵声を浴びさせ、踏みつける…もうモララーは嫌になった。死んでやろうと思った。

そんな時だった。アイツに出会ったのは…

ある日、モララーのクラスに転校生が来ると聞いた。

モララーはどうせその転校生も一緒になって自分をいじめるんだろうと思った。

とにかく当時のモララーにはそういう考えしかできなかった。

やがて先生に連れられて、転校生が入ってきた。

「転校生のギコ君だ、みんな仲良くしてあげてね」

先生に紹介された後、転校生は自己紹介した。

「ギ…ギコです。みんなこれからよろしくな…」

これがギコとの出会いだった。


第九話 今度は俺の番


ギコが転校してきて一週間ほどが過ぎた。ギコは転校生だったが、すぐに友達もでき、みんなに打ち解けていった。

だが、その時はまだモララーとギコは話すらして無かった。

事が起きたのはある日の体育の授業の後だった。モララーがいつものようにチームが負けた責任を押し付けられて、数人がかりでいじめられてる時だった。

「オラッ!!! 何とか言えやテメェ!!!」

「や…やめ…」

モララーが腹に蹴りを入れられたその時…

「おい! 何やってるんだよ!」

ギコだった。ギコがいじめっ子たちに向かって怒鳴りつけたのだった。

「あ? お前は…転校生か、何でこんなとこに来てんだよ、ここ体育館裏だぜ」

いじめっ子達の視線が一斉にギコのほうに移る

「声が聞こえたからな…それより質問してんのはこっちだ、何をしていたんだよ!」

ギコはいじめっ子の目を一直線に睨み付けながら言う

「何だ? 見て分かんないのかよコイツのせいでチームが負けたから、俺たちが生徒を代表して指導してやってんだよ言っとくがな、これはいじめじゃないぞコイツの事を思って指導してあげてるんだから、ヘンな勘違いはすんなよ」

いじめっ子はニヤニヤしながら言う

「ふざけろっ!!! 嫌がってんじゃねぇかソイツ! 何がコイツのためだ! 屁理屈もたいがいにしろ! ゴミども!」

ギコいじめっ子を睨みつけたままで言った。

「ほ~…で? ご立派な事ぬかしたギコ君はこれからどうするつもりだい? 先生にでもチクリに行くかい? まぁもっとも…ここから逃がしはしないけどねおい、囲め!」

いじめっ子の一人の言葉で、他のいじめっ子たちはギコを逃げられないように囲んだ、その数は三人…

「やれぃっっ!!!!」

いじめっ子の一人の合図で、ギコを囲んでいた三人が一斉に殴りかかる

「ひいっっっ!!!」

モララーは思わず目をつぶる

ガツン!!! という大きな音がして突然静かになった。

モララーがおそるおそる目を開けると、そこには鼻血を出してうずくまるいじめっ子三人の姿があった。拳がギコに当たる寸前でギコはしゃがみ、いじめっ子をたがいに殴らせたのである

「うっうわ…おい…おまえら…うっ…うわーっ!!」

「あっ…待って…!」

いじめっ子達は逃げた。

「ふーっ…間一髪…あと少しでパンチが当たるとこだった…あっそうだ大丈夫だったか? えーっとモララーつったっけ?」

「あ…うん…」

「安心しろよ、これからは俺が友達になってやるよ」

「うっ…あ…ありがとう…」

モララーは泣きながら言った。誰も助けてくれなかったモララーに、暖かい言葉をかけてくれた…彼…ギコの存在は…モララーにとって誰よりも輝かしい物になった。

そして、この出来事の後…今までモララーをいじめていたいじめっ子達の悪事が先生にバレ、いじめっ子達は親からも先生からもこっぴどくしかられ、モララーへのいじめはおさまった。ギコはモララーに言ったとおり、モララーの一番仲のよい友達になってくれた。

そして時は過ぎ、中学生になってもギコとモララーは仲がよく、中三の時には同じ学校を受験し、お互いに勉強を教えあいながら二人して同じ高校に入る事が出来た。

そして二人が高校生になったある日…

「なぁモララー…おまえ好きな人いる?」

「ん? そう言うギコはできたのか? 好きな人」

「あ…ああ…まあな…」

「へぇーだれだよ? 俺達のクラスの子?」

「ああ…」

「えっそうなの? 誰? レモナさん? のーちゃん?」

自分のクラスの子だと聞いたとき、少し悪い予感がしたため、モララーはわざと<あの人>以外の名前を言った。

「しぃ…しぃっているだろ…あの子さあ…かわいいな…と思って…」

予感は的中した。親友であるギコの好きな人はモララーの好きな人だったのだ…

「そ…そうか、しぃか、そうだよな…かわいいもんなあの子…」

モララーはその日、家に帰ってその事について考えていた。

(はぁ~…親友をとるか…好きな人をとるか…現実にこんな事ってあるんだなぁ)

モララー自分の部屋のベッドで横になりながらしみじみとそんな事を思っていた。

モララーはしばらく考えて、決めた。

(ギコは昔、いじめられてた俺を助けてくれた。しかも、ずっといままで友達でいてくれた。ギコがいなかったら俺は多分ずっといじめられていただろう…ギコがいたから俺は変われたんだ…今の俺があるのもギコのおかげだ…だからあのギコがしぃの事を好きだって言うなら俺は引き下がろう…くやしい気もするけど…でもそれが俺に出来る精一杯のギコへの恩返しなんだ)

モララーはそう思った。他の奴ならいざしらずあのギコだ…モララーは本気でそう思った。

今度は俺の番だ――……

俺がギコの役に立ってやるんだ――…


第十話 蛍の光


(そうじゃないか……俺はギコに助けてもらわなかったら今頃俺は…だからこそ俺は引き下がってたんじゃないか…何も言わずにギコの相談に乗ってあげたりして見守ってあげるつもりでいたじゃないか…あの時…決心したじゃないか
…それなのに俺は…いまさらギコにしぃのことが好きみたいな事を言って…
勝手にイラついて…俺はたとえどんな結果になろうとギコの事を見守るって
…応援するって決めたんだ…なのに…なんで俺…ギコが告白できないことで
こんなにキレてんだ? しかも殴り合いになって…何で? 何で俺らこんな事してんだ? 親友だろ? 俺達………バカだ…俺って…)

「おらぁっ!!!」

ギコのパンチはモララーの鼻に直撃した。

「グッ…」

モララーはひるんで顔をおさえた。

(いままでのモララーの攻撃パターンだと、この後に右ストレートが来るはずだ…!)

ギコは瞬時に判断し、顔面をガードする…しかしモララーからの攻撃が来ない、ギコはおそるおそるガードを解いてモララーの方を見ると、モララーは倒れていた。

「モララー…」

モララーの目には涙が溢れていた。顔はギコに殴られてひどい顔になっていた。おそらくギコも同じような顔になっているだろう

「悪かった…ギコ…俺の負けだ…」

モララー静かに言った。

「ギコ…俺はお前を見守るって…どんな結果になっても文句は言わないって…
決めたはずなのに…おまえにせめてもの恩返しをしようとしたのに……恩返しどころか…恩をあだで返しちまった……」

「モララー…お前…」

「ごめんな…あんなに殴っちまって…ただ…俺も……しぃがこの夏の終わりにいなくなるって事に…ちょっとあせってたのかもな……俺も……しぃの事が…
大切だから……だから……ちょっと…あせっちゃったのかな……」

モララーの目からは堰を切ったように涙が流れた…今まで自分が抑えていた物がすべて体の奥底から溢れ出しているような、そんな止まらない涙が溢れ出していた。

気がつけばギコも泣いていた。でも、強がりなギコはモララーに涙を見せたくなくてこらえようとしていた。しかし、ギコの涙もまた止まらなかった…自分の意思とは無関係に目から溢れ出す…そんな涙が…二人の目から溢れ出し、ふたりして作った顔のキズを洗っていた。さっきまでの出来事を全て洗い流すかのように…

空を見上げれば満天の星空…夏の星座が瞬いていた。でも今の二人の目には涙でぼやけて良く見えなかった…

やがて…ギコが口を開いた。

「モララー…俺の方こそ、お前の気持ちに気づいてやれないで、おまけにビビッてばっかりいた。お前が怒るのも当然だ…本当に悪かった…」

「ギコ…お前が謝る事は無いさ…俺こそ本当にごめんな」

「モララー…これからも…俺の友達でいてくれるよな…」

「ギコ……ああ…もちろんだ! こっちからお願いするよ…」

モララーは嬉しかった。ギコに友達でいてくれるよな と言ってくれた事がとても嬉しかった。そして、モララーはギコに言った。

「なぁギコ…俺はもうお前に、しぃに告白しろなんて言わない…どうするかはお前が決めて、お前で動けばいいんだ…俺はその結果どうなろうがお前を責めたりしない」

「ああ…分かった……」

「それにな…ギコ…告白できないからって自分を責める事はないんだぜ、後悔もしなくていいんだ………ギコ…お前“鳴かぬ蛍が身を焦がす”ってことわざ
知ってるか?」

「ん? なんだそりゃ?」

「ようするにこう言う事だ、セミとかの虫たちは鳴き声を上げてメスに求愛するんだけどな、蛍っているだろ? ほら、あの光を出す虫だよあの虫は鳴き声を出す事が出来ないから、代わりに光を出してメスに求愛するんだが…鳴き声を出すことの出来ない蛍がメスに思いを伝えようと出すその光は…まるで自分の身を焦がしているようだ……」

「…………」

ギコは黙ってモララーの話を聞いていた。

「だから口でああだこうだと言うよりも、黙っているほうがその思いは強いと言う事なのさ…まぁ…古臭い言葉だけどね」

モララーはそう言った。しかし、ギコにはそれが特別な言葉に思えた。ギコはまだ蛍を図鑑くらいでしか見たことが無かったが、思いを伝えたいと言う強い気持ちを込めた蛍の光が、今のギコには目に見えるようだった。

やがてギコとモララーの二人は、お互いに手をふり「じゃあな」と言ってそれぞれの家に帰っていった。ギコは自転車に乗り、家に向かう道を走る
やがて、ギコは家に着いた。

「ただいま~」

「あれ~ギコずいぶん遅かったわね」

ギコの母が玄関に出てきた。

「あら? どうしたの? 何か顔がキズだらけみたいだけど…喧嘩でもしたの?」

ギコの母は、ギコの顔のキズを見て言った。

「ああ、これ? ……ちょっとね…じゃれ合っただけだよ…大切な…一番の友達とね」

ギコは苦笑いしながら言った。

こうして、しぃとの約束の夏祭りは終わった。


第十一話 光の案内人


あの一日がやけに長く感じられた夏祭りの日から4日後…

8月2日の夜の事だ、ギコが自分の部屋でゴロゴロしている時、ギコがふと窓の外を見るとなにやら光が横切ったように見えた。

「…?」

ギコはゆっくりと立ち上がり窓のほうへ向かった。そして窓の鍵を開け、窓を開ける

窓からは夜風が吹き込んで来た。ギコの部屋は今、クーラーがきいているため涼しいはずの夏の夜風が少し生暖かく感じる

夜風に吹かれ、風鈴が夏の音色を奏でる…やはり外の気温は少し暑く感じた。

ギコは先ほどの“光”を探した。不思議な光だった。懐中電灯の光とも、街灯やトラックなどの光とも違う、何か緑ががった…と言うか青白いと言うか…とにかく見たことも無いような…不気味で幻想的な…そんな光だった。

大体ギコがいるこの部屋は二階、向かいの家の光もあんなふうに見えるはずもないし、第一あの光はスーっと横へ動いて行ったのだ

「まさか…な…」

まさか人魂や幽霊と言う訳でもないだろう先祖が帰って来るには少し気が早いような気もする

「フッ…ばかばかしい、目の錯覚か…」

ギコがそう言って部屋の窓を閉めようとした時…


スーッと…光が横切った……


「……さっきの光!?」

今度は見間違いなんかじゃない、確かにギコの目の前をスーッと不思議な光が通った。

見たことも無いその光、ギコは目でそれを追う、その光は再びギコの目の前…手を伸ばせば届くくらいの位置に来た。

それはギコの目の前でゆらゆらと揺れ動く…何色とも言いがたい不思議な光を発しながら…

「なっ……何なんだよ…これ…」

ギコは生まれて初めて見るその不可解な物に言葉を失った。思わず背筋が寒くなる……

「ほっ…本当に人魂じゃないだろうな…」

ギコは勇気を出して、その光に触れようとした。しかし…

「あっ…」

光はギコの手が触れる前に家の庭の辺りに降りて行った。

「くそっ! こうなったらあの光が何なのか徹底的に調べてやる!」

そう言うとギコは自分の部屋を出て、親に「ちょっと散歩して来る」と言って親の返事を待たずに家を飛び出した。

早速ギコは先ほどの光を探す。しばらく探していると、ギコの目の前にさっきの光が…

「見つけた!」

ギコはそれを追いかける、しかし光の方はまるでギコから逃げるようにギコの身長よりも高く飛び上がり、前に進んだ

ギコはひたすらそれについて行く

(それにしてもどこまで行くんだ? ん? そう言えばこのまま進むとAA公園にに行くはず…)

AA公園はここら辺で一番大きな公園だ、奥のほうには小さな川も流れており、森も茂っている

ギコの思ったとおり、光はAA公園まで来た。そして公園の奥にある深い森の中へ入っていった。

「何かまるであの光に案内されたみたいだ……」

ギコの目の前にあるAA公園…その奥にある森は街頭の明かりも無く、全てを飲み込んでしまう様な漆黒の闇に包まれていた。

「あそこだよな…光が入っていった所は…」

ギコは公園の中に入ると、森のほうに向かった。近くで見る森は更に暗いように見えた。その時、森の奥で何かがぼんやりと光った。間違いなくさっきまでギコが追いかけてきた光の色だった。

「この森の奥だな……よし…」

ギコはゆっくりと森の奥へ入っていった。


第十二話 幻想


ギコは暗い森の中を進む、森の奥で怪しく光る謎の光に導かれるように…

「…………」

やがてギコは光のすぐ近くまで来た。ギコはそのまま前へ進む

「なっ……これは…」

ギコが見たものは先ほどまでギコが追いかけてきた光が無数に飛び交う姿だった。

光は川が流れている近くをふわふわと飛び交い、ギコの目の前にも飛んできた。

(な…何なんだ…これは…まるで…夢の中の出来事の様だ…)

その時ギコはハッとして目の前の光を優しく手で包み込んだ

ギコが静かに手を開けると、ギコの手の中でまだその光は光っていた。よくよく見るとなんとギコの手の中にいるのは小さな虫だった。それが光を放っている

「蛍…? そうだ!!! 蛍だ!!! 今まで図鑑でしか見たことの無かったあの蛍だ!!!」

やがて、蛍はギコの手の中から飛び立ち、たくさんの光の中に入って行った。

「ま…まさか…この街にこんな場所があったなんて…!」

ギコは長いことこの街に住んでいるが、こんな場所があるとは全く知らなかった。

ギコは沢山の蛍を見て思い出した。モララーの言っていたあの言葉を…

“鳴かぬ蛍が身を焦がす”……まさに言葉の通り、蛍は身を焦がす様に光っていた。闇夜は…まるで昼間のように明るく照らされていた。

「………そうだ…しぃにも…この光景を見せてあげたい…」

そう、それは…ギコが目にしているその光景は…一人で見るにはあまりにも惜しい光景だった。誰かと見るならやはりしぃだろう…ギコはそう思った。

しかし、しぃにこの光景を見せてあげるにはしぃをここに呼ばなければいけない…今はもう夜…迷惑に思うかもしれない…しかしギコはやはりこの光景をしぃに見せてあげたかった。

ギコはポケットの携帯をにぎりしめた。


第十三話 踊る光


ギコはしぃの携帯に電話を掛ける、(しぃはなんとクラスの男子全員に自分の電話番号を教えていたのだ)森の中だと電波が悪いので一旦森の外へ出る

(ぐっ…緊張するぜ…なんせ当たり前だが、しぃはおろか女の子に電話掛けたことなんかねぇもんな…)

それでもギコは勇気を出す、もうこの夏が終われば日本にはいられないしぃのために…なんとしても見せてやりたい…日本でしか見ることのできないであろうこの幻想的な光景を…

きっとこれは…ギコがこの場所を見つけることが出来たのは決して偶然などでは無い…蛍が…心の内に熱い思いを秘めた今のギコの様な蛍が…ギコをここまで案内…導いてくれたんだろう…今にして思えば、ギコがここに来る前に追いかけてきたあの一匹の蛍は、まさにギコをここまでつれてきた様だった。

ギコの携帯はしぃに電話を掛けている…しばらくして…しぃの声が電話越しに聞こえた。

「はい、しぃですけど…」

「あっ…しっ…しぃか? 俺…ギコだけど」

(アチャーやべぇ…少し声裏返ったか…?)

ギコは少しへこむ

「えっ…? ギコ君?? ギコ君なの? うわぁめずらしいね…って言うか初めてだよね!? ギコ君から私の電話に掛けてきてくれるなんて」

電話からしぃの明るい声が聞こえる

「ああ、そうだね…それより突然電話してごめん、迷惑じゃ無かった?」

「ううん、ぜんぜんいいよ、この前夏祭りでギコ君に言われたことが嬉しかったからさ、また話をしたいと思ってたんだよ迷惑どころかうれしいよ、ギコ君とまたこうして話ができて♪」

迷惑に思うどころかギコの電話をうれしいとまで言うしぃ、ギコは嬉しかった。おまけにしぃのあの明るい口調で感謝なんかされた日にゃ緊張が倍増する…

(おいおいおいおいおいおい…しっかりしろよ俺!)

「ところでギコ君、どうしたの? 私になにか用事?」

「あ…ああ、そうなんだよ! しぃに今すぐ見せたいものがあるんだ、だから暇なら来てほしいんだけど…」

「見せたいもの? うん、分かった。じゃあ来てほしい所ってどこ?」

「AA公園って分かるかな…そこで待ってるから」

「うん、分かるよ、AA公園ねじゃあ今から行くから待ってて」

そこで電話は切れた。

「フゥ~…緊張した~電車男もこんな感じだったのかな~」

ギコは深呼吸をしながらそんなことをしみじみと思う

(でも俺って、昔と比べたらずいぶん勇気が出るようになったよなぁ…気のせいかもしれないけど)

ギコは夏休みに入ってからの自分の行動を思い返してそう思った。

(でも…遅すぎるよな……いまさら勇気が出るようになったって…結局俺は何でもせっぱ詰まらなきゃやれないんだよな…)

ギコは改めてしぃが夏の終わりとともに日本からいなくなってしまうと言う現実を思い、胸が苦しくなった。しかし、森の中で踊る無数の蛍を見せてあげれば…しぃの喜ぶ顔を見れれば…いいのではないかと思った。

ギコはAA公園の入り口でしぃを待った。


第十四話 心に残る光景


しばらくして…やっとの事でしぃが来た。

「ギコ君、おまたせ~それでさ見せたい物ってなに?」

「ああ、こっちだよついて来て」

「うん♪それよりギコ君そのほっぺの絆創膏はどうしたの?」

「あ…ああこれか…ちょっと転んじゃってさ…」

まだギコはモララーと殴りあった傷が消えてなく、顔に絆創膏が貼ってあったと言っても右頬に一つだけだが…まさかモララーと喧嘩したとも言えまい

そして二人は、森の中へ進む

「なんか…暗くて不気味だね…」

しぃはギコの少し後ろを歩きながら言う、その時森の奥のほうで蛍が光った。

「えっ…何…なに…今の変な光…」

「見てからのお楽しみだよ」

ギコはしぃに言う、その時しぃがギコの手を強くにぎった。

(は? ……うっ……ええええええええええええっっ!!!!!)

ギコは驚きしぃの方を向くと、しぃはどこと無く不安そうな顔をしている、恐らく今の光が怖いのだろう

(あ……しぃが怖がって俺の手をにぎってきている!?)

ギコはもはや半パニック状態、心臓の中でいろんな物が暴れている、頭に一気に血がのぼる

(うはwwwwちょっwwwお…おちつけぇっまずはおちつくんだっっ!!)

ギコの脳内で何かが爆発しそうになったその時

「あれ……う…うわぁ…」

しぃの手がギコから離れた。ホッとしたような残念なような…しぃは真っ直ぐ前を見て驚いている

ギコが緊張しながら歩いてる間にもう目的地には着いていたのだ。蛍が無数に飛び交うあの場所へ…

「す……すごい…蛍だよね…これ…」

「ああ、俺も最初に見たときは驚いたよ…あまりにすごかったからさ、しぃにも見てもらいたくて…」

「すごい…すごいよギコ君!何でこんなとこ見つけたの?」

ギコはしぃにいままであった事を話した。

「そうか…不思議だね…まるでその一匹の蛍に案内されたみたい」

「ああ、俺もそう思ったよ」

「きれい…ほんとに綺麗…こんな綺麗なもの見るの生まれてはじめてかも…」

しぃは蛍に見とれている、闇夜の中、蛍の光に照らされたしぃの姿はとても綺麗に思えた。

「ギコ君…私思うんだ…」

「ん?」

「ギコ君はその一匹の蛍に選ばれたんじゃないかな」

「選ばれた?」

しぃは意味深な事を言う

「うん、うまく言えないけどさ今まで誰もこんな場所があるって事に気がつかなかったのに、ギコ君は蛍に案内されてこの場所に来ることが出来た、これはきっと特別な事なんだよ、だからギコ君はこれほど綺麗な物を見るのにふさわしい人、特別な人として選ばれたんだよきっと…」

しぃは笑顔でギコに言う

「いや…そんな…俺はそんなに特別な奴じゃないさ…地味で頭だって良くないしさ」

ギコは照れながら言う

「ううん、そんな事無いよ、だってギコ君はこんなに綺麗なものをわざわざ私なんかに見せてくれたんだもん、ギコ君はすごく優しいよ…夏祭りの時にしたって私…ギコ君の言葉で元気付けられたんだから、ずっと落ち込んでたのにギコ君の言葉でもう落ち込まないぞ、泣かないぞって思えたんだ、だからギコ君が特別な人に選ばれるのなら分かる気がするよ」

「そ…そうかな…」

「うん、そうだよ…アメリカに行ったらさ…もうこんな光景は見れないだろうけど…今日の事…私は一生忘れないと思う、ありがとう…ギコ君」

「…………」

ギコはしぃに感謝され、とても嬉しかった。この嬉しさを言葉にしてしぃに伝えたかったがやはりギコは最後の一歩が踏み出せない…モララーは仮に言えなくても後悔する事はないよと言った。しかし…心の中でどう思っていようともやはり人間は思いを伝えられなければどうにもならないのだろうか……しかしギコには想いを伝える事が出来ない…なんだかんだ言っても結局はギコはその葛藤に苦しまなければならないのか…“鳴かぬ蛍が身を焦がす”…いまさらながらモララーに教えられたこの言葉がとても悲しい言葉だと思った。

そしてギコとしぃは二人でしばらく蛍を見た後、帰路についた。

「じゃあねギコ君今日はありがとう」

「ああ、またな」

ギコとしぃはお互いに手を振り合い、帰る

今日はまるで夢のような日だった。いろんな意味で…

(今日の事…私は一生忘れないと思う、ありがとう…ギコ君)

しぃの言葉がまだ頭の中に残ってる…たぶんギコもまた今日の事を一生忘れられないだろう


第十五話 おじいちゃんの知恵袋!?


お盆………

この日、ギコは祖父の家に向かっていた。毎年お盆になると行く事になっている

祖父の家は田舎にある、田んぼとかがたくさんあったりしてけっこうのどかな所だ

「…………」

ギコはだんだん田舎の景色になっていく車の窓の外を見つめていた。

ギコは車の窓を開けた。涼しい風が吹く…空気がとにかく新鮮に感じた。

…思い出す…昔まだ幼いころ…爺ちゃんの家に行った時、泥だらけになるまで遊んで…

ここに来るとそんな思い出が蘇る…まだ目に映るもの全てが新鮮な物に思えてたあの頃の思い出が…蘇る…

やがて車のエンジンの音が止み、車は停止した。どうやら着いたらしい

ギコは車から降りた。エアコンの効いていた車内から出ると、中と外の温度差に思わずくらっとなる

蝉の声はギコの街よりもうるさく感じた。どこからとも無く風が吹き、草の匂いがした。

「お~い親父~来たぞ~」

ギコの父が少し古い祖父の家の扉を叩く

「おお、来たか来たか、まぁ上がれや」

家の玄関から祖父が出てきた。

「こんにちは、爺ちゃん」

ギコは祖父に言う

「おお、ギコじゃねぇか、久しぶりだな」

しばらくして坊さんが来て、ギコたちは死んだ祖母の仏壇に手を合わせると、正座しながら坊さんのお経を聞いていた。

(はぁ~しかし毎年毎年足がしびれるんだよな…これが…)

ギコはそう思った。

ギコの祖母…婆ちゃんはギコがまだ幼い頃に病気で亡くなっている、だからギコは生きていた頃の婆ちゃんの顔をあまり覚えていない

やがて坊さんのお経が終わり、みんなはいろんな話を始めた。

ギコは縁側に座ってボーっとしていた。風鈴の音が聞こえる…

「よぉギコ」

ギコは呼ばれて後ろを振り向くとそこには爺ちゃんが立っていた。

「爺ちゃん…」

「おはぎあるから食うかい? 持ってくるぜ」

「ああ、じゃあ食べようかな…」

やがて、おはぎをいくつか皿に乗せてギコのとこまで持ってきた。爺ちゃんはギコの隣に座るとおはぎを食べ始める、ギコもおはぎを手に取った。

「しかしギコよ…お前この一年で妙に大人っぽくなったんじゃねぇか?」

「そうかな…そんなに変わったつもりは無いけど…」

ギコはおはぎを食べながら言う

「するってぇとあれだな…ギコ…おめぇ恋の事で悩んでんだろ」

「グッ……ゴホッ!?」

ギコはおはぎを喉に詰まらせた。それをすぐさまお茶で流し込む

「ゴホッ…な…突然何言い出すんだ…カンベンしてくれよ爺ちゃん…」

「カッカッカ…そのあわてっぷりからするとどうやら図星のようじゃの」

思いっきり図星だった。

「人は恋に悩む事で大きくなっていくもんなんじゃよ」

爺ちゃんはニヤニヤしながら言う

「いや…勝手に話を進めんなって…大体何の根拠があってそんな事…」

ギコが言いかけたとき、爺ちゃんは言った。

「雰囲気じゃよ、いつもなら元気なおめぇが今日はまるで女子(おなご)の様におとなしくなっておる」

「う……俺…そんなんだったか?」

「やっぱり図星のようじゃの、まぁ話してみぃ、何で悩んでおるんじゃ」

ギコはまるで超能力でも使ったかのようにこちらの悩んでる事をズバリと言い当てた爺ちゃんに不思議がりながらも、少しずつ話した。

「なるほどな…アメリカにのぉ…」

「情けねぇよ…俺…モララーの言った通りなんだ…モララーは言えなくてもいいんだなんて言ってくれたけど…結局のところ俺は葛藤に苦しんでるんだ…もう…どうしていいかわかんねぇんだ…」

「ギコよ…想いを伝えるとは何ぞや…?」

爺ちゃんがギコに聞いてくる

「だから…なんだかんだ言ったって…告白することだけ…やっぱり…」

「本当にそう思うかギコよ…」

「えっ…」

「本当に告白する事だけ…それだけが想いを伝える事になると思うか?」

「うっ…でも…いくら考えたって…」

「カッカッカ…やはりまだまだ若いのぉ」

爺ちゃんは高らかに笑う

「いいかギコよ、“好きです”とか“愛してます”とかそんな言葉はいくらでもかけられる、かけようと思えばな…だからそんな物よりも大切な物がある…」

「………?」

「何だか分からん様じゃな…それはその人に対する優しさじゃよ…お前はそれをもうすでにそのしぃとか言う娘にやっているでは無いか…しぃに優しくしている…それだけでいいじゃ無いか」

「で…でも…爺ちゃん…それじゃあ相手に好きだと言う気持ちが伝わらないかも知れないじゃないか、それに…好きな人に優しくするのは…当たり前の事であって…」

ギコがそこまで言ったとき、爺ちゃんが言った。

「おい…ギコよ…何を言っとるか、当たり前の事? そんな事ある訳が無かろうが」

「えっ…」

「いいか? 愛している人に優しくするのは当たり前とか、そういう事を言ってはいかん、好きな人に優しくする…それはすばらしい事なんじゃ…決して誰にもできる事ではない」

「爺ちゃん…」

「実際わしもな…婆さんに優しくしてやれんかったんじゃ…いつもいつも怒鳴ってばかりいた。愛

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー