ぽろろ関連のつもりです。虐殺ネタが少しでも入っているのが嫌いな方は遠慮したほうがよろしいと思われ
作:(・Д・)つ
プロローグ 2005/07/15(金) 17:30:31
月が灰色の雲に隠れ見えない。しかしうっすらと見える形から、満月であることがわかった。
AAたちの暮す、2chシティ。いつもなら数多くのAA住人が街を歩き騒ぎだっている。しかし今は深夜。
そんな中、青紫のAAが走っていた。青紫のAAはまだ幼い子供だった。
深夜には平和な2chシティでさえ、虐殺を行う者がやって来る。この数ヶ月連続して虐殺が繰り返されていた。
中には、わずかな肉片のみを残して死んだものも居る。
そんな時に子供一人出歩かせる親が居るはずは無い。
「どうして・・・」
青紫の子供は呟いた。かなりのスピードで走っているのにも関らず、呼吸は全く乱れていない。
少年はスピードを緩めずに、後ろへと振り返る。
誰も居ない。嫌居る。わずかだが気配と血のにおい。
「ボクは…」
もう誰も、殺したくないのに。
昼前の虐殺 2005/07/15(金) 17:31:51
話は昼前にまでさかのぼる。
少年の名前はぽろろという。
ぽろろは、普段のように街をブラブラと歩いていた。目的なんて無い。否、自分のための目的が無い。
ただ、やみくもに街から街へと渡り歩いているだけだ。逃げるために、殺さないために。
ぽろろには不思議なチカラがあった。そのチカラは、決して誰かを幸福にするものじゃない。
そして、そのチカラを狙って自分を追い掛け回す者が居ることに気付いた。その日からぽろろの一人の逃亡生活が始まっていた。
少し体を休めたらいつもどおりに、また別の街に行くはずだった。
はずだったのに。
しゃれた喫茶店で自分と同じくらいの子が笑っていた。
やはり自分は普通のAAではないと、何度も確認してしまう。誰かの笑顔を見るたびに。
それがうらやましくない、といえばウソとなる。少しの間といえど、自分もあのように笑っていたのだから。
「モナーさん、レモナさん…」
仲良く食事をしていたあの頃。もう、戻ってもこないし。もう、味わいたくない。
過去を振り返り、また歩き出そうとするぽろろの耳に、かすかな声が聞こえる。
「イァアア。ァアア」
半角喋りと呼ばれるその声。少し歩くとある、薄暗い路地から叫びは聞こえていた。
何だろうと思いつつ、大体理解している。
虐殺だ。
「イァアアアア。タスケテ!!」
桃色のAA、しぃ族の女の子が二人の男に乱暴をされていた。乱暴というより虐殺であろう。
耳は片方千切れており、もう片方は折れていた。体の殆んどが千切れかけていた。それでも男達は満足しておらず、傷口に爪を立て掻いたりはじいたりしている。
一見そんなに痛そうに見えないが、傷口の上をさらに傷つけられるのは痛いし気持ち悪い。肉がはがれる感覚まで解る。
「るせぇ!この糞虫が」
「次、カワハギ決定だからな」
ぐいっと契れた耳の隙間から皮をはごうと力を入れるモララー族の男。
「イアアアアアァァァ!!タスケテェ」
女の子は、誰かの名前を叫ぶがその悲鳴は届かない。
それをぽろろは黙って見ていた。
自分が彼らの虐殺を止めるなんてマネはできない。
ボクも同じなのだから。
「ギコタクン、タスケテェエエ!!」
女の子は、ギコタという名前を叫ぶ。その声に男の一人が反応し、頭部を蹴り上げようとした。
「待てや、ゴルァ!」
「ギコタクン!」
「しぃなにそれ以上なんかして見ろ!このギコタが許さねぇぞゴルァ!!」
ぽろろの反対側の路地から出てきたギコ族の少年。ビシっと男二人に人差し指を向ける。
「これかだからギコ族は」
男の一人が呟きながら両手をあげ、やれれと首を振る。
もう片方の男がナイフを取り出し、標的をしぃなからギコタへと変更する。
ギコタは黙ってファイティングポーズを取る。
何度かの殴り合いの後、倒れたのはギコタだった。ナイフによってその肌はズタズタに引き裂かれていた。
「まったく、だから言ったからな”これだからギコ族の男は”って」
「どういう意味だ?」
ギコタが倒れ泣き叫ぶしぃなと、未だ彼女を守ろうと立ち上がるギコタを無視して男は聞いた。
「そのまんまだからな。ギコ族は馬鹿なんだからな。放っておけばいいのに、格好つけるからこうなるんだからな」
「うっせぇ、てめぇの女一人守れないで逃げる。そんなアフォなギコタじゃねぇぞゴラァ!!」
倒れた状態でぼろぼろのギコタなのに、なぜかそれはとても強くぽろろの目に見えた。
ぴくりと、モララー族の男は反応する。
「なら、しねよ」
男はナイフを取りギコタの額を狙うように振り下ろす。
其れを止めたのはモララー族の男だった。
決意 2005/07/15(金) 17:32:58
「モラール?」
モラールと呼ばれた男がニヤリと三日月のように口を変える。
「いいコト考えたんだからな。こっちを先にやるんだからな」
声にならない反論のギコタの叫び声。
彼女を守りに来た男の前で、彼女をズタズタに引き裂いてしまおう。
守れなかった、オレが居たのにと後悔させてやろう。
ふり降ろされる、モラールのナイフ。怯えるしぃな。守ろうと必死に体を動かすギコタ。
『ぽろろ、モナは思うモナよ。誰かを守ることほど難しく、大切なことは無いって』
いつか聞いたあの言葉が頭の中を駆け巡る。
「ぃぇぁ」
少年は一つ決意する。
バシッと鋭い音がしたかと思えば、次には乾いたカランという音が路地に響く。
え?という驚きを隠せない顔で、モラールは自分の手を見た。
手に握られていたはずのナイフ。それは握られていない。
あるはずのナイフを握り締めようと拳を作るが、何も掴まず丸まる。
眼前にあったはずのナイフ、怯えていたしぃなも目を丸くして固まってしまう。
「何が、どうなってるんだゴラァ」
いち早く自我を取り戻したが、力なくギコは呟く。
「な、なんでないんだよ!ぼく、はちゃんと持っていたんだからな!!だれが」
ナイフを探し、キョロキョロと周りに目を配らすモラール。ふと目に入った見慣れぬ青紫のAA。
男もそれに気付き、ぽろろに近づく。
「ンだよこのガキャ!!」
すごんだ顔で脅す男に対し、ぽろろは冷静だった。無反応で怯えもひるみも無い。
それに腹を立てさらにわめく男。すでにツバが飛び散り、目は血走っており、血管が浮き出ている。
しぃへの虐殺の妨害、消えたナイフ、冷静な生意気なクソガキ。男にとってはブチキレルのにふさわしい要素がそろっていた。
「もう、やめたほうがいいよ…」
ぼそりと小さな声でぽろろが言った。
「はぁ?何言ってんだこのヴォケ。ンだよ正義のヒーローごっこか?ああ!?」
男はそれに気付かなかった。それが警告であることに。
地に目を伏せ、軽い溜息を吐く。
どうして…?
「っ!チビッコ逃げろ!!死ぬぞ!」
ギコタはぽろろに向かい叫ぶ。
しかしぽろろは微動だせず、男を見据えていた。
ギコタは、こう見えてとある空手流派の有段者だ。武道マニアとも言える。
喧嘩も何度もしてきた。そのギコタの目に見えた。
少年の瞳と自分の瞳があった。ほんのわずかな瞬間だが、すさまじい悪寒が体中を駆け巡る。
コイツは違う。何が違うかわからないけど、根本的な何かが自分と違っている。
「ぃぇぁ」
その言葉が合図かのように少年は男の懐へと飛び込む。
早い!
自分の危機的な状況さえ、忘れてしまいギコタは驚く。
ゴスっという鈍い音ともに男の背中が不自然にうきあがる。
その姿勢は背中を真直ぐ立て腰を落とし、男の腹に向かい掌を突き出していた。
男のほうはというと、何の反応もしていない。あれで痛覚を感じないのはありえない。
ぐはっと男は遅れて唾液を吐く。
「て、てめぇええぇぇぇぇぇ!!マジ殺して!」
「やめろ!!!」
それを止めたのはぽろろでもギコタでもない。モラールだった。
男はあっけに取られていた。今まで彼も虐殺を行っていた。
否メインは自分であった。時折彼は虐殺を始めた、彼の虐殺はあまりにもひどいものだ。
言葉で責め、徐々に徐々に体を痛めつけ、終わるのか終わらないのか解らぬ虐殺だ。
そしてその虐殺はたいてい、自身に暴言を吐いた愚かな者へと行われていた。
男は驚きながらも、腰を下に降ろした。正しくは降ろされた。
「な、なんで…?」
「ソイツはヤヴァイからな。やるならお前一人でやればいいからな。氏んでもいいならな」
「もらぁ・・・る?」
そう言うやいなや、モラールは虐殺していた者も妨害者も仲間さえも捨て背を向けて去る。
「貴方は…まだボクと」
モラールを見ていた視線を男に戻し言うが、男は既に気絶していた。最初で最後のぽろろの一撃ですでに気絶していた。しかし男はそれを精神力で起こしたが、ダメージが大きすぎた。
知らない声/色あせない思い出 2005/07/15(金) 17:33:49
どうしたらいいんだろう。
ボクは二人を助けたかっただけだど。このままここに置いているとこの男の人も危険だし。半分くらいは確実にボクのせいだし。
病院に連れて行ったらいいのかな…。
チャエヨ。
…!
何!?今の声は。
ぽろろは何処からともなく聞こえる声に警戒心を抱く。自分の体中の細胞へ呼びかけ聴覚をフルに使うが解らない。
いや、第一あの声はまるで中に誰かがいるように聞こえた。
ボクの中にはまだ、何かあるの?
自分ののろわれたチカラは知っている。それ以外にも?まだボクに何か…
怯えるぽろろ。突如ほてりだす体。能力を一時的に一箇所のみフルに使ったくらいで、ぽろろの細胞は暴走はしない。
なら、コレは何?
荒くなっていくぽろろの呼吸。
かすんでいく景色だけが、鮮明に残る。
残った色はまるであの日の夜空のようだった。
『ぽろろ、いいかいお前は…『ヤメテ!!』
『お前は『ボクはもう、こんなことイヤだ!』
『ぽろろ!『サヨウナラ!』
あの日の夜空は怖いくらいキレイだった。
あの日、ボクは理由もなく大丈夫だと思ったんだ。
この世界でそれがどんなに浅はかなことか…その時は解らなかった。今は解る。
解るようになってしまった。
「ぅ、うぅん?」
ホォーホォーと鳥の鳴き声と、月の柔らかな光。木々につけられた葉で光が差したり指してこなかったり。
あたりを見回す、そして自分の居る場所がしらない場所と認識する。
真白清潔感のあるシーツ。少し散らかっているが和式の部屋。
落ち着いて自分の器官を集中させる。
周りに…特に気配はない。足音も。
とりあえず今は安全である。
「ぃぇぁ」
昔のまだ、何も解っていなかった頃の夢。
なんだかたった数時間の出来事なのに、その間に幾つものコトを思い出した。
モナーさん、レモナさん。そして博士…。
今まで極力思い出さないようにしていた。
思い出したら、その瞬間に崩れてしまう。ダムが崩れてしまう。
そう。
「ゴルァ!」
「ぃぇぁ!?」
「お、おきてたか坊主」
「コンニチワ」
ギコ族の少年としぃ族の少女。その二人には見覚えがあった。
ぽろろ自身が助けたAAだ。
「あの、貴方達が助けてくれたんですか?
どうもありがとうございます」
急いで自分が寝ていたベッドをキレイに直し、深々と頭を下げるぽろろ。
「おう、気にするな。あの時、お前が何かしてくれたんだろ?
おかげでしぃなは助かったしな。こっちこそだ、ゴルァ!」
ビシッと指でぽろろを指しながらギコ太が感謝(?)する。
しぃなはと言うと、でぃ化寸前のところで助かっていた。
折れた耳は骨がくっつきさえすれば元通りだが、ちぎれた耳は戻らない。
体中の傷が痛々しいがしぃなは、微笑していた。
「あの、怪我だいじょうぶですか…?」
「エ、ダイジョウブヨ。イキテイルンダカラネ♪」
『ぽろろ、皆生きていれば何でもできるモナ。
死んでしまう方が楽とかあるけど、モナは生きていれば何時か大きな幸せと出会えると信じているモナ』
あの人の言葉が幾つにも重なる。
あの人の思いと同じ人は、まだ存在している。
「?ドウシタノ?」
「何でも…ありません」
すっと玄関の方へと歩いていくぽろろをギコ太が呼び止めた。
「待てよ、ゴルァ。何処へ行く気だ?」
「…アテはないんです。その時思った場所へ行きます」
「…どっかに行くのか?」
返事をするかわりに頷くぽろろ。
そう、自分のような逃亡者がこんな幸福な場所へ居てはいけない。
驚くしぃなに対して、ギコ太は冷静に応える。
「そうか、なら止めねぇが一晩止まってけ。一応お前は恩人だ。
たいしたお礼もせず帰らすのはギコ太の名に恥じるんだ!!ゴルァ!」
ニィとした笑いを浮かべ、ギコ太がぽろろの肩を叩いた。
こいつにはどんな引止めも無駄だ。
でもな、マジでお礼もなしにハイそうですかといえるようなギコ太ではない。
ギコ太なりの、お礼だ。
そういう男なのをしぃなは知っていた。
だからこそ、彼に惚れているのである。
作:(・Д・)つ
プロローグ 2005/07/15(金) 17:30:31
月が灰色の雲に隠れ見えない。しかしうっすらと見える形から、満月であることがわかった。
AAたちの暮す、2chシティ。いつもなら数多くのAA住人が街を歩き騒ぎだっている。しかし今は深夜。
そんな中、青紫のAAが走っていた。青紫のAAはまだ幼い子供だった。
深夜には平和な2chシティでさえ、虐殺を行う者がやって来る。この数ヶ月連続して虐殺が繰り返されていた。
中には、わずかな肉片のみを残して死んだものも居る。
そんな時に子供一人出歩かせる親が居るはずは無い。
「どうして・・・」
青紫の子供は呟いた。かなりのスピードで走っているのにも関らず、呼吸は全く乱れていない。
少年はスピードを緩めずに、後ろへと振り返る。
誰も居ない。嫌居る。わずかだが気配と血のにおい。
「ボクは…」
もう誰も、殺したくないのに。
昼前の虐殺 2005/07/15(金) 17:31:51
話は昼前にまでさかのぼる。
少年の名前はぽろろという。
ぽろろは、普段のように街をブラブラと歩いていた。目的なんて無い。否、自分のための目的が無い。
ただ、やみくもに街から街へと渡り歩いているだけだ。逃げるために、殺さないために。
ぽろろには不思議なチカラがあった。そのチカラは、決して誰かを幸福にするものじゃない。
そして、そのチカラを狙って自分を追い掛け回す者が居ることに気付いた。その日からぽろろの一人の逃亡生活が始まっていた。
少し体を休めたらいつもどおりに、また別の街に行くはずだった。
はずだったのに。
しゃれた喫茶店で自分と同じくらいの子が笑っていた。
やはり自分は普通のAAではないと、何度も確認してしまう。誰かの笑顔を見るたびに。
それがうらやましくない、といえばウソとなる。少しの間といえど、自分もあのように笑っていたのだから。
「モナーさん、レモナさん…」
仲良く食事をしていたあの頃。もう、戻ってもこないし。もう、味わいたくない。
過去を振り返り、また歩き出そうとするぽろろの耳に、かすかな声が聞こえる。
「イァアア。ァアア」
半角喋りと呼ばれるその声。少し歩くとある、薄暗い路地から叫びは聞こえていた。
何だろうと思いつつ、大体理解している。
虐殺だ。
「イァアアアア。タスケテ!!」
桃色のAA、しぃ族の女の子が二人の男に乱暴をされていた。乱暴というより虐殺であろう。
耳は片方千切れており、もう片方は折れていた。体の殆んどが千切れかけていた。それでも男達は満足しておらず、傷口に爪を立て掻いたりはじいたりしている。
一見そんなに痛そうに見えないが、傷口の上をさらに傷つけられるのは痛いし気持ち悪い。肉がはがれる感覚まで解る。
「るせぇ!この糞虫が」
「次、カワハギ決定だからな」
ぐいっと契れた耳の隙間から皮をはごうと力を入れるモララー族の男。
「イアアアアアァァァ!!タスケテェ」
女の子は、誰かの名前を叫ぶがその悲鳴は届かない。
それをぽろろは黙って見ていた。
自分が彼らの虐殺を止めるなんてマネはできない。
ボクも同じなのだから。
「ギコタクン、タスケテェエエ!!」
女の子は、ギコタという名前を叫ぶ。その声に男の一人が反応し、頭部を蹴り上げようとした。
「待てや、ゴルァ!」
「ギコタクン!」
「しぃなにそれ以上なんかして見ろ!このギコタが許さねぇぞゴルァ!!」
ぽろろの反対側の路地から出てきたギコ族の少年。ビシっと男二人に人差し指を向ける。
「これかだからギコ族は」
男の一人が呟きながら両手をあげ、やれれと首を振る。
もう片方の男がナイフを取り出し、標的をしぃなからギコタへと変更する。
ギコタは黙ってファイティングポーズを取る。
何度かの殴り合いの後、倒れたのはギコタだった。ナイフによってその肌はズタズタに引き裂かれていた。
「まったく、だから言ったからな”これだからギコ族の男は”って」
「どういう意味だ?」
ギコタが倒れ泣き叫ぶしぃなと、未だ彼女を守ろうと立ち上がるギコタを無視して男は聞いた。
「そのまんまだからな。ギコ族は馬鹿なんだからな。放っておけばいいのに、格好つけるからこうなるんだからな」
「うっせぇ、てめぇの女一人守れないで逃げる。そんなアフォなギコタじゃねぇぞゴラァ!!」
倒れた状態でぼろぼろのギコタなのに、なぜかそれはとても強くぽろろの目に見えた。
ぴくりと、モララー族の男は反応する。
「なら、しねよ」
男はナイフを取りギコタの額を狙うように振り下ろす。
其れを止めたのはモララー族の男だった。
決意 2005/07/15(金) 17:32:58
「モラール?」
モラールと呼ばれた男がニヤリと三日月のように口を変える。
「いいコト考えたんだからな。こっちを先にやるんだからな」
声にならない反論のギコタの叫び声。
彼女を守りに来た男の前で、彼女をズタズタに引き裂いてしまおう。
守れなかった、オレが居たのにと後悔させてやろう。
ふり降ろされる、モラールのナイフ。怯えるしぃな。守ろうと必死に体を動かすギコタ。
『ぽろろ、モナは思うモナよ。誰かを守ることほど難しく、大切なことは無いって』
いつか聞いたあの言葉が頭の中を駆け巡る。
「ぃぇぁ」
少年は一つ決意する。
バシッと鋭い音がしたかと思えば、次には乾いたカランという音が路地に響く。
え?という驚きを隠せない顔で、モラールは自分の手を見た。
手に握られていたはずのナイフ。それは握られていない。
あるはずのナイフを握り締めようと拳を作るが、何も掴まず丸まる。
眼前にあったはずのナイフ、怯えていたしぃなも目を丸くして固まってしまう。
「何が、どうなってるんだゴラァ」
いち早く自我を取り戻したが、力なくギコは呟く。
「な、なんでないんだよ!ぼく、はちゃんと持っていたんだからな!!だれが」
ナイフを探し、キョロキョロと周りに目を配らすモラール。ふと目に入った見慣れぬ青紫のAA。
男もそれに気付き、ぽろろに近づく。
「ンだよこのガキャ!!」
すごんだ顔で脅す男に対し、ぽろろは冷静だった。無反応で怯えもひるみも無い。
それに腹を立てさらにわめく男。すでにツバが飛び散り、目は血走っており、血管が浮き出ている。
しぃへの虐殺の妨害、消えたナイフ、冷静な生意気なクソガキ。男にとってはブチキレルのにふさわしい要素がそろっていた。
「もう、やめたほうがいいよ…」
ぼそりと小さな声でぽろろが言った。
「はぁ?何言ってんだこのヴォケ。ンだよ正義のヒーローごっこか?ああ!?」
男はそれに気付かなかった。それが警告であることに。
地に目を伏せ、軽い溜息を吐く。
どうして…?
「っ!チビッコ逃げろ!!死ぬぞ!」
ギコタはぽろろに向かい叫ぶ。
しかしぽろろは微動だせず、男を見据えていた。
ギコタは、こう見えてとある空手流派の有段者だ。武道マニアとも言える。
喧嘩も何度もしてきた。そのギコタの目に見えた。
少年の瞳と自分の瞳があった。ほんのわずかな瞬間だが、すさまじい悪寒が体中を駆け巡る。
コイツは違う。何が違うかわからないけど、根本的な何かが自分と違っている。
「ぃぇぁ」
その言葉が合図かのように少年は男の懐へと飛び込む。
早い!
自分の危機的な状況さえ、忘れてしまいギコタは驚く。
ゴスっという鈍い音ともに男の背中が不自然にうきあがる。
その姿勢は背中を真直ぐ立て腰を落とし、男の腹に向かい掌を突き出していた。
男のほうはというと、何の反応もしていない。あれで痛覚を感じないのはありえない。
ぐはっと男は遅れて唾液を吐く。
「て、てめぇええぇぇぇぇぇ!!マジ殺して!」
「やめろ!!!」
それを止めたのはぽろろでもギコタでもない。モラールだった。
男はあっけに取られていた。今まで彼も虐殺を行っていた。
否メインは自分であった。時折彼は虐殺を始めた、彼の虐殺はあまりにもひどいものだ。
言葉で責め、徐々に徐々に体を痛めつけ、終わるのか終わらないのか解らぬ虐殺だ。
そしてその虐殺はたいてい、自身に暴言を吐いた愚かな者へと行われていた。
男は驚きながらも、腰を下に降ろした。正しくは降ろされた。
「な、なんで…?」
「ソイツはヤヴァイからな。やるならお前一人でやればいいからな。氏んでもいいならな」
「もらぁ・・・る?」
そう言うやいなや、モラールは虐殺していた者も妨害者も仲間さえも捨て背を向けて去る。
「貴方は…まだボクと」
モラールを見ていた視線を男に戻し言うが、男は既に気絶していた。最初で最後のぽろろの一撃ですでに気絶していた。しかし男はそれを精神力で起こしたが、ダメージが大きすぎた。
知らない声/色あせない思い出 2005/07/15(金) 17:33:49
どうしたらいいんだろう。
ボクは二人を助けたかっただけだど。このままここに置いているとこの男の人も危険だし。半分くらいは確実にボクのせいだし。
病院に連れて行ったらいいのかな…。
チャエヨ。
…!
何!?今の声は。
ぽろろは何処からともなく聞こえる声に警戒心を抱く。自分の体中の細胞へ呼びかけ聴覚をフルに使うが解らない。
いや、第一あの声はまるで中に誰かがいるように聞こえた。
ボクの中にはまだ、何かあるの?
自分ののろわれたチカラは知っている。それ以外にも?まだボクに何か…
怯えるぽろろ。突如ほてりだす体。能力を一時的に一箇所のみフルに使ったくらいで、ぽろろの細胞は暴走はしない。
なら、コレは何?
荒くなっていくぽろろの呼吸。
かすんでいく景色だけが、鮮明に残る。
残った色はまるであの日の夜空のようだった。
『ぽろろ、いいかいお前は…『ヤメテ!!』
『お前は『ボクはもう、こんなことイヤだ!』
『ぽろろ!『サヨウナラ!』
あの日の夜空は怖いくらいキレイだった。
あの日、ボクは理由もなく大丈夫だと思ったんだ。
この世界でそれがどんなに浅はかなことか…その時は解らなかった。今は解る。
解るようになってしまった。
「ぅ、うぅん?」
ホォーホォーと鳥の鳴き声と、月の柔らかな光。木々につけられた葉で光が差したり指してこなかったり。
あたりを見回す、そして自分の居る場所がしらない場所と認識する。
真白清潔感のあるシーツ。少し散らかっているが和式の部屋。
落ち着いて自分の器官を集中させる。
周りに…特に気配はない。足音も。
とりあえず今は安全である。
「ぃぇぁ」
昔のまだ、何も解っていなかった頃の夢。
なんだかたった数時間の出来事なのに、その間に幾つものコトを思い出した。
モナーさん、レモナさん。そして博士…。
今まで極力思い出さないようにしていた。
思い出したら、その瞬間に崩れてしまう。ダムが崩れてしまう。
そう。
「ゴルァ!」
「ぃぇぁ!?」
「お、おきてたか坊主」
「コンニチワ」
ギコ族の少年としぃ族の少女。その二人には見覚えがあった。
ぽろろ自身が助けたAAだ。
「あの、貴方達が助けてくれたんですか?
どうもありがとうございます」
急いで自分が寝ていたベッドをキレイに直し、深々と頭を下げるぽろろ。
「おう、気にするな。あの時、お前が何かしてくれたんだろ?
おかげでしぃなは助かったしな。こっちこそだ、ゴルァ!」
ビシッと指でぽろろを指しながらギコ太が感謝(?)する。
しぃなはと言うと、でぃ化寸前のところで助かっていた。
折れた耳は骨がくっつきさえすれば元通りだが、ちぎれた耳は戻らない。
体中の傷が痛々しいがしぃなは、微笑していた。
「あの、怪我だいじょうぶですか…?」
「エ、ダイジョウブヨ。イキテイルンダカラネ♪」
『ぽろろ、皆生きていれば何でもできるモナ。
死んでしまう方が楽とかあるけど、モナは生きていれば何時か大きな幸せと出会えると信じているモナ』
あの人の言葉が幾つにも重なる。
あの人の思いと同じ人は、まだ存在している。
「?ドウシタノ?」
「何でも…ありません」
すっと玄関の方へと歩いていくぽろろをギコ太が呼び止めた。
「待てよ、ゴルァ。何処へ行く気だ?」
「…アテはないんです。その時思った場所へ行きます」
「…どっかに行くのか?」
返事をするかわりに頷くぽろろ。
そう、自分のような逃亡者がこんな幸福な場所へ居てはいけない。
驚くしぃなに対して、ギコ太は冷静に応える。
「そうか、なら止めねぇが一晩止まってけ。一応お前は恩人だ。
たいしたお礼もせず帰らすのはギコ太の名に恥じるんだ!!ゴルァ!」
ニィとした笑いを浮かべ、ギコ太がぽろろの肩を叩いた。
こいつにはどんな引止めも無駄だ。
でもな、マジでお礼もなしにハイそうですかといえるようなギコ太ではない。
ギコ太なりの、お礼だ。
そういう男なのをしぃなは知っていた。
だからこそ、彼に惚れているのである。