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MOON NIGHT ―月夜の天使― (はる)

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匿名ユーザー

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―――我々は何のために戦ってきた…


左胸にそっと手を当てて、鼓動を確かめる。
物心付いた頃から、何かあったときはこうして私の存在を確かめていた。
指先に一定のリズムを感じると、ひどく安らかな気持ちになるのだ。
まるで、母親に抱かれる赤子のような。
…母に抱かれると言うのがどのような感じかは、今はもう思い出せないが。

―――そう、これでいいのだ。私は正しい。迷う事など無い。

鼓動がそう教えてくれるから。
私は走る事も、飛ぶ事も、人を殺める事すらも、肯定する。


私は立ち上がって、満月を背にそびえ立つ摩天楼を目指して飛んだ。




  MOON NIGHT -月夜の天使-




月の光が街を青白く染め、無機質なビル街が幻想的に彩られる夜。
寂れた路地裏の一角に茶色い犬のようなAAが一人、煙草をくゆらせながら月を見ていた。
彼―フサの目線の先にあるのは、満月と、それを背にした摩天楼。
「今夜はいい月だ…」
夜空を見上げながら彼は呟いた。同時に、吐き出した白い煙が夜風になびいて、闇に溶ける。
そんな彼の後ろから一人の赤い猫が「映画スター気取りか」と声をかけた。
「フサには似合わないな」
そう話しかけられたフサは、少しおどけて「つーちゃん、そりゃあんまりだから」と彼女に言い返した。
「俺だって感傷に浸りたくなる時はあるから」
それだけ言うと、ふうと煙草の煙を吐いた。月明かりと、ひんやりとした夜風が二人を包む。
暫しの静寂が流れた後、フサはつーに向かってはっきりと言った。
「ま、こうしてのんびりできるのも今のうちだから。出発は二十二時だ。くれぐれも油断はするな」
彼はそれだけ言うと、煙草を落とすと足で踏んで消した。満月をきっと見据えるその瞳には、さっきまでの気だるげな感じはない。
レジスタンスのリーダーとしての冷静な(時に冷酷な)策士そのものだ。
「勿論だ」
つーははっきりと答えた。

フサ率いるレジスタンスの切り込み隊長として、彼女はフサと、その仲間たちとともに戦ってきた。
悪の枢軸「モララエル」を倒さんとすべく、戦い続けた。
モララエルの最高幹部、モララーがその善人のような笑顔の裏で数多くの悪事、非道を重ねている事を知らない者はいない。
彼女もレジスタンスに加わる前から知っていた。と言うか、知らされていた。
けれど、と彼女は思う。

〈そんなことはどうでもいい。フサ達には悪いが、私が戦う本当の理由は、正義のためではない〉

物心付いた頃から、彼女は誰かと、もしくは何かと戦い続けた。
心の奥底、殆ど本能に近い所で、戦うことを望んでいたから。
相手を傷つけ、痛めつけ、打ち負かす事によって彼女は満たされるから。

〈私が戦う理由は二つだけ。衝動的な何かと、熱病的な何か―――〉




二時間後、午後9時45分。

「皆、準備はいいか」
出動の準備を整え集合したレジスタンスの隊員にフサが呼びかけると、その場の者たちは一様に真剣な顔で頷く。勿論、つーも。
「今夜はどうやらモララーが動くらしい。これがどういうことかは判るな」
彼がそう言うと、隊員たちの表情がいっそう引き締まった。
決して自らの手は汚さず、代わりに部下を酷使してすることでも知られているモララーのことだ。
彼が動くという事は、今夜は何かあるに違いない。それも、特別に大きな、恐ろしいことが…。
「くれぐれも、奴の恐ろしさは十二分に理解しているはずだ。常に気を抜くな」
その場に居たもの全員が、「はッ」と短く答えた。そのすぐ後、今度は最前列のつーに向かって呼びかける。
「お前はいつもどおり先に向かえ。恐らく山崎が待ち受けているだろう。
俺は皆を連れてあとに続く」
山崎はモララーの秘書の一人だ。つーも何度か相手にしているが全く嫌な男だ、と彼女は思う。
なにがともあれこの先油断は禁物だ。
彼女は短く「了解」と答える。

つーは立ち上がった。彼女の背中が一瞬光に包まれたかと思うと、
ばさりと六枚の翼が広がった。
月の光を受けて仄明るく耀く、紅の翼。

「フサ…」

飛び立つ前に、つーは呟いた。彼に1つ言いたいことがあった。

「どうした?」
「…」

でも、それは言葉にはならなかった。なんでもないと仕草で伝えると、彼女はそのまま飛び立った。
言葉に出来なかった想いを頭の中でさらいながら。

〈死ぬなよ。お前はいつも無茶ばかりする…〉


つーは、満月を背にそびえ立つ楼閣を目指して飛んだ。

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