第1章 おばあちゃんの家へ
「いってきまーす」
「行ってらっしゃい、乗り換えは○○駅よ」
「分かってるーそれじゃあ行ってくるねー」
ミニモラはこの日、夏休みを利用しておばあちゃんの家に一人で行くことになった。荷物をいっぱい詰め込んだリュックが少し重たい
「さて、まずは駅にいって…と」
ミニモラは駅に向かった。
駅には人がたくさんいた。ミニモラは母さんにいわれた通りに切符を買って、電車に乗った。
「ふーっ涼しい…」
外はものすごく暑かったため、冷房の効いた電車の中がまるで天国のように思える、ミニモラは窓の外を見た。
「……僕一人でおばあちゃんの家に行くのは初めてなんだよなー」
ミニモラは窓の外を流れる街の景色を見ながら呟いた。小学3年生のミニモラは、一人で遠出するのは初めてなため、少し緊張していた。
やがて…乗り換えの駅に着き、ミニモラは電車を乗り換える、あとはおばあちゃんの家まで一直線だ
だんだんと都会が遠ざかり、電車は山間を進む…おばあちゃんの家は、海と山に囲まれた場所にある、つまり山で虫取りもできるし、海で泳ぐ事もできるって事だ、ミニモラは考えただけでワクワクした。
やがて、山が開けて海が見えた。もうすぐ降りる駅だ。ミニモラは自分のリュックを持つと、降りる準備をした。
「ふえぇ~あっづ~」
ミニモラが電車を降りると、太陽の日差しがミニモラの肌を突き刺した。ミニモラは走ってバス停に向かう、そのバスに乗っておばあちゃんの家の前に行くのだ。
ミニモラはバス停の日陰で暑さをしのぐ、バス停の傍には大きな木があり、それでバス停は日陰になっていたのだ。周りには田んぼがあり、自分が住んでる都会の景色とはまったく違った。
ジーー ジーー ミーン ミーン…
蝉の声が聞こえる、耳を澄ましてみると鳥のさえずりや、風に揺れる木の枝の音も聞こえていた。大きな大きな入道雲の合間から照りつける日差し…真っ青な空…ミニモラにはその全てが新鮮だった。
「んーーーっ」
ミニモラは少し伸びをすると、新鮮な空気を吸い込んだ、すると…バスがやってきた。
ミニモラはバスに乗ると、一番先頭の座席に座った。バスの中には誰もいなかった。ガラガラだ
「坊やは見かけない顔だね、遠くから遊びに来たのかい?」
バスの運転手がミニモラに話しかけてきた。
「はい、東京から来ました。夏休みの間、おばあちゃんの家で過ごすんです」
ミニモラは“敬語”と言うのを使ってみた。母さんに「知らない大人の人と話すときは、敬語って言うんだけど…~です とかの言葉を使いなさい」と言われていたからだ
「へ~東京から来たの? すごいね~まだ小さいのに…言葉使いもちゃんとしてるし…家の息子に見習わせたいくらいだよ」
運転手は感心していた。ミニモラは少し嬉しかった。
しばらくして…降りるバス停に着こうとしていた。ミニモラはバス停に誰かがいることに気づいた。
「あっ! おばあちゃんだ!」
それはおばあちゃんだった。おばあちゃんはバス停のベンチに座っていた。
「おっ、そうかいじゃあここで降りるんだね」
「うん」
運転手はバスを止めた、ミニモラはバスを降りる
「おばあちゃーん、久しぶりだね」
「おお、ミニモラ元気だったかい?」
そしてミニモラはおばあちゃんと一緒におばあちゃんの家に向かった。
第2章 海
ミニモラはおばあちゃんの家に着くと、蝉の声の聞こえる縁側でゴロゴロしていた。縁側には涼しい風が吹き、風鈴が風に揺れていた。
「おばあちゃん、ひなたぼっこ気持ちいいね」
「そうだねぇ」
ミニモラの隣でおばあちゃんがお茶を飲みながらのんびりしている
「そうだ、海に行かないかい?」
「えっ? 海? 行く行く!」
おばあちゃんのその言葉にミニモラは起き上がった。
「よし、それじゃあ行こうかね」
ミニモラはおばあちゃんと一緒に家を出た。おばあちゃんの家から歩いてすぐ近くに海はあった。
「うっわぁ~~」
ミニモラは目の前に広がる大きな海を見て感嘆の声を上げた。広い砂浜…空と同じくらい真っ青な海…水平線…波の音…海猫の鳴く声…ミニモラの目や耳に一瞬のうちにして、それらが飛び込んでくる…ミニモラは波打つ海めがけて全速力で駆け出した。
「すげぇー海だ海だ~」
ミニモラは砂浜を駆け回る、歩くたび足元の砂が沈み、歩きにくかった。
「ホッホッホ…キレイじゃろう」
おばあちゃんがミニモラに言った。
「うん! すごいよ! すごく綺麗だよ! よ~しっ!」
ミニモラは勢いをつけると波打つ海の中へ飛び込んで行った。
「キャハッ!! 冷たくて気持ちいい!」
ミニモラは波に逆らって泳いでみた。波の力は強く、なかなか前に進めない
「どうだい、楽しいかい?」
おばあちゃんは砂浜にシートを敷き、パラソルを広げて座りながらミニモラの方を見ていた。
「うん! すごく楽しい!!」
ミニモラさらに泳いだ、しばらく泳いでいると波にも慣れてきて泳ぎやすくなってきた。
「そろそろお弁当にするよ~」
おばあちゃんが弁当箱を開けてミニモラを呼んでいる
「分かった~今行く~」
ミニモラはすぐにあばあちゃんの所へ向かった。
「ん~おいしい~」
ミニモラはおばあちゃんの作ってくれたおにぎりを口いっぱいに詰め込む
「モグモグ……んっ!!」
ミニモラはおにぎりを喉に詰まらせた。
「これこれ、急ぎすぎじゃよ」
おばあちゃんはミニモラに麦茶の入った水筒を渡してくれた。ミニモラはすぐに麦茶を飲み、喉のおにぎりを流し込む
「ふ~っ…いやはや…苦しかったぁ」
ミニモラは一息つく
「お米はお百姓さんに感謝して八十八回噛まなくてはいけないんじゃよ」
「そ…そんなに?」
ミニモラは母さんから、食べ物は良く噛むように言われていたが…八十八回も噛まなくてはいけないとは知らなかった。おばあちゃんは物知りだなぁとミニモラは思った。
「じゃあ僕はもう少し泳いでくるから」
ミニモラはおにぎりを食べ終わると、おばあちゃんに言った。
「はいはい、ばあちゃんはここにいますからね」
「はーい、んじゃぁ泳いで来まーす」
ミニモラは再び海の中に入る、今度は浮き輪を持って海に浮かんでみることにした。
波がミニモラを運んでいってくれる…とても気持ちが良かった。心なしか先ほどよりも波の高さが高くなってきたようだ。その時…
ザバーン!!!
後ろでひときわ大きな波の音がしたかと思うと、そこには大きなサメがいた!
「あ…!! うっ…うわぁ~~!!」
ミニモラは慌てて泳いで逃げる、そして陸に上がると、半ベソをかきながらおばあちゃんの所へ走って行った。
「おばあちゃ~ん!! さ…さ…サメサメ!! サメが出た!!」
「おやおや、見ていたよ。あれは田舎ザメと言って、決して人を襲わないサメなんだよ」
おばあちゃんは笑いながらのんびりと言った。
「そ…そうだったんだ…驚いて損しちゃった」
ミニモラは安心してその場に座り込む
「さて、そろそろ疲れたろ? 帰るとするかね」
おばあちゃんが立ち上がって言った。
「うん、そうだね」
ミニモラもそう答えた。
第3章 腕白兄弟とモラリ
ミニモラは帰る途中にある駄菓子屋の横を通りがかった。
「あっ兄ちゃんミニバアだよ」
「ミニバアだね」
駄菓子屋の横にいた兄弟らしき二人の男の子が、おばあちゃんを見て言った。兄弟の弟の方は自分よりも年下のようで、兄の方は自分と同じくらいの年の子だった。
「おやおや、腕白さんとこの子供達だよ。ミニモラや、お小遣いあげるからここで遊んでおいで、ばあちゃんは先に帰ってるから」
「うん、分かった」
ミニモラはそう言うと、おばあちゃんから小遣いをもらい、駄菓子屋の中に入って行った。
「これ下さい」
ミニモラはお菓子を買うと、外に出た。するとミニモラの目の前に、さっきの兄弟が立っていた。
「な…何?」
ミニモラがそう言うと、その兄弟は「ワレどこから来たん?」と田舎の訛りのある言葉で話しかけてきた。
「と…東京からだけど…」
ミニモラがそう言うと、兄弟の兄の方が「都会っぽはこの店使っちゃいかんちゃ。さっさと帰り!!」と言ってきた。弟のほうも「けえれ、けえれ!!」とミニモラに言う、ミニモラはその威張ったような態度に少し頭にきて「そ…そんな決まり誰が決めたんだよ!」と言い返した。
すると、兄のほうが「俺にきまってるちゃないか! つべこべ言うとゲンコかますぞ!!」と言って拳を振り上げた。弟も同じく拳を振り上げる
「へっ! 知るもんか! やれるもんならやってみろ!」
ミニモラがそう言うと、兄弟二人は、「こいつ~」「やっちゃえ~」と言ってミニモラに殴りかかってきた。
「や…やったな!」
ミニモラも怒って殴り返す。取っ組み合いのケンカが始まった。
「このこのこのこの!!」
「えいえいえいえいえい!!」
「うわーん」
お互いに掴みかかり合うミニモラと兄…そして泣き出す弟、その時
「やめなさい!」
誰かの声がしてミニモラは後ろを振り返る、そこには自分より二つ…いや…三つほど年上だろうか…とにかく年上の女の子が立っていた。麦わら帽子を被り、青いワンピースを着ている髪の長い子であった。
「あんたら相手は一人でしょ! 男らしくないよ!」
女の子は兄弟に向かって怒る
「あっ…モラんとこの姉ちゃん」
兄の方はそう言うとケンカをピタリと止めた。
「うえ~ん」
弟のほうはベソをかきながら逃げていった。
「あっ…! ケンジ…! くそっ…覚えてろ!」
兄のほうも弟を追いかけて行ってしまった。
「もう…しょうがない子達ね!」
女の子は去っていく兄弟二人の背中を見て言った。
「ほら、男の子だから一人で起きれるでしょ。あんたミニバアさんとこの子でしょ」
女の子はミニモラの方を見ると言った。
「あ…うん、そうだけど…どうして知ってるの?」
ミニモラは女の子に聞いてみた。
「ここらで子供のいるとこなんて、腕白さん所とマルモラさんの所くらいだもの」
「ふーん、そうなんだ」
ミニモラはそう言うと立ち上がった。
「お姉ちゃんありがと! 僕ミニモラってんだ! よろしくね」
「どういたしまして、私はモラリって言うの、これからは仲良く遊びなさいね」
「うん、分かった。じゃあまたね!姉ちゃん」
ミニモラはそう言うと、ばあちゃんの家に向かった。
すでに太陽がオレンジ色になっていた。
第4章 気になるあの子
「いてて…あの二人め…体中擦り傷だらけじゃないか…」
ミニモラは、ぼやきながらおばあちゃんの家の前まで来た。
「ただいま~」
ミニモラはそう言って家の扉を開ける、玄関におばあちゃんが出てきた。
「おかえりなさい。今、スイカでも切ってやるからね。おや? どうしたい?その怪我は?」
おばあちゃんはミニモラの体にできた擦り傷を見て言った。
「ああ…これ? 木に登ったら落ちちゃってさ」
まさか『ケンカしてました』とも言えまい
「…そうかね。じゃあ薬でも出してやろうかね」
ばあちゃんはにっこり笑って言った。
その後…ミニモラはおばあちゃんに絆創膏を張ってもらい、そのあと居間で、切ってもらったスイカを食べていた。
「ねぇ、ばあちゃん、モラリ姉ちゃんってどこの子?」
ミニモラはあの時に会った女の子の事をおばあちゃんに聞いてみた。
「モラリ? ああ、あの子はモララーさん所のお孫さんじゃよ」
「ふーん」
「あの子も可哀想に。母親がアメリカでお医者さんをやってるけど、研究だかが忙しくて父親と暮らしているんだよ」
ばあちゃんは静かに言った。
「ふーん…お姉ちゃんの母さんはどうして帰ってこないの?」
ミニモラは聞いてみた。
「なんだろうね…なんでも、病気の研究で帰れないとか…ばあちゃんもよく知らないんだよ」
「そうか…母さんが居ないのか…」
ミニモラは、ぽつりと呟く
「なんだえ? もう母さんが恋しくなったのかい?」
おばあちゃんは笑って言う
「ううん、ここに来たばかりだし、それは無いよ…でもやっぱりずーっと居なかったら嫌だよな…って」
ミニモラは目をつぶって言った。
「ははは、だとすると、あの娘が気になるかい」
おばあちゃんは笑った顔のままで言った。
「そっ…そんなんじゃないやい! 僕もう寝るよ」
ミニモラは真っ赤になって、あわてるように寝室に向かった。
「ははは、おやすみ」
おばあちゃんはミニモラに言った。
(…やっぱり、あの子も男の子だね。ケンカもするし、娘も気になるか…)
おばあちゃんは笑いながら、お茶を一口飲んだ。
第5章 シオダマリ
ミニモラは海で泳いでいた。
「ハハハ…楽しいな~」
その時、ザバーンという音がして、何かが海から出てきた。それは人間とも違う…魚とも違う…宇宙人のような…
「どわぁぁああっ!! 海坊主ゥッッ!!!」
ミニモラは布団から跳ね起きた。体中汗びっしょりだ
「…な…なんだ夢か…びっくりしたぁ~~」
ミニモラはフーッと息をつくと、起き上がって大きなあくびをした。そしてその後、洗面所に向かい顔を洗って歯を磨いた。
「おばあちゃんおはよう」
ミニモラが、台所にいるおばあちゃんに元気良く言った。
「おや、おはようずいぶんと早いんだねぇ今、朝ごはんを持って行くから居間で待ってておくれ」
ミニモラはそう言われて頷くと、居間のちゃぶ台の前に座って待った。しばらくして、おばあちゃんが朝ごはんを持ってきてくれた。
「いただきま~す」
ミニモラは少し急ぎながらご飯を食べた。早く遊びたいからだ
「ほらほら、あんまり急いで食べると体に毒だよ」
おばあちゃんがのんびりと言う
「平気さ! ……ごちそうさまッ!!」
ミニモラはご飯を一気に食べると、立ち上がった。
「ばぁちゃん! 遊びにいってくるね~」
ミニモラはバタバタと玄関に向かった。
「気ィつけてな、一人で海で泳いじゃあかんよ」
「はーい、分かってまーす」
ミニモラはそう答えると、家を飛び出した。
「ふーう…今日は暑くなりそうだねぇ…」
おばあちゃんが照りつける太陽を見て呟いた。
「え~っと…ここら辺に何か居ないかな…」
潮が引いて、磯のくぼみに海水の水溜りが出来ていた。潮溜りという奴だ。ミニモラは目を皿のようにして潮溜りを見ていた。
「潮溜りには磯の生物がいるって、学校の教科書に書いてあったんだよなぁ……あっ! いるいる!!」
潮溜りの中には、カニやヤドカリなど、ミニモラが普段はお目にかかる事のできない海に生息する生き物がたくさんいた。
「よーし…捕まえるぞっっ!!」
ミニモラは、はしゃぎながら潮溜りの中に入っていった。
「何してるの?」
後ろから声が聞こえた。ミニモラがその声に振り向くと、そこにはモラリが立っていた。昨日と同じように、麦わら帽子にワンピースという格好だった。
「あっモラリ姉ちゃん」
「何かいる?」
「うん、ヤドカリと、イソギンチャクと、カニが少しね」
ミニモラは再び潮溜りに目を落とすと、言った。
「よし、お姉さんも手伝ってあげよう」
そう言って、モラリも潮溜りの中へ入って来た。
「うん、ありがとう」
ミニモラは笑ってそう言った。
「そっち行ったよ~」
「よ~し! …あれれ? どこ行った?」
「ほらほら、逃がしちゃうよ」
「むむ…よし……いたっっ!!」
ミニモラはタイミングをみて手を伸ばす!
「やった~!!!」
ミニモラの手には大きなタコが一匹握られていた。さっきから追い回してたが、なかなか捕まえられなかったのだ。
「タコ取ったどぉ~!!」
そう言ってミニモラがタコを持ち上げた時、タコは真っ黒な墨をミニモラの顔に吹きかけた。
「ぶわっっ!!!」
ミニモラは手を離してしまう、タコは逃げてしまった。
「あははっ」
モラリは真っ黒になったミニモラの顔を見て、笑った。
「ひどいや、お姉ちゃん」
「ゴメン、でもおかしくて」
ミニモラとモラリは青空の下、二人で笑った。
第6章 競泳対決!
ザザァ…ザバーン…――
波の音が大きく聞こえる…
「…ふうん、それで一人で来たんだ、えらいね」
「うん、二回乗換えとバスだね」
ミニモラはモラリの隣に座りながら、ここにどうやって来たかを話した。
「でも、お姉ちゃんだって一人で来たんでしょ、別に偉くないよ」
「私があなたくらいの時は、一人で電車は乗れなかったわよ、すごい冒険だと思うな、私」
モラリの言葉にミニモラが少し照れながら、「へへっ、そうかな」と言った時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「なんじゃワレ、ひなたぼっこかい」
「海水パンツはいとるんやから一緒に泳がんか」
「あっ…!! おまえら!!」
そうである、ミニモラがその声のした方を見ると、そこには昨日の兄弟が立っていた。
「あら、一緒に泳ごうなんて、仲直りするの?」
モラリが兄弟にそう言う、ミニモラはその兄弟の態度に怪訝そうな顔をする
「まぁ…そう辛気臭い顔すんなや、昨日はオレらが悪かった。仲直りにゲンゴロウ岩まで泳ごう、競争じゃ」
「ゲンゴロウ岩?」
兄弟の兄のその言葉に、ミニモラは海の方を見る
「あの岩じゃ」
兄弟の弟…ケンジは海の沖合いにぽっかり浮かぶ大きな岩場を指差して言った。
(う~ん、あそこまでなら…この夏のプールで25m泳げるようになったから多分大丈夫かな…あっ…でもおばあちゃんに一人で海で泳いじゃいけないって言われてるしなぁ…)
ミニモラは少し考えたが、おばあちゃんの言葉を思い出し、兄弟に言った。
「でも…海に一人で入っちゃいけないって、ばあちゃんが…」
「一人じゃ無いきに、ワシ等がいるから平気じゃ」
「平気じゃ、平気じゃ」
「行ってらっしゃいな、私は水着じゃ無いから見ててあげるからね」
ミニモラは断ろうとしたが、みんなにそう言われてしまい、再び考えた。
「なんじゃ、都会っ子は怖いのか?」
ケンジにそう言われ、ミニモラはムッとして「泳げるやいッッ!!」と言った。
「よし、そんならケンジと勝負じゃ、ケンジも浮き輪無しではあの岩まで泳いだ事は無いからな」
ケンジの兄はそう言いながら海の方に向かう
「よっし!! じゃあ姉ちゃん、泳いでくる!!」
「よし、競争じゃ!!」
ミニモラとケンジも海のほうに向かった。
「あ~あ、私も水着持ってくれば良かったな~」
モラリはぽつりとそう言った。
第7章 泳げ!!!
「よーい…スタート!!!」
モラリがスタートの合図をする。ミニモラとケンジは海の中へ入って行った。
「よし、それじゃあ行ってくる」
ケンジの兄も、二人の後に付いて泳ぐ
「うん、待ってるね」
モラリは三人を見送った。
バシャ…バシャ…!!
ミニモラは懸命に足と手を使って泳ぐ、しかしケンジの方が僅かに早い
「わはは~お先~じゃ」
「むむっ…くっそ~」
ミニモラはさらにスピードを上げようとする
「ほら、二人ともがんばれ」
ケンジの兄は、後ろから泳いで付いて来る
「へっへ~都会っ子は遅いのぉ……あうっ!?」
すると、突然ミニモラの少し前を泳いでいたケンジの動きが止まってしまった。
「どうした!? ケンジ?」
「兄ちゃん…あ…足が…足がつった…」
ケンジは溺れたようにもがき始めた。
「えっ…!?」
ミニモラが驚いてケンジの方を見る
「おい! 大丈夫か!!」
ケンジの兄がすぐさま駆け寄る
「助けて…ガボガボ…」
ケンジは溺れそうだ
「落ち着け、ほら、兄ちゃんにつかまれ!」
ケンジはすぐに手を伸ばし、兄の体につかまる
「うえーん、兄ちゃ~ん」
ケンジは大泣きし始める
「泣くな馬鹿、余計苦しくなるぞ、おいチビ! このまま岸に帰るよりは、ゲンゴロウ岩まで泳いだほうが距離が近い! お前は泳いで岩まで行け!!」
ケンジの兄は、ミニモラにそう言うと、ケンジを引っ張って陸のほうに連れてった。
一方…岸で三人を見ていたモラリは、ケンジが溺れた事に気づいた。
「ど…どうしよう…」
モラリは少しうろたえた後、麦わら帽子を脱いで、そのまま海の中に入って行った。
「服が濡れちゃうけど…しかたないか…」
* * *
「うえーん」
「泣くな、すぐに足の立つとこまで連れてってやるからな、おい! ミニ公! 頑張ってゲンゴロウ岩まで泳げ!!!」
ケンジの兄はミニモラにそう言ったが、ミニモラの体力も消耗してきていたのだ。
「そ…そんな事言ったって…もう限界だよ…」
もう前に進めない…ミニモラがそう思った時だった
「ほら、もう少しだよ!」
声がして、ミニモラが振り向くと、モラリがミニモラの近くまで泳いで来てくれていた。
「あっ…ねぇちゃん…」
ミニモラは、服をびしょ濡れにしてまで、自分を応援しに来てくれたモラリを見て、何だか体の底から力が湧いてくるような…そんな気がした。
(頑張らなくちゃ…!!)
ミニモラ強くそう思い、再び泳ぎ始めた。
「頑張れっ!!」
後ろからはモラリが応援してくれている…! ゴールまで…ゲンゴロウ岩まであと少しだ…!!
「それっ…!」
ミニモラはゲンゴロウ岩に手を掛けて、登った。
「わひ~~~」
ミニモラは海から上がる
「よーし、着いた~」
モラリも同じようにゲンゴロウ岩の上に上った。
「つ…つかれたぁ~~」
ミニモラはその場に寝転んだ。いや、ぶっ倒れたと言ったほうがいいかも知れない
「やればできるじゃない、急がないから、少し休むといいよ」
モラリはミニモラの方を見て言った。
「ふ~っ…プールと海がこんなに違うなんて思わなかったよ…やっぱり自然の
力はすごいもんだね…」
ミニモラは少し起き上がってそう言った。モラリはそんなミニモラを見て軽く笑う
「お~い! 大丈夫か~~!」
向こう岸からケンジの兄の声が聞こえた。
「こっちは平気だよ~」
モラリは手を振りながら答える
「ケンジが泣き止まないから、俺ら帰るな~この勝負、チビ助の勝ちだ~」
ケンジの兄はそう言った。
「か…勝った? 僕が勝ったのか?」
何だか信じられなかった。でも、ものすごく嬉しかった。
「やったッッ!!!!」
ミニモラは興奮して歓喜の声を上げた。
「うん、良く頑張ったね」
モラリは濡れたワンピースの裾を絞りながら、ミニモラに言った。
「うん! ありがと! ねぇちゃ……!!」
ミニモラがモラリの方を見ると、モラリの服が水に濡れて、布が肌に密着して透けていた。ミニモラは思わずドキッとする
「ここ…風がいい気持ちだね」
モラリの優しい声が聞こえる
「う…うん…」
ミニモラは何となく目のやり場に困り、真っ赤になりながら視線をそらして言った。
hguonmkfgeb hkearwi;5qv,cknbm@gjk,c:pldfksxezbmnjk:dv
「いってきまーす」
「行ってらっしゃい、乗り換えは○○駅よ」
「分かってるーそれじゃあ行ってくるねー」
ミニモラはこの日、夏休みを利用しておばあちゃんの家に一人で行くことになった。荷物をいっぱい詰め込んだリュックが少し重たい
「さて、まずは駅にいって…と」
ミニモラは駅に向かった。
駅には人がたくさんいた。ミニモラは母さんにいわれた通りに切符を買って、電車に乗った。
「ふーっ涼しい…」
外はものすごく暑かったため、冷房の効いた電車の中がまるで天国のように思える、ミニモラは窓の外を見た。
「……僕一人でおばあちゃんの家に行くのは初めてなんだよなー」
ミニモラは窓の外を流れる街の景色を見ながら呟いた。小学3年生のミニモラは、一人で遠出するのは初めてなため、少し緊張していた。
やがて…乗り換えの駅に着き、ミニモラは電車を乗り換える、あとはおばあちゃんの家まで一直線だ
だんだんと都会が遠ざかり、電車は山間を進む…おばあちゃんの家は、海と山に囲まれた場所にある、つまり山で虫取りもできるし、海で泳ぐ事もできるって事だ、ミニモラは考えただけでワクワクした。
やがて、山が開けて海が見えた。もうすぐ降りる駅だ。ミニモラは自分のリュックを持つと、降りる準備をした。
「ふえぇ~あっづ~」
ミニモラが電車を降りると、太陽の日差しがミニモラの肌を突き刺した。ミニモラは走ってバス停に向かう、そのバスに乗っておばあちゃんの家の前に行くのだ。
ミニモラはバス停の日陰で暑さをしのぐ、バス停の傍には大きな木があり、それでバス停は日陰になっていたのだ。周りには田んぼがあり、自分が住んでる都会の景色とはまったく違った。
ジーー ジーー ミーン ミーン…
蝉の声が聞こえる、耳を澄ましてみると鳥のさえずりや、風に揺れる木の枝の音も聞こえていた。大きな大きな入道雲の合間から照りつける日差し…真っ青な空…ミニモラにはその全てが新鮮だった。
「んーーーっ」
ミニモラは少し伸びをすると、新鮮な空気を吸い込んだ、すると…バスがやってきた。
ミニモラはバスに乗ると、一番先頭の座席に座った。バスの中には誰もいなかった。ガラガラだ
「坊やは見かけない顔だね、遠くから遊びに来たのかい?」
バスの運転手がミニモラに話しかけてきた。
「はい、東京から来ました。夏休みの間、おばあちゃんの家で過ごすんです」
ミニモラは“敬語”と言うのを使ってみた。母さんに「知らない大人の人と話すときは、敬語って言うんだけど…~です とかの言葉を使いなさい」と言われていたからだ
「へ~東京から来たの? すごいね~まだ小さいのに…言葉使いもちゃんとしてるし…家の息子に見習わせたいくらいだよ」
運転手は感心していた。ミニモラは少し嬉しかった。
しばらくして…降りるバス停に着こうとしていた。ミニモラはバス停に誰かがいることに気づいた。
「あっ! おばあちゃんだ!」
それはおばあちゃんだった。おばあちゃんはバス停のベンチに座っていた。
「おっ、そうかいじゃあここで降りるんだね」
「うん」
運転手はバスを止めた、ミニモラはバスを降りる
「おばあちゃーん、久しぶりだね」
「おお、ミニモラ元気だったかい?」
そしてミニモラはおばあちゃんと一緒におばあちゃんの家に向かった。
第2章 海
ミニモラはおばあちゃんの家に着くと、蝉の声の聞こえる縁側でゴロゴロしていた。縁側には涼しい風が吹き、風鈴が風に揺れていた。
「おばあちゃん、ひなたぼっこ気持ちいいね」
「そうだねぇ」
ミニモラの隣でおばあちゃんがお茶を飲みながらのんびりしている
「そうだ、海に行かないかい?」
「えっ? 海? 行く行く!」
おばあちゃんのその言葉にミニモラは起き上がった。
「よし、それじゃあ行こうかね」
ミニモラはおばあちゃんと一緒に家を出た。おばあちゃんの家から歩いてすぐ近くに海はあった。
「うっわぁ~~」
ミニモラは目の前に広がる大きな海を見て感嘆の声を上げた。広い砂浜…空と同じくらい真っ青な海…水平線…波の音…海猫の鳴く声…ミニモラの目や耳に一瞬のうちにして、それらが飛び込んでくる…ミニモラは波打つ海めがけて全速力で駆け出した。
「すげぇー海だ海だ~」
ミニモラは砂浜を駆け回る、歩くたび足元の砂が沈み、歩きにくかった。
「ホッホッホ…キレイじゃろう」
おばあちゃんがミニモラに言った。
「うん! すごいよ! すごく綺麗だよ! よ~しっ!」
ミニモラは勢いをつけると波打つ海の中へ飛び込んで行った。
「キャハッ!! 冷たくて気持ちいい!」
ミニモラは波に逆らって泳いでみた。波の力は強く、なかなか前に進めない
「どうだい、楽しいかい?」
おばあちゃんは砂浜にシートを敷き、パラソルを広げて座りながらミニモラの方を見ていた。
「うん! すごく楽しい!!」
ミニモラさらに泳いだ、しばらく泳いでいると波にも慣れてきて泳ぎやすくなってきた。
「そろそろお弁当にするよ~」
おばあちゃんが弁当箱を開けてミニモラを呼んでいる
「分かった~今行く~」
ミニモラはすぐにあばあちゃんの所へ向かった。
「ん~おいしい~」
ミニモラはおばあちゃんの作ってくれたおにぎりを口いっぱいに詰め込む
「モグモグ……んっ!!」
ミニモラはおにぎりを喉に詰まらせた。
「これこれ、急ぎすぎじゃよ」
おばあちゃんはミニモラに麦茶の入った水筒を渡してくれた。ミニモラはすぐに麦茶を飲み、喉のおにぎりを流し込む
「ふ~っ…いやはや…苦しかったぁ」
ミニモラは一息つく
「お米はお百姓さんに感謝して八十八回噛まなくてはいけないんじゃよ」
「そ…そんなに?」
ミニモラは母さんから、食べ物は良く噛むように言われていたが…八十八回も噛まなくてはいけないとは知らなかった。おばあちゃんは物知りだなぁとミニモラは思った。
「じゃあ僕はもう少し泳いでくるから」
ミニモラはおにぎりを食べ終わると、おばあちゃんに言った。
「はいはい、ばあちゃんはここにいますからね」
「はーい、んじゃぁ泳いで来まーす」
ミニモラは再び海の中に入る、今度は浮き輪を持って海に浮かんでみることにした。
波がミニモラを運んでいってくれる…とても気持ちが良かった。心なしか先ほどよりも波の高さが高くなってきたようだ。その時…
ザバーン!!!
後ろでひときわ大きな波の音がしたかと思うと、そこには大きなサメがいた!
「あ…!! うっ…うわぁ~~!!」
ミニモラは慌てて泳いで逃げる、そして陸に上がると、半ベソをかきながらおばあちゃんの所へ走って行った。
「おばあちゃ~ん!! さ…さ…サメサメ!! サメが出た!!」
「おやおや、見ていたよ。あれは田舎ザメと言って、決して人を襲わないサメなんだよ」
おばあちゃんは笑いながらのんびりと言った。
「そ…そうだったんだ…驚いて損しちゃった」
ミニモラは安心してその場に座り込む
「さて、そろそろ疲れたろ? 帰るとするかね」
おばあちゃんが立ち上がって言った。
「うん、そうだね」
ミニモラもそう答えた。
第3章 腕白兄弟とモラリ
ミニモラは帰る途中にある駄菓子屋の横を通りがかった。
「あっ兄ちゃんミニバアだよ」
「ミニバアだね」
駄菓子屋の横にいた兄弟らしき二人の男の子が、おばあちゃんを見て言った。兄弟の弟の方は自分よりも年下のようで、兄の方は自分と同じくらいの年の子だった。
「おやおや、腕白さんとこの子供達だよ。ミニモラや、お小遣いあげるからここで遊んでおいで、ばあちゃんは先に帰ってるから」
「うん、分かった」
ミニモラはそう言うと、おばあちゃんから小遣いをもらい、駄菓子屋の中に入って行った。
「これ下さい」
ミニモラはお菓子を買うと、外に出た。するとミニモラの目の前に、さっきの兄弟が立っていた。
「な…何?」
ミニモラがそう言うと、その兄弟は「ワレどこから来たん?」と田舎の訛りのある言葉で話しかけてきた。
「と…東京からだけど…」
ミニモラがそう言うと、兄弟の兄の方が「都会っぽはこの店使っちゃいかんちゃ。さっさと帰り!!」と言ってきた。弟のほうも「けえれ、けえれ!!」とミニモラに言う、ミニモラはその威張ったような態度に少し頭にきて「そ…そんな決まり誰が決めたんだよ!」と言い返した。
すると、兄のほうが「俺にきまってるちゃないか! つべこべ言うとゲンコかますぞ!!」と言って拳を振り上げた。弟も同じく拳を振り上げる
「へっ! 知るもんか! やれるもんならやってみろ!」
ミニモラがそう言うと、兄弟二人は、「こいつ~」「やっちゃえ~」と言ってミニモラに殴りかかってきた。
「や…やったな!」
ミニモラも怒って殴り返す。取っ組み合いのケンカが始まった。
「このこのこのこの!!」
「えいえいえいえいえい!!」
「うわーん」
お互いに掴みかかり合うミニモラと兄…そして泣き出す弟、その時
「やめなさい!」
誰かの声がしてミニモラは後ろを振り返る、そこには自分より二つ…いや…三つほど年上だろうか…とにかく年上の女の子が立っていた。麦わら帽子を被り、青いワンピースを着ている髪の長い子であった。
「あんたら相手は一人でしょ! 男らしくないよ!」
女の子は兄弟に向かって怒る
「あっ…モラんとこの姉ちゃん」
兄の方はそう言うとケンカをピタリと止めた。
「うえ~ん」
弟のほうはベソをかきながら逃げていった。
「あっ…! ケンジ…! くそっ…覚えてろ!」
兄のほうも弟を追いかけて行ってしまった。
「もう…しょうがない子達ね!」
女の子は去っていく兄弟二人の背中を見て言った。
「ほら、男の子だから一人で起きれるでしょ。あんたミニバアさんとこの子でしょ」
女の子はミニモラの方を見ると言った。
「あ…うん、そうだけど…どうして知ってるの?」
ミニモラは女の子に聞いてみた。
「ここらで子供のいるとこなんて、腕白さん所とマルモラさんの所くらいだもの」
「ふーん、そうなんだ」
ミニモラはそう言うと立ち上がった。
「お姉ちゃんありがと! 僕ミニモラってんだ! よろしくね」
「どういたしまして、私はモラリって言うの、これからは仲良く遊びなさいね」
「うん、分かった。じゃあまたね!姉ちゃん」
ミニモラはそう言うと、ばあちゃんの家に向かった。
すでに太陽がオレンジ色になっていた。
第4章 気になるあの子
「いてて…あの二人め…体中擦り傷だらけじゃないか…」
ミニモラは、ぼやきながらおばあちゃんの家の前まで来た。
「ただいま~」
ミニモラはそう言って家の扉を開ける、玄関におばあちゃんが出てきた。
「おかえりなさい。今、スイカでも切ってやるからね。おや? どうしたい?その怪我は?」
おばあちゃんはミニモラの体にできた擦り傷を見て言った。
「ああ…これ? 木に登ったら落ちちゃってさ」
まさか『ケンカしてました』とも言えまい
「…そうかね。じゃあ薬でも出してやろうかね」
ばあちゃんはにっこり笑って言った。
その後…ミニモラはおばあちゃんに絆創膏を張ってもらい、そのあと居間で、切ってもらったスイカを食べていた。
「ねぇ、ばあちゃん、モラリ姉ちゃんってどこの子?」
ミニモラはあの時に会った女の子の事をおばあちゃんに聞いてみた。
「モラリ? ああ、あの子はモララーさん所のお孫さんじゃよ」
「ふーん」
「あの子も可哀想に。母親がアメリカでお医者さんをやってるけど、研究だかが忙しくて父親と暮らしているんだよ」
ばあちゃんは静かに言った。
「ふーん…お姉ちゃんの母さんはどうして帰ってこないの?」
ミニモラは聞いてみた。
「なんだろうね…なんでも、病気の研究で帰れないとか…ばあちゃんもよく知らないんだよ」
「そうか…母さんが居ないのか…」
ミニモラは、ぽつりと呟く
「なんだえ? もう母さんが恋しくなったのかい?」
おばあちゃんは笑って言う
「ううん、ここに来たばかりだし、それは無いよ…でもやっぱりずーっと居なかったら嫌だよな…って」
ミニモラは目をつぶって言った。
「ははは、だとすると、あの娘が気になるかい」
おばあちゃんは笑った顔のままで言った。
「そっ…そんなんじゃないやい! 僕もう寝るよ」
ミニモラは真っ赤になって、あわてるように寝室に向かった。
「ははは、おやすみ」
おばあちゃんはミニモラに言った。
(…やっぱり、あの子も男の子だね。ケンカもするし、娘も気になるか…)
おばあちゃんは笑いながら、お茶を一口飲んだ。
第5章 シオダマリ
ミニモラは海で泳いでいた。
「ハハハ…楽しいな~」
その時、ザバーンという音がして、何かが海から出てきた。それは人間とも違う…魚とも違う…宇宙人のような…
「どわぁぁああっ!! 海坊主ゥッッ!!!」
ミニモラは布団から跳ね起きた。体中汗びっしょりだ
「…な…なんだ夢か…びっくりしたぁ~~」
ミニモラはフーッと息をつくと、起き上がって大きなあくびをした。そしてその後、洗面所に向かい顔を洗って歯を磨いた。
「おばあちゃんおはよう」
ミニモラが、台所にいるおばあちゃんに元気良く言った。
「おや、おはようずいぶんと早いんだねぇ今、朝ごはんを持って行くから居間で待ってておくれ」
ミニモラはそう言われて頷くと、居間のちゃぶ台の前に座って待った。しばらくして、おばあちゃんが朝ごはんを持ってきてくれた。
「いただきま~す」
ミニモラは少し急ぎながらご飯を食べた。早く遊びたいからだ
「ほらほら、あんまり急いで食べると体に毒だよ」
おばあちゃんがのんびりと言う
「平気さ! ……ごちそうさまッ!!」
ミニモラはご飯を一気に食べると、立ち上がった。
「ばぁちゃん! 遊びにいってくるね~」
ミニモラはバタバタと玄関に向かった。
「気ィつけてな、一人で海で泳いじゃあかんよ」
「はーい、分かってまーす」
ミニモラはそう答えると、家を飛び出した。
「ふーう…今日は暑くなりそうだねぇ…」
おばあちゃんが照りつける太陽を見て呟いた。
「え~っと…ここら辺に何か居ないかな…」
潮が引いて、磯のくぼみに海水の水溜りが出来ていた。潮溜りという奴だ。ミニモラは目を皿のようにして潮溜りを見ていた。
「潮溜りには磯の生物がいるって、学校の教科書に書いてあったんだよなぁ……あっ! いるいる!!」
潮溜りの中には、カニやヤドカリなど、ミニモラが普段はお目にかかる事のできない海に生息する生き物がたくさんいた。
「よーし…捕まえるぞっっ!!」
ミニモラは、はしゃぎながら潮溜りの中に入っていった。
「何してるの?」
後ろから声が聞こえた。ミニモラがその声に振り向くと、そこにはモラリが立っていた。昨日と同じように、麦わら帽子にワンピースという格好だった。
「あっモラリ姉ちゃん」
「何かいる?」
「うん、ヤドカリと、イソギンチャクと、カニが少しね」
ミニモラは再び潮溜りに目を落とすと、言った。
「よし、お姉さんも手伝ってあげよう」
そう言って、モラリも潮溜りの中へ入って来た。
「うん、ありがとう」
ミニモラは笑ってそう言った。
「そっち行ったよ~」
「よ~し! …あれれ? どこ行った?」
「ほらほら、逃がしちゃうよ」
「むむ…よし……いたっっ!!」
ミニモラはタイミングをみて手を伸ばす!
「やった~!!!」
ミニモラの手には大きなタコが一匹握られていた。さっきから追い回してたが、なかなか捕まえられなかったのだ。
「タコ取ったどぉ~!!」
そう言ってミニモラがタコを持ち上げた時、タコは真っ黒な墨をミニモラの顔に吹きかけた。
「ぶわっっ!!!」
ミニモラは手を離してしまう、タコは逃げてしまった。
「あははっ」
モラリは真っ黒になったミニモラの顔を見て、笑った。
「ひどいや、お姉ちゃん」
「ゴメン、でもおかしくて」
ミニモラとモラリは青空の下、二人で笑った。
第6章 競泳対決!
ザザァ…ザバーン…――
波の音が大きく聞こえる…
「…ふうん、それで一人で来たんだ、えらいね」
「うん、二回乗換えとバスだね」
ミニモラはモラリの隣に座りながら、ここにどうやって来たかを話した。
「でも、お姉ちゃんだって一人で来たんでしょ、別に偉くないよ」
「私があなたくらいの時は、一人で電車は乗れなかったわよ、すごい冒険だと思うな、私」
モラリの言葉にミニモラが少し照れながら、「へへっ、そうかな」と言った時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「なんじゃワレ、ひなたぼっこかい」
「海水パンツはいとるんやから一緒に泳がんか」
「あっ…!! おまえら!!」
そうである、ミニモラがその声のした方を見ると、そこには昨日の兄弟が立っていた。
「あら、一緒に泳ごうなんて、仲直りするの?」
モラリが兄弟にそう言う、ミニモラはその兄弟の態度に怪訝そうな顔をする
「まぁ…そう辛気臭い顔すんなや、昨日はオレらが悪かった。仲直りにゲンゴロウ岩まで泳ごう、競争じゃ」
「ゲンゴロウ岩?」
兄弟の兄のその言葉に、ミニモラは海の方を見る
「あの岩じゃ」
兄弟の弟…ケンジは海の沖合いにぽっかり浮かぶ大きな岩場を指差して言った。
(う~ん、あそこまでなら…この夏のプールで25m泳げるようになったから多分大丈夫かな…あっ…でもおばあちゃんに一人で海で泳いじゃいけないって言われてるしなぁ…)
ミニモラは少し考えたが、おばあちゃんの言葉を思い出し、兄弟に言った。
「でも…海に一人で入っちゃいけないって、ばあちゃんが…」
「一人じゃ無いきに、ワシ等がいるから平気じゃ」
「平気じゃ、平気じゃ」
「行ってらっしゃいな、私は水着じゃ無いから見ててあげるからね」
ミニモラは断ろうとしたが、みんなにそう言われてしまい、再び考えた。
「なんじゃ、都会っ子は怖いのか?」
ケンジにそう言われ、ミニモラはムッとして「泳げるやいッッ!!」と言った。
「よし、そんならケンジと勝負じゃ、ケンジも浮き輪無しではあの岩まで泳いだ事は無いからな」
ケンジの兄はそう言いながら海の方に向かう
「よっし!! じゃあ姉ちゃん、泳いでくる!!」
「よし、競争じゃ!!」
ミニモラとケンジも海のほうに向かった。
「あ~あ、私も水着持ってくれば良かったな~」
モラリはぽつりとそう言った。
第7章 泳げ!!!
「よーい…スタート!!!」
モラリがスタートの合図をする。ミニモラとケンジは海の中へ入って行った。
「よし、それじゃあ行ってくる」
ケンジの兄も、二人の後に付いて泳ぐ
「うん、待ってるね」
モラリは三人を見送った。
バシャ…バシャ…!!
ミニモラは懸命に足と手を使って泳ぐ、しかしケンジの方が僅かに早い
「わはは~お先~じゃ」
「むむっ…くっそ~」
ミニモラはさらにスピードを上げようとする
「ほら、二人ともがんばれ」
ケンジの兄は、後ろから泳いで付いて来る
「へっへ~都会っ子は遅いのぉ……あうっ!?」
すると、突然ミニモラの少し前を泳いでいたケンジの動きが止まってしまった。
「どうした!? ケンジ?」
「兄ちゃん…あ…足が…足がつった…」
ケンジは溺れたようにもがき始めた。
「えっ…!?」
ミニモラが驚いてケンジの方を見る
「おい! 大丈夫か!!」
ケンジの兄がすぐさま駆け寄る
「助けて…ガボガボ…」
ケンジは溺れそうだ
「落ち着け、ほら、兄ちゃんにつかまれ!」
ケンジはすぐに手を伸ばし、兄の体につかまる
「うえーん、兄ちゃ~ん」
ケンジは大泣きし始める
「泣くな馬鹿、余計苦しくなるぞ、おいチビ! このまま岸に帰るよりは、ゲンゴロウ岩まで泳いだほうが距離が近い! お前は泳いで岩まで行け!!」
ケンジの兄は、ミニモラにそう言うと、ケンジを引っ張って陸のほうに連れてった。
一方…岸で三人を見ていたモラリは、ケンジが溺れた事に気づいた。
「ど…どうしよう…」
モラリは少しうろたえた後、麦わら帽子を脱いで、そのまま海の中に入って行った。
「服が濡れちゃうけど…しかたないか…」
* * *
「うえーん」
「泣くな、すぐに足の立つとこまで連れてってやるからな、おい! ミニ公! 頑張ってゲンゴロウ岩まで泳げ!!!」
ケンジの兄はミニモラにそう言ったが、ミニモラの体力も消耗してきていたのだ。
「そ…そんな事言ったって…もう限界だよ…」
もう前に進めない…ミニモラがそう思った時だった
「ほら、もう少しだよ!」
声がして、ミニモラが振り向くと、モラリがミニモラの近くまで泳いで来てくれていた。
「あっ…ねぇちゃん…」
ミニモラは、服をびしょ濡れにしてまで、自分を応援しに来てくれたモラリを見て、何だか体の底から力が湧いてくるような…そんな気がした。
(頑張らなくちゃ…!!)
ミニモラ強くそう思い、再び泳ぎ始めた。
「頑張れっ!!」
後ろからはモラリが応援してくれている…! ゴールまで…ゲンゴロウ岩まであと少しだ…!!
「それっ…!」
ミニモラはゲンゴロウ岩に手を掛けて、登った。
「わひ~~~」
ミニモラは海から上がる
「よーし、着いた~」
モラリも同じようにゲンゴロウ岩の上に上った。
「つ…つかれたぁ~~」
ミニモラはその場に寝転んだ。いや、ぶっ倒れたと言ったほうがいいかも知れない
「やればできるじゃない、急がないから、少し休むといいよ」
モラリはミニモラの方を見て言った。
「ふ~っ…プールと海がこんなに違うなんて思わなかったよ…やっぱり自然の
力はすごいもんだね…」
ミニモラは少し起き上がってそう言った。モラリはそんなミニモラを見て軽く笑う
「お~い! 大丈夫か~~!」
向こう岸からケンジの兄の声が聞こえた。
「こっちは平気だよ~」
モラリは手を振りながら答える
「ケンジが泣き止まないから、俺ら帰るな~この勝負、チビ助の勝ちだ~」
ケンジの兄はそう言った。
「か…勝った? 僕が勝ったのか?」
何だか信じられなかった。でも、ものすごく嬉しかった。
「やったッッ!!!!」
ミニモラは興奮して歓喜の声を上げた。
「うん、良く頑張ったね」
モラリは濡れたワンピースの裾を絞りながら、ミニモラに言った。
「うん! ありがと! ねぇちゃ……!!」
ミニモラがモラリの方を見ると、モラリの服が水に濡れて、布が肌に密着して透けていた。ミニモラは思わずドキッとする
「ここ…風がいい気持ちだね」
モラリの優しい声が聞こえる
「う…うん…」
ミニモラは何となく目のやり場に困り、真っ赤になりながら視線をそらして言った。
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