メクラアメ メクラアメ
愛した男が帰らない
奥方は雨に寄り道
学生は蛙に騙された
想い人の全てを攫うは
憎らしや
<<盲雨>>
つーちゃんの兄さん、ギコさんの葬式の日だ。
俺が覚えてるのは、ポクポクという五月蝿い音と、線香の香、日本語かと疑うような念仏、そして、ギコさんの写真。
葬式が終わると、和室へ行った。
ヒソヒソと小声で、モナーとモララーが話をしていた。
「池の底から白骨死体で出てきたんでしょ? ギコ君」
「どうもそうらしいんですよ。行方不明になってからもう三年」
「恐ろしいことになったものだ……」
そう、ギコは3年前、妹のつーちゃんを置いて 消えてしまった
池の底からでてきたギコさんを見たつーちゃんはどういう気持ちにだったんだろう・・
つーちゃんはとても落ちこんでいた、親族が死んだんだ、無理もない・・・。
そんな人をほっとけない馬鹿な俺は、つーちゃんを慰めた
「つーちゃん! お兄さんのこと、その、あの、大変だったな。
俺、何て言ったらいいか…」
つーちゃんにそう言うと、お茶を運んできたのーちゃんも、小声で話をしていたモナーもモララーも俺の方を見た。
一方つーちゃんは下を向いたまま、俺の慰めなど聞いていたのかも解らない。
「…《メクラアメ》ダ」
下を向いていたつーちゃんが言った
「え?」
「アニキダヨ。 アノ時モヒデエ雨ガフッテタ。
メクラアメニ攫ワレタンダ」
・・・・《メクラアメ》?
「アノ女ガアニキヲタブラカシテ アノ世ヘ連レテッチマッタンダ!」
つーちゃんは俺の方を向き、そう大声で言った。
「つーちゃん」
「アンナニ「ツレテカナイデ」ッテ タノンダノニ…」
「つーちゃん……」
悲しそうに・・泣き崩れそうな瞳で、俺に抱きついてきた
五年ぶりの池掃除で積もった泥の下からギコさんの骨が出てきたのが数日前だった
何故池の底で死んでいたのかは解らない
ギコさんは三年前から行方不明になっており、家は妹のつーちゃんが一人で守っていた
盲雨は、引き裂かれた男女が 迷って抜けられなくなる雨だと言われている。
暗闇から消えたかたわれが相手を呼ぶ。そしてそれに応えると、応えた方は”向こう側”へ行って二度と帰ってこないそうだ。
「……」
お兄さんのことよっぽど好きだったんだな
その時、目眩がした。つーちゃんが好きなのは多分俺じゃなかった。
だけど俺はつーちゃんが好きだった。気がおかしくなるほどに。
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
ふさ君とつーちゃんが話をしている間、モナー君とボクは雨が酷くならないうちに帰ることにした。
「──それにしても、よく降りますね 」
「そうですね。じとじとじめじめして食べ物も腐りやすいし 薄暗いし」
「僕達も気を付けないと攫われちゃうかな」
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
「盲雨《メクラアメ》なんてのはね、要するに人の心の惑いを例えたものなんですよ」
モナー君が言った。メクラアメについてはボクはあまり知らない。だからモナー君が説明してくれるようなので、正直助かる。
「”迷わない”と思っていれば捕まらないものです」
意思で人の危険が変わるのか?・・・・はっ、笑ってしまうな・・
「またまた・・そもそもウチらは盲雨なんて見た事無いじゃないですか」
そうだ、信じられない話だ。いくらつーちゃんが言っても、そんなの信じられないな。
「もしかしたら本当に雨が人を攫うのかも知れませんよ?ギコ君を攫ったのは果たして誰なんでしょうね」
・・・・・ちょっとだけ、信じてしまった。
でも、実際見たことない。雨に攫われた人がどうして池からでてくるんだ?
そういう話になるだろう・・
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
「つーちゃん。もしつーちゃんが辛くなかったら話訊いてもいいか」
「…「アノ女」ノ アタリカ」
「そう」
「オレガ話スト ナゲーゾ」
「 いいよ。一晩中でも 聞くから。」
「……オレハ、アノ女ガ、憎イ。ヒデー事イッパイ考エテル。」
それは、普通のことだ。自分にとって都合の悪い存在の悪口は無意識に浮かんでくる。
「キット オレノコト 見捨テタクナル……」
「ならない!!」
俺はつーちゃんに怒鳴るようにしていった。
俺は、つーちゃんが好きだ。大好きだ。昔は妹のように思っていたが、今は違う。
「俺がつーちゃんを見捨てるはずがないだろ…」
ちょん・・っと俺はつーちゃんの頬に触った。それは、今にも消えてしまいそうなつーちゃんの存在があるということを
この手で確かめておきたかったからだ。
だが、その行動はつーちゃんにとっては、好ましくなかったようだ
「…ヤメロ キモチ悪イ」
…ああ やっぱりつーちゃんが好きなのは俺じゃないのか。
お 前 の 心 に い る の は 誰 な ん だ ?
いや、いかんいかん。つーちゃんは俺の女じゃないんだ。嫌がられて当然なんだ。
つーちゃんはこの勢いで俺がまた何かしてくるのかと思っているのか、俺からちょっと離れた。
勿論、俺はそんなことは考えていない
「悪かった。続きを聞かせてくれよ」
本当に悪いと思った、つーちゃんは大好きなお兄さんを失った後なのに。
・・・しばらくすると、つーちゃんは重い口を開き、話してくれた
「アニキハ 生キテイタ頃、近所ノ後家ノ女ト 出来テイタンダ。」
ありがちな設定だな・・近所の女の人と・・・。ギコさんは年上好みか。なんか意外だな
「ソノ女ノ旦那ハ 死ンデタノカ ドウカ ワカンナカッタ。 イナクナッタダケ ダッタカラ。アニキガ 勝手ニ 後家サンダッテ 決メツケタンダ。」
ってえぇ?人妻に手ぇだしたのか!!ギコさんて趣味悪いな・・
つーちゃんが言うには、その日はめちゃくちゃ晴れていて、植物たちが水を求めるにふさわしい日だそうだ。
なんかめちゃくちゃだが。
愛した男が帰らない
奥方は雨に寄り道
学生は蛙に騙された
想い人の全てを攫うは
憎らしや
<<盲雨>>
つーちゃんの兄さん、ギコさんの葬式の日だ。
俺が覚えてるのは、ポクポクという五月蝿い音と、線香の香、日本語かと疑うような念仏、そして、ギコさんの写真。
葬式が終わると、和室へ行った。
ヒソヒソと小声で、モナーとモララーが話をしていた。
「池の底から白骨死体で出てきたんでしょ? ギコ君」
「どうもそうらしいんですよ。行方不明になってからもう三年」
「恐ろしいことになったものだ……」
そう、ギコは3年前、妹のつーちゃんを置いて 消えてしまった
池の底からでてきたギコさんを見たつーちゃんはどういう気持ちにだったんだろう・・
つーちゃんはとても落ちこんでいた、親族が死んだんだ、無理もない・・・。
そんな人をほっとけない馬鹿な俺は、つーちゃんを慰めた
「つーちゃん! お兄さんのこと、その、あの、大変だったな。
俺、何て言ったらいいか…」
つーちゃんにそう言うと、お茶を運んできたのーちゃんも、小声で話をしていたモナーもモララーも俺の方を見た。
一方つーちゃんは下を向いたまま、俺の慰めなど聞いていたのかも解らない。
「…《メクラアメ》ダ」
下を向いていたつーちゃんが言った
「え?」
「アニキダヨ。 アノ時モヒデエ雨ガフッテタ。
メクラアメニ攫ワレタンダ」
・・・・《メクラアメ》?
「アノ女ガアニキヲタブラカシテ アノ世ヘ連レテッチマッタンダ!」
つーちゃんは俺の方を向き、そう大声で言った。
「つーちゃん」
「アンナニ「ツレテカナイデ」ッテ タノンダノニ…」
「つーちゃん……」
悲しそうに・・泣き崩れそうな瞳で、俺に抱きついてきた
五年ぶりの池掃除で積もった泥の下からギコさんの骨が出てきたのが数日前だった
何故池の底で死んでいたのかは解らない
ギコさんは三年前から行方不明になっており、家は妹のつーちゃんが一人で守っていた
盲雨は、引き裂かれた男女が 迷って抜けられなくなる雨だと言われている。
暗闇から消えたかたわれが相手を呼ぶ。そしてそれに応えると、応えた方は”向こう側”へ行って二度と帰ってこないそうだ。
「……」
お兄さんのことよっぽど好きだったんだな
その時、目眩がした。つーちゃんが好きなのは多分俺じゃなかった。
だけど俺はつーちゃんが好きだった。気がおかしくなるほどに。
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
ふさ君とつーちゃんが話をしている間、モナー君とボクは雨が酷くならないうちに帰ることにした。
「──それにしても、よく降りますね 」
「そうですね。じとじとじめじめして食べ物も腐りやすいし 薄暗いし」
「僕達も気を付けないと攫われちゃうかな」
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
「盲雨《メクラアメ》なんてのはね、要するに人の心の惑いを例えたものなんですよ」
モナー君が言った。メクラアメについてはボクはあまり知らない。だからモナー君が説明してくれるようなので、正直助かる。
「”迷わない”と思っていれば捕まらないものです」
意思で人の危険が変わるのか?・・・・はっ、笑ってしまうな・・
「またまた・・そもそもウチらは盲雨なんて見た事無いじゃないですか」
そうだ、信じられない話だ。いくらつーちゃんが言っても、そんなの信じられないな。
「もしかしたら本当に雨が人を攫うのかも知れませんよ?ギコ君を攫ったのは果たして誰なんでしょうね」
・・・・・ちょっとだけ、信じてしまった。
でも、実際見たことない。雨に攫われた人がどうして池からでてくるんだ?
そういう話になるだろう・・
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
サアアアアア サアアアアア サアアアアア・・・・・・・・・
「つーちゃん。もしつーちゃんが辛くなかったら話訊いてもいいか」
「…「アノ女」ノ アタリカ」
「そう」
「オレガ話スト ナゲーゾ」
「 いいよ。一晩中でも 聞くから。」
「……オレハ、アノ女ガ、憎イ。ヒデー事イッパイ考エテル。」
それは、普通のことだ。自分にとって都合の悪い存在の悪口は無意識に浮かんでくる。
「キット オレノコト 見捨テタクナル……」
「ならない!!」
俺はつーちゃんに怒鳴るようにしていった。
俺は、つーちゃんが好きだ。大好きだ。昔は妹のように思っていたが、今は違う。
「俺がつーちゃんを見捨てるはずがないだろ…」
ちょん・・っと俺はつーちゃんの頬に触った。それは、今にも消えてしまいそうなつーちゃんの存在があるということを
この手で確かめておきたかったからだ。
だが、その行動はつーちゃんにとっては、好ましくなかったようだ
「…ヤメロ キモチ悪イ」
…ああ やっぱりつーちゃんが好きなのは俺じゃないのか。
お 前 の 心 に い る の は 誰 な ん だ ?
いや、いかんいかん。つーちゃんは俺の女じゃないんだ。嫌がられて当然なんだ。
つーちゃんはこの勢いで俺がまた何かしてくるのかと思っているのか、俺からちょっと離れた。
勿論、俺はそんなことは考えていない
「悪かった。続きを聞かせてくれよ」
本当に悪いと思った、つーちゃんは大好きなお兄さんを失った後なのに。
・・・しばらくすると、つーちゃんは重い口を開き、話してくれた
「アニキハ 生キテイタ頃、近所ノ後家ノ女ト 出来テイタンダ。」
ありがちな設定だな・・近所の女の人と・・・。ギコさんは年上好みか。なんか意外だな
「ソノ女ノ旦那ハ 死ンデタノカ ドウカ ワカンナカッタ。 イナクナッタダケ ダッタカラ。アニキガ 勝手ニ 後家サンダッテ 決メツケタンダ。」
ってえぇ?人妻に手ぇだしたのか!!ギコさんて趣味悪いな・・
つーちゃんが言うには、その日はめちゃくちゃ晴れていて、植物たちが水を求めるにふさわしい日だそうだ。
なんかめちゃくちゃだが。