今日も良い日和だ。朝も特に苦労することなく起きることが出来た。
いつものことだが、学校へ行く。結構近いので歩いて行くことになっている。
学校では数個の人だかりが出来ている。それぞれ、スポーツが得意な組・オタク臭い組・女子数組、等決まった連中に分かれているようだ。これだっていつもの光景だ。
それらの組に属さずに端っこでもじもじしているヤツが絶対に二人くらいはいる。片方は八頭身とか呼ばれるヤツだ。誰と話をするでもなく、したいという風でもなく、いつもただもじもじしている。見ているだけでいらついてくるヤツの一つの例だろう。虐められているというわけではないが、ほとんどの人からは近づくことを拒否される存在だ。もう一方は八頭身ギコと呼ばれるヤツだ。“端っこでもじもじしているヤツ”とはちょっと違うが、周りのあまり話をしない連中に向かって五月蝿く話を仕掛けて迷惑をかけている。こいつは近づいてくるといらつくヤツの例と言えるかもしれない。こいつはフラストレーションを押さえきれなくなった連中から時々虐められる。
この辺で俺も自己紹介をしよう。俺はギコ、まぁはっきり言ってほとんどの場合ではあまりいろいろなことに関わらない主体性のないヤツだ。
「よう、ギコ!」
(またかよこの!!)
昼休み、ボーッと考え事をしている時にいきなり声をかけて来たのは八頭身ギコだ。相手が自分のことをどう思っているのか、少しでも考えろ!と言ったこともあったのに、そんなことは頭の隅にもないらしい。真にむかつく。
仕方がないので露骨にいらついた顔で返事を返して何処かに追いやり、また考え事をはじめる。浮かんでくる思考がさっきの行動で妨害され、違う言葉が浮かんでくるようになってしまった。
(あいつは悪気がないからあんまり酷いことは言いたくないしなぁ・・・でも現に俺は迷惑被ってるわけだしなぁ・・・しかしながら・・・)
俺はこんな事を考えたいんじゃない!!と思って否定してみても思考が止まる気配はない。仕方なく、周りに顔を巡らせてみる。
どうやらあいつはまた誰かに声をかけ、五月蝿がられているようだ。
あいつがみんなから嫌われなくなる方法は簡単だ。自分の行動が他人に与える影響を少しでも考えればいいだけなのだ。運の悪いことにこいつとよく組にさせられる俺はその事を何度も忠告しているのだが、聞く気配はない。
「自意識欠如・・・かぁ・・・。」
窓の外、日の光を受けて美しく輝く町を見ながら、俺は呟きを漏らした。
「ねぇ・・・ギコ君・・・。ちょっと手伝ってくれないかなぁ・・・?」
(く、臭ぁ!!てかキモイしゃべり方するなよもう!!)
授業の十分前、踏みつぶされたカエルのような声で話しかけてきたのは八頭身だ。
運悪く、クラスでこいつと同じ仕事をすることとなってしまった俺はこいつと一緒に仕事をすることが多い。周りからはその事で冷やかされることもあるし、全く持って迷惑だ。
仕方なく、こいつと一緒に次の授業で使うテレビを運んでくる。それを動かす動作も、引っ張り出す時の動作も、見ていて本当にいらついてくるほど自信なさげだ。しかも、こいつは独特の体臭を放っているらしく、近くにいるとめちゃくちゃ臭いのだ。一緒にテレビを運ぶというその行動自体俺にとっては真に苦痛だ。
取りあえずやることはやったので俺は再び席に戻る。臭くておずおずしているヤツ、こんなヤツが今まで本格的な虐めに遭わないで居られたのは俺の周りの連中が非常に気のいい人ばかりだからだろう。
(ほんとに毎日風呂入ってんのかよ・・・マジで臭いってのもう・・・でもこいつは悪気がないからこんな事言いたくないしなぁ・・・でも俺は迷惑なんだよなぁ・・・)
ほんの十分前と同じ思考が頭を駆けめぐる。やはりここからは抜け出せそうにないのでまたもや視線を巡らせる。案の定、部屋の端っこでもじもじしている八頭身が目についた。
こいつが虐められないのは恐らく、近づくのがそもそも嫌だからだろう。わざわざこいつの体臭を嗅ぎたいと思うヤツは居ないだろうし、声を聞いていらつきたいというヤツも居ないだろう。そういうわけでこいつの周りは誰もいないのではないかと俺は思っている。
こいつが立場を良くするためには、何とかして少しでも自信を持って行動できるようになるしかないだろう。これ以外に方法が有るだろうか。流石に前のヤツとは違い、それをこいつが認めるのは酷だろう。だから俺はあえて口にはしていない。
「自信と行動・・・ねぇ・・・。」
授業が近づき、静まってきた教室を見渡しながら、俺はまた口の中で呟いた。
授業が全て終了し、帰る時間となった。放課後は自分たちのクラスで歌練習がある。これは間近に迫った卒業式の為の物だ。
「あれ?八頭身ギコいねぇんじゃね?」
見ると、あいつの席だけ空いている。
(逃げたのかよ・・・)
俺は呆れるばかりだが他の連中は楽しそうにそれをネタにしている。
「明日学校来たら虐めてやろうぜ・・・。」
「こう五人で取り囲んでよ・・・『おい、手前なぁに調子こいでんだよ!』
「っっはっはっはっはっは!」
恐らくあんまり本気ではないだろう。しかしいつもは話題にも乗らないようなヤツなだけにいざ話題になってみると本気になっているのかもしれないという気もしてくる。
(はぁ・・・自分の立場が今どうなのか、考えたことあんのかよ・・・)
ため息はいつまで経っても止まらない。気を使っている俺が馬鹿みたいだ。
次の日、俺は遅刻寸前で学校に着いたのでどうなのかは解らなかったが、その日の放課後先生が切れている様子がうかがえた。
「おまえらのせいで全員迷惑してんのがわかんねぇのか!?」
怒りの対象は二人だ。一人は八頭身ギコ、もう一人はよく八頭身ギコと口喧嘩をする困ったヤツだ。
(き、気になる・・・!!)
俺の野次馬精神が展開を気にしているので、何とか理由を作っては居残っていたが、ネタが尽きてしまった。居残るのは失敗だ。
「てめぇが受験落ちるのなんか関係ないが、ほかの奴らに迷惑かけんじゃねぇ!!」
語義が荒くなってきた。先生も前々から業を煮やしていたのかもしれない。
(あいつは自分のこと考えたこと、一回でもあんのかなぁ・・・)
結局、虐めや無視などの原因となるのはいじめっ子ではなくいじめられっ子の方なのではないだろうか。それをネタにする方も悪いとは思うが、その時点で自分の非を認めようとせず、相手が悪いとしか考えない事のほうが悪いのかもしれない。それに気づかないということは無いだろう。『僕にはそんなこと出来ないよ・・・』と逃げることは簡単だ。それを乗り越えることが出来なければ自分に降りかかる虐めを止めることなど出来ない。僕には出来ない、のではなく僕はやるのが嫌だ、という事なのかもしれない。下手に虐めを止めようとしても相手はそれをネタにするので無駄だ。虐められる方が強くならなければならないのだ。それは簡単なことではないだろう。やり遂げられる人がこの世に何人いるのかは解らない。しかし、自分が虐められていると感じたらやらなければならない事なのだ。
END
いつものことだが、学校へ行く。結構近いので歩いて行くことになっている。
学校では数個の人だかりが出来ている。それぞれ、スポーツが得意な組・オタク臭い組・女子数組、等決まった連中に分かれているようだ。これだっていつもの光景だ。
それらの組に属さずに端っこでもじもじしているヤツが絶対に二人くらいはいる。片方は八頭身とか呼ばれるヤツだ。誰と話をするでもなく、したいという風でもなく、いつもただもじもじしている。見ているだけでいらついてくるヤツの一つの例だろう。虐められているというわけではないが、ほとんどの人からは近づくことを拒否される存在だ。もう一方は八頭身ギコと呼ばれるヤツだ。“端っこでもじもじしているヤツ”とはちょっと違うが、周りのあまり話をしない連中に向かって五月蝿く話を仕掛けて迷惑をかけている。こいつは近づいてくるといらつくヤツの例と言えるかもしれない。こいつはフラストレーションを押さえきれなくなった連中から時々虐められる。
この辺で俺も自己紹介をしよう。俺はギコ、まぁはっきり言ってほとんどの場合ではあまりいろいろなことに関わらない主体性のないヤツだ。
「よう、ギコ!」
(またかよこの!!)
昼休み、ボーッと考え事をしている時にいきなり声をかけて来たのは八頭身ギコだ。相手が自分のことをどう思っているのか、少しでも考えろ!と言ったこともあったのに、そんなことは頭の隅にもないらしい。真にむかつく。
仕方がないので露骨にいらついた顔で返事を返して何処かに追いやり、また考え事をはじめる。浮かんでくる思考がさっきの行動で妨害され、違う言葉が浮かんでくるようになってしまった。
(あいつは悪気がないからあんまり酷いことは言いたくないしなぁ・・・でも現に俺は迷惑被ってるわけだしなぁ・・・しかしながら・・・)
俺はこんな事を考えたいんじゃない!!と思って否定してみても思考が止まる気配はない。仕方なく、周りに顔を巡らせてみる。
どうやらあいつはまた誰かに声をかけ、五月蝿がられているようだ。
あいつがみんなから嫌われなくなる方法は簡単だ。自分の行動が他人に与える影響を少しでも考えればいいだけなのだ。運の悪いことにこいつとよく組にさせられる俺はその事を何度も忠告しているのだが、聞く気配はない。
「自意識欠如・・・かぁ・・・。」
窓の外、日の光を受けて美しく輝く町を見ながら、俺は呟きを漏らした。
「ねぇ・・・ギコ君・・・。ちょっと手伝ってくれないかなぁ・・・?」
(く、臭ぁ!!てかキモイしゃべり方するなよもう!!)
授業の十分前、踏みつぶされたカエルのような声で話しかけてきたのは八頭身だ。
運悪く、クラスでこいつと同じ仕事をすることとなってしまった俺はこいつと一緒に仕事をすることが多い。周りからはその事で冷やかされることもあるし、全く持って迷惑だ。
仕方なく、こいつと一緒に次の授業で使うテレビを運んでくる。それを動かす動作も、引っ張り出す時の動作も、見ていて本当にいらついてくるほど自信なさげだ。しかも、こいつは独特の体臭を放っているらしく、近くにいるとめちゃくちゃ臭いのだ。一緒にテレビを運ぶというその行動自体俺にとっては真に苦痛だ。
取りあえずやることはやったので俺は再び席に戻る。臭くておずおずしているヤツ、こんなヤツが今まで本格的な虐めに遭わないで居られたのは俺の周りの連中が非常に気のいい人ばかりだからだろう。
(ほんとに毎日風呂入ってんのかよ・・・マジで臭いってのもう・・・でもこいつは悪気がないからこんな事言いたくないしなぁ・・・でも俺は迷惑なんだよなぁ・・・)
ほんの十分前と同じ思考が頭を駆けめぐる。やはりここからは抜け出せそうにないのでまたもや視線を巡らせる。案の定、部屋の端っこでもじもじしている八頭身が目についた。
こいつが虐められないのは恐らく、近づくのがそもそも嫌だからだろう。わざわざこいつの体臭を嗅ぎたいと思うヤツは居ないだろうし、声を聞いていらつきたいというヤツも居ないだろう。そういうわけでこいつの周りは誰もいないのではないかと俺は思っている。
こいつが立場を良くするためには、何とかして少しでも自信を持って行動できるようになるしかないだろう。これ以外に方法が有るだろうか。流石に前のヤツとは違い、それをこいつが認めるのは酷だろう。だから俺はあえて口にはしていない。
「自信と行動・・・ねぇ・・・。」
授業が近づき、静まってきた教室を見渡しながら、俺はまた口の中で呟いた。
授業が全て終了し、帰る時間となった。放課後は自分たちのクラスで歌練習がある。これは間近に迫った卒業式の為の物だ。
「あれ?八頭身ギコいねぇんじゃね?」
見ると、あいつの席だけ空いている。
(逃げたのかよ・・・)
俺は呆れるばかりだが他の連中は楽しそうにそれをネタにしている。
「明日学校来たら虐めてやろうぜ・・・。」
「こう五人で取り囲んでよ・・・『おい、手前なぁに調子こいでんだよ!』
「っっはっはっはっはっは!」
恐らくあんまり本気ではないだろう。しかしいつもは話題にも乗らないようなヤツなだけにいざ話題になってみると本気になっているのかもしれないという気もしてくる。
(はぁ・・・自分の立場が今どうなのか、考えたことあんのかよ・・・)
ため息はいつまで経っても止まらない。気を使っている俺が馬鹿みたいだ。
次の日、俺は遅刻寸前で学校に着いたのでどうなのかは解らなかったが、その日の放課後先生が切れている様子がうかがえた。
「おまえらのせいで全員迷惑してんのがわかんねぇのか!?」
怒りの対象は二人だ。一人は八頭身ギコ、もう一人はよく八頭身ギコと口喧嘩をする困ったヤツだ。
(き、気になる・・・!!)
俺の野次馬精神が展開を気にしているので、何とか理由を作っては居残っていたが、ネタが尽きてしまった。居残るのは失敗だ。
「てめぇが受験落ちるのなんか関係ないが、ほかの奴らに迷惑かけんじゃねぇ!!」
語義が荒くなってきた。先生も前々から業を煮やしていたのかもしれない。
(あいつは自分のこと考えたこと、一回でもあんのかなぁ・・・)
結局、虐めや無視などの原因となるのはいじめっ子ではなくいじめられっ子の方なのではないだろうか。それをネタにする方も悪いとは思うが、その時点で自分の非を認めようとせず、相手が悪いとしか考えない事のほうが悪いのかもしれない。それに気づかないということは無いだろう。『僕にはそんなこと出来ないよ・・・』と逃げることは簡単だ。それを乗り越えることが出来なければ自分に降りかかる虐めを止めることなど出来ない。僕には出来ない、のではなく僕はやるのが嫌だ、という事なのかもしれない。下手に虐めを止めようとしても相手はそれをネタにするので無駄だ。虐められる方が強くならなければならないのだ。それは簡単なことではないだろう。やり遂げられる人がこの世に何人いるのかは解らない。しかし、自分が虐められていると感じたらやらなければならない事なのだ。
END