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戦うだけの人 (tubarohu)

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 白い照明に人工芝も生えていない茶色の地面が照らされている。
 灰色の壁で囲まれるドームは約2km四方はある。高さは200mは有りそうだ。結構広い。
 地面に何の模様も入っていなければ、観客席すらもない。しかし、その最上部には縦3m、横10mほどの窓が一つだけついていた。
 そんな殺風景なドームの中心に二人のAAが立っていた。腰にバスタードソードをぶら下げている以外、なんの装備もしていない。
 『用意は良いか?』
 マイクから聞こえてきた声に二人のAA、モナーとモララーは無表情に頷く。そしてすぐ、前方を見据える。その目からは何の感情も読み取れない。
 『始めろ。』
 マイクの声が告げると同時に、二人の目がギラリと危険な輝きを放つ。
 直後、二人の周りに10数本もの火柱が立ち上った。炎は渦を巻きながら天井に着くかつかないかの所まで立ち上る。周囲をプラズマ化しそうな程の超高温が大気を焦がす。
 火柱に囲まれた二人は無表情に身構え、腰に下げていた剣を引き抜く。
 その様は凶暴な炎の柱に囲まれているとは思えないほど静謐な雰囲気を漂わせていた。
 「恨みっこ無しだぞ。」
 黒いAAの口が不敵な殺意を込めた笑みを浮かべる。
 「分かってるモナ。」
 それに答える白いAAはその殺意を受け流し、自らも見る者がぞっとするような、邪悪な笑みを浮かべた。
 直後、周囲に立ち上がっていた炎柱の内7本が白いAAに向かって倒れかかった。
 対する白いAAは剣を握っていない左手を掲げ、正面から迫るその炎にかざす。
 炎の先端が届くと見えた瞬間、その炎は真空の刃に切り裂かれ、バラバラになりながら白いAAの周りを通り過ぎていった。
 刹那、その懐に黒い旋風が潜り込む。黒影は銀の孤影を引きながら白いAAに致命傷を与えるべく、首筋に音速に達するかと思われるほどの速度で突き進む。
 ガギィン、という空気の振動が広いドームにこだまし、白影と黒影は距離を置いて再び対峙した。どちらも無傷だ。刃が届くと見えた瞬間、もう一つの銀光がそれを防いでいたのだ。
 白いAAはまだ動かしていなかった自分の炎の先端を黒いAAに向けて突っ込ませる。と同時にそれを真空波で細切れにする。
 黒いAAの眼前は一瞬にして数千度を超える炎の雨で埋め尽くされた。
 それにひるまず黒いAAは地面に剣を突き刺す。すると地面がめくれ上がり、大量の土壁が立ち上がり、黒いAAに突き進む炎の雨をはたき落とした。
 瞬間、土壁の間を黒影が走り抜け、その向こうにいる白い獲物に向かい、銀光をまといながら突き進んでいく。
 白いAAもそれに負けないほどの速度で間合いを詰め、黒影に向かい唐竹割の一撃を見舞う。一撃は右斜め上に振り抜かれた一撃と見事に咬み合い、甲高い金属音を周囲にまき散らしながら反発するように前後へとはじけ飛ぶ。
 「流石に一筋縄じゃ行かないみたいだな・・・。」
 黒いAAはその言葉とは裏腹に口元には楽しげな、そして殺意のこもった笑みを浮かべ続けている。前まで戦っていた雑魚はこの音速の刃になすすべもなく真っ二つにされていたのだ。
 「簡単にやられるようだったらこんな所には居ないモナ。」
 白いAAは一般人なら動けなくなりそうな殺意を平然と受け流し、自信に満ちた笑みを浮かべる。
 二人の視線が交錯し、不可視の火花を散らしながら絡み合う。
 再び、白影と黒影となった二人は数度激突し、銀光を絡ませながら、擦過音と金属音をまき散らしながら広いドームの中を走り回る。
 地面をえぐりながら停止した白影は黒影に向けて左手をかざす。その先の黒影の周りの空間が悲鳴を上げながら凍り付き、黒影を飲み込もうと手を伸ばす。それを防ぐのは数千度の炎。
 激突した冷気と熱気は大量の水蒸気を産み、周囲を高温の白煙で満たす。二人ともそれを避けるために自分の周りに超低温のフィールドを発生させる。
 それが収まったかと思うと水蒸気の幕を切り裂きながら真空の衝撃波が交錯する。
 その様子は伝説の魔術師同士の戦いのように見えたかもしれない。だが、違うのは実際そんな者はいないという事実だ。
 いつしか戦いが続く内、水蒸気はその密度を増し、最初は平坦だった地面は直角の壁が何重にも立ち上がり、天井は舞い上がる炎によって焦げ付き、壁は真空刃によって切り裂かれる。
 その人智を越えたような戦いの終わりは瞬時として訪れた。
 「これで終わらせる。」
 真空の衝撃波によって体中に紅い筋を作った黒いAAは剣を腰だめに構え、宣言する。
 「賛成モナ。」
 地面から突き出した壁により、腹に一撃を食らった白いAAも僅かに血を吐きながら自分は剣を前に突き出すように構える。
 刹那、黒影と白影が銀光をまといながら交錯する。それに沿って紅い軌跡が水平に広がる。それは一種美しさのような物まで感じさせる光景だった。
 背後で相手が倒れ伏す音が聞こえる。
 『おまえの勝ちだ、モナー。』
 マイクは感情のない声で結果を伝える。
 モナーは薙ぎ払われた剣が胸部を撫で斬ろうとするのを寸前でかわし、空中で一回転するようにしてモララーの左肩から胸部に届くまでを、一撃の銀光の元に切り裂いていたのだ。
 モナーは一瞬後ろを振り返り僅かに哀れみのような表情を浮かべたが、それはすぐに消え去り、口元には見る者をぞっとさせる侮蔑の笑みが浮かんだ。その笑みは紛れもなく、背後の死体へと向けられたものだ。
 「さようならモナ、弱者・・・。」
 そのままモナーは出口へと向かって歩いていった。

 この戦いは最初から仕組まれた物であった。軍の能力開発研究所で無理矢理実験台にされ、記憶を消され、戦うことしか出来なくなった者達を性能テストのために戦わせるという物だ。
 この戦いの犠牲になった者は数知れない。こうしてまとも以上に戦える結果が出るようになったのはごく最近のことだ。失敗作は動くことも出来ず、処分される運命だったのだ。
 モナーは生き残った。強者として、成功例として。それを上回る者が現れるまではこの世界に認められた存在であるモナーは生き残るのだ。
 その先には何があるのだろう。その思考に終着点はない。しかし、生きたモナーと死んだモララーに与えられていたのは戦う時のみの自由。

       それだけだった。

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