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NIGHTMARE CITY ~続編~ (ろっきー)

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第一章*謎の転生*


「ギコー。遅刻すんぞぉー」
いつものように窓から呼びかけてくる茶髪の少年。
「分かってる分かってる!! 今行くってー!」
窓の中から金髪の少年が応答している。

ガチャッ

家からギコが出てきた。
今日はごく普通に学校だ。この二人は一緒に登校している。
「ったく。おっせェなぁ。お前は何でこんなにいっつも寝坊すんだ?」
「昨日徹夜で勉強してて……」
「嘘だろ」
「……ハイ」
肩を落とし素直に答える金髪の少年、それがギコだ。
いつもの決まったこの言い訳に茶髪の少年、フサは呆れていた。
「またゲームでもしてたんだろ」
「全くその通りです」
ニ人のやりとりは続く。そこへ……
「あ! ギコ、フサおはよう!」
≫1とおにぎりが通りがかった。
「おっす! ≫1、おにぎり!」
ギコが元気よく挨拶をする。フサも軽く手を振った。
おにぎりが≫1にコソコソ何かを話している。
「……何してんだよ、おにぎり」
「ねぇ、早く行かないと遅刻しちゃうよぉ?」
おにぎりがニッコリ微笑んで言った。
「……なぁーんて言われたらどんなこ……」
「もう遅刻ッ!? フサ! 行こう!」
「はいはい」
ニ人は子犬のように駆けていく。
「…………あ―あ。行っちゃった」
「おにぎり君。嘘でもギコはすぐに本気にするからこれから止めよっか」
「そうだねぇ~」
遅刻なんていうのはおにぎりのまっかな嘘だった。
まだ、学校に行ってもう一回帰ってきてから
再登校しても間に合うくらいの時間がある。
「でも僕らが今こんなに暢気にしてるのに、よく遅刻なんて信じるねぇ~」
「僕らがギコみたいな頭だったら今頃どうしてるかなぁ?」
≫1とおにぎりの変な妄想が始まった。
その妄想が終わる頃……
「……今日も良い天気だよぉ。おにぎり君」
「ホントだ~。……太陽……キレイだね」
あの世界の太陽を思い出していた。


―――あの事件から三ヶ月。
NIGHTMARE CITY計画のテスターに選ばれたギコたちは、
管理AIという強力な敵と戦った。
テスター約百四十人が命を奪われたあの事件。
新聞もこの事を大きく採り上げ、世間を騒がす種となった。

あの事件が起こってから、あんなテストは禁止されることになった。


++2ch中学校++

「はぁーっ、間に合った……」
膝に手を置き、その手に体重をかけるようにしてギコがバテている。
それを見たフサが声をかけた。
「ギコ」
「あ?」
「時計見てみろ」
「時計~?? だから間に合ってるって……」
そう言いながらも校門の脇に立ってある高い時計を見上げた。
「…………まだ八時ぃぃ~~!?」
「まんまと引っ掛かったな。お前走る前に時計で確認しろよ……
ま、早とちりしやすいギコには無理なことだがな」
「ま……またやっちまった……」
ギコは疲れ果てて校門の前で座り込んだ。
それを見てフサがギコを覗き込んで言った。
「……お前あれだけあの世界で走り回ってたのに、これぐらいでバテんのか?」
「……っせェなぁ。あん時の俺はどうかしてたんだよ」
ギコは立ち上がって校門をくぐっていった。その後ろにフサがついていく。
「そんなんじゃ、体育の時間もランニングですぐバテてるんじゃないのか?」
ニヤリと薄く笑いながらフサがからかうように聞いた。
「……あッ! そうかっ!
お前一人だけ犬だったから走っても疲れねェよなぁ~」
カチンッ
フサの頬が赤くなった。
「……どうした? 言い返せねェのかぁ? フ・サ・く・ん??」
「っせぇ! ……っの単純バカ!!」
フサはそう吐き捨てると、ズカズカと教室に入っていった。
あの世界に行ったときに一人だけ犬だったのがよほど嫌だったらしく、
ギコはこのことをフサの弱みにしている。
「……単純バカとか今カンケーねぇッつの」
そんなフサの背中にぼそりと一言足した。
「あ―あ。またケンカしたー」
「ホント、飽きないねぇ~」
≫1とおにぎりが階段の陰から出てきた。
「しかもいっつも勝つのはギコだよ」
「あのフサに勝てるとかスゴイよねぇ~」
「へっへーん♪ どっからでもかかって来い」
何を得意げにしているのか、ギコが胸を張って言う。
「……あ」
「ん??」
ギコはふと思い出した。
「…………負けた」
「え?」
「俺……一回フサに言い合いで負けたことある……」


   『フサ、お前も貰っといた方が……』
     
        『いらねェッつってんだろ。俺の分はお前が持ってけ』

 『でも……っ』
            『ギコ』
          
           『……分かった』


あの時の記憶が瞬時に蘇る。
フサは自分には大剣があるからといって、
レモナから渡された拳銃を一つも受け取らなかったのだ。
「……そんな事もあったねぇ」
おにぎりも思い出すように言った。
そしてフサは慣れない大剣で管理AI・モナーと戦った。
無残にも猛スピードで走る電車から無造作に落下し、左腕を骨折した。
今も左腕に包帯をまとっている。
「ちょうど……三ヶ月だなぁ」
「早いね……」
「……うん」
そんな会話をしながら、ギコたちもそれぞれの教室に入っていった。
ギコ、フサ、兄者が二年三組。≫1、おにぎりは六組だ。
レモナ、ぼるじょあ、ニダ、弟者、妹者は年齢が違うので当然同じ学年ではない。学校の違う者もいる。
弟者は同じ学校の一年。妹者は小学六年生。
レモナ、ニダ、ぼるじょあは高校一年生だ。

キーン コーン カーン コーン……

「ギコ、フサ! 聞いたか? 今日転校生来るんだぜ!」
兄者の話題にギコはすぐさまくいついた。
「本当かッ!?」
「ああ。情報によると……女らしいぞ」
途端にギコと兄者の目が光る。
この二人はよほどの女好きである。
その二人の性格を一番よく知っているのはフサだ。
「……お前ら。初っ端から転校生が引いちまうような事すんなよ」
そんなフサの忠告など二人の耳には届いてないようである。
バカげた話をしているうち、先生が来た。
「えー……今日は転校生を紹介する。おーい、入れー」

カララ……

教室のドアがゆっくりと開く。


「……え……」


そこにはとても見覚えのある少女―――……。


ガタッ!

ギコが椅子から飛び上がった。
その反動で椅子が大きな音をたてて倒れた。


「し……ぃ……?」


「どうした? ギコ」
担任が不思議そうに言う。
そのギコを見て、少女も不思議そうな表情をしている。
「え……と……しぃです。よろしく……」
戸惑いながらも自己紹介をした。

―――しぃだ……でもどうしてこっちの世界に……?

「しぃ……!?」

「…………初めまして……だよね……?」

しぃの言葉に驚いた。
このピンク色の長い髪だって、表情だって、声だって……しぃと全く同じだ。


―――でも、しぃじゃない……?


ギコはそのまま立ち尽くした。


++昼休み・屋上++

「ギコ。あの女の子はしぃじゃない」
兄者が直球で投げかけた。
「…………」
ギコは黙って弁当に入っているおにぎりを口に運んでいる。
「……だって……しぃなんだぜ……?」
ギコは重い口をゆっくり開き発した。
「でも、別人だ。あの世界にいた管理AIが
この現実世界に来るなんてことはありえない」
フサが言う現実にギコは言い返せなかった。
しかし、しぃの人間の姿を見たことがあるのはギコだけだ。
フサたちにはしぃじゃないなんて分からない。

バンッ!

「ギコ! フサ! 兄者!」
≫1とおにぎりが慌てた様子で屋上のドアを開けた。
ずっと走って来たのか、二人とも制服が汗でぐっしょりぬれている。
「どうしたんだ? 二人とも」
「僕たちのクラスに転校生が来たんだ!
青い髪のモララーと声そっくりの子!!」
「えッ!?」
三人は驚きのあまり立ち上がった。
ぞの瞬間、ギコの弁当が鋭い音をたてて転げた。
「モララー!?」
「そんな……モララーまで……?」
兄者が頭を抱えて考えている。

ピリリリリ……

買った当時の初期設定のような兄者の携帯の着信音が屋上に鳴り響いた。
「……はい」
《一番兄者! 大変なのじゃ!》
電話は妹者からだった。
「悪いが……今忙しくて……」
《私のクラスに転校生が来たのじゃ! つーっていう赤い髪の……》
―――兄者は固まった。
《あの世界で戦った赤い猫と声とか同じで……》
「そいつとはあまり関わるな」
《……一番兄者?》
「分かったなッ!?」
そう怒鳴り、電話を切った。
ギコたちはいきなりの兄者の怒鳴り声に驚いた。
兄者の携帯を持っている手がゆっくり耳から離れた。
「……電話、誰からだったんだ?」
フサが静かに問いかけた。


「……あの悪夢がまた始まるかもしれない」


兄者の言葉が全員を静まり返した。
「電話は妹者からだ……妹者の学校につーが転校生として入ったらしい」
「つー……って……」
「あの赤い猫だろ。あいつ一人だけ“アヒャアヒャ”うるさかったからな」
フサも覚えていた。
「……実は……モナーと八頭身……
あいつ等も既に転生したという情報が入ってるんだ」
「なんだと!?」
フサの表情が一変した。
「ははは八頭身ッッ!?」
≫1とおにぎりが顔を真っ青にした。と、同時に身体が恐怖を思い出したのか、急に震えてきた。
「あいつだけは……ぜってェ忘れねぇ……!!」
そんな≫1たちとは正反対で、フサは拳を握った。

「……管理AIの……転生……?」

ギコが独り言のように言った。その言葉に兄者が頷く。
「多分な……とにかく、レモナたちに報告しよう!」
「弟者はどうするの?」
おにぎりが兄者に聞いた。
「……今一年は学年集会でとても抜け出せないだろう。
また家帰ってからでも言っておくさ」
五人は学校から抜け出してレモナたちの高校に向かった。
「ギコ」
「フサ……」
フサがギコの背中を軽く叩いた。
「……元気だせよ。しぃのことは普通の女だと思えばいいんだ」
「そんなの……無理だ……」
「何でだ」
ギコの俯く顔を覗き込んでフサが問う。
「俺があの世界からログアウトできたのはしぃのおかげなんだ……。
それに、モララーの攻撃を俺に代わって受けて死んじまったんだぜ……?
なのに……普通に接するなんてできねェよ」
ギコの瞳にかすかに涙が溢れる。

「俺は……謝らねェといけねェんだ。あいつに……」

そう。彼女は自分の命を敵に向け、俺を助けた。
何も無かったように振舞うなんてできない……。

「……分かった。
でも、今から悲しい顔すんのはNGだ。分かったな?」
「……なんで?」
「……お前が悲しい顔してたら俺はしぃを殺すからな
言っておくがあいつも管理AIだ。容赦しねェ」

―――記憶が蘇ったらみんなしぃを殺すだろう。
             そうなるのは目に見えている。
―――それでも、俺は……
      しぃの記憶を取り戻す。
―――もし、みんながしぃを殺そうとするなら


―――俺は必ず、あいつを護りぬく。

「分かったよ。もうあんなショボい顔はしねぇ。明るくいってやろーじゃん」
ギコがニッコリ笑ってフサに言った。
「……ああ。嘘だったらまずお前を殺す」
フサのこの言葉にギコは苦笑いで答えた。
これも不器用なフサの、優しさの表現の一つだとギコは知っていた。


―――もう、真実は嘘をつかない。


++2ch高校++

ギコたちの通っている2ch中学校の二倍の大きさはある高校。
それが2ch高等学校だ。
そんな高校にレモナたちは毎日を過ごしている。

ウィーン……

「ぅわッ! 自動ドアかよ……」
ギコは目をまん丸にして左右に開いていくドアを見た。
「僕たちの学校も自動がいいなぁ~」
「そうだねぇ」
「自動なんかになったら、朝の面倒が一個減るね」
「本当だー。でもねぇ、自動になったからって……」
≫1とおにぎりのいつもの妄想が始まった。
そのまま二人の妄想は続き、
終わる頃にはまたあの世界のことに話題が切り替わっていた。
「あの世界なんでも自動だったよねぇ~」
「そうそう。チラッて見たけど電車とか……」
「電車の話はすんな」
フサが二人の妄想に割って入った。
「ってか、妄想自体やめろ」
「……ごめん。フサ」
「…………」
フサはあの時のモナーとの戦いで、
無残な負け方を思い出しているように見えた。
「……なぁ。兄者」
ギコが兄者の背中を人差し指で突いて話しかけた。
「なんだ?」
「俺たちって今、学校行ってることになってるだろ?
ここの先生とかに見つかったらヤバイんじゃ……」
「……まぁ、バレなかったら大丈夫だ」
「そー簡単に行けるかぁ……? 教室だぜ?? 担任いるんじゃねェの?」
不安を抱えつつ、そのままギコたちはレモナたちの元へ向かう。


++レモナたちの教室++

今は休憩時間だった。生徒たちの賑やかな会話が途切れなく聞こえてくる。
「……ニダ、ぼるじょあ」
「何? レモナ」
「今……窓の外に人影があった」
レモナは窓の方を見据えて言った。
「……管理AI……!?」
「……分からない。ちょっと待って」
そう言うとレモナは窓をゆっくり覗き込んだ。
「ギコ!? 何でここに……」
「レ、レモナ!」
「えっ? ギコ!?」
そのレモナの声を聞きつけてニダとぼるじょあが駆け寄ってきた。
「本当だ! 何でこんなとこに一人でいるんだ?」
ぼるじょあがギコに尋ねた。
「え……あー……一人じゃなくて……」
そう言いながらギコは自分の真下を指差した。
「フ……フサ!? 兄者、おにぎり、≫1も!!」
「あ……はは」
この教室は二階で、近くに木もないので上っていくことも出来ず、
肩車をして二階まで視界を広げたのだ。
ちなみに一番上がギコで、一番下が兄者である。
「……ギ……ギコ……そろそろ限界……」
「ギコー。兄者が死にかけてるよぉ~」
≫1が笑いながら言った。
≫1とおにぎりは近くで隠れて見守っているだけだった。
どうやらこの二人は力仕事にはむいていないらしい。
「あー! ごめん兄者!! もう降りるー!!」
「なんせ……男が二人乗ってんだからな。そりゃ兄者死ぬぞ」
フサも笑いながら言った。
そんな状況の中ギコはレモナに用件を伝えようとした。
「だから、できれば学校の外まで下りて来てほし……」

ガクンッ

「ぉわッ!?」
「ィいっ!?」

ドサドサドサッ!

「だ……ッ、大丈夫? みんな……」
≫1とおにぎりが駆け寄ってきた。
「ぁ……たた……」
「……すまん……ギコ、フサ。限界だった……」
三人は兄者を一番下に、重なるようにして倒れていた。
兄者はいつもパソコンばかりしているので、そんな長く持ちこたえることはできなかったのだ。
「おーい、ギコー! フサ、兄者ー!! 大丈夫かー!?」
二階からレモナたちが呼びかけている。
「今下りるから待ってるニダ――!」
そう言ってレモナたちは窓から引き下がっていった。

ピリリリッ

また兄者の携帯が鳴った。
「はい」
《……俺だ。弟者だ》
電話は弟者からだった。なんとなく暗い雰囲気がする……。
「……どうだ? モナーの様子は」
その言葉を聞いたフサは反射的に兄者の方をむいた。
《いや……ごく普通の男子生徒だ。まだ何も……》

バッ!

「ちょ……フサ……っ!」
「モナーがいるのか!?」
フサは兄者から携帯を取り上げ、弟者に問いかけた。
《え……その声……フサか?》
「フサだよッ! モナーは? いるのか!?」
フサは狂ったように弟者に問いつめている。
《……フサ。どうした?》
「質問しろなんて言ってねェ! モナーは……」
「フサ!!」
ギコがフサの肩をつかんだ。フサの瞳は少し濡れていた。
「…………悪ィ」
「フサ……」
フサは兄者に携帯をそっと返した。
「……弟者。今から2ch高校に来れるか?」
《2ch高校? また何でそんな所に……》
「ギコたちと一緒に、レモナたちに会いにきてるんだ。
少し話したいことがあってな……弟者も来い」
その言葉を言い終わる時、レモナたちがやってきた。
「と、いうわけで来いよ、弟者。妹者も連れてこい。校門の近くにいるからな」

ピッ ツーッ ツーッ……

「……すまねェ、兄者」
「別に気にしてないさ」
兄者は微笑んでフサに言った。
フサの気持ちを読み取っていたのだろう。
「レモナたち。ちょっと聞いてほしいことがあるんだが……」
「分かっている。あたしたちの前にも……もうそれは来ているからな」
「え?」
全員がどよめいた。しかし、兄者は全然驚いていなかった。
既に兄者はレモナからこのことを聞いていた。
そう、レモナたちの高校にも転校生が来ていたのだ。
名前は八頭身。しかも三つ子だという。
八頭身の情報とはレモナたちから入手したものだったらしい。


―――管理AIが全員この世界に揃ってしまった。


「こんなことって……」
≫1が珍しく深刻な表情で考え込む。
「何で管理AIがこっちの世界に全員来てるんだ……?」
ギコはしぃの事を思い出しながら疑問を口にした。
管理AIは『NIGHTMARE CITY』……つまり仮想空間でしか存在しないはずだ。
その存在がどうしてこっちに来るんだ……?
「まだ詳しいことは分かっていない。
転生してきた理由や、何も仕掛けてこない理由……まだ謎が多すぎる」
そう言いながら兄者はパソコンを開いた。
カチャカチャとキーボードを打つ音が途切れず聞こえる。
「見てくれ」
「……これは??」
ギコたちに見せられたのは兄者の研究データのようなもの。
そのデータリストには、何かの名前や武器の詳細などの貴重なデータが保管されていた。
「管理AIたちのデータだ。
2chビルの実験室に置いてあったんでな。こっそり写しておいたんだ」
「管理AIのッ!?」
全員が声をそろえて言った。
「……No.00……しぃ……」
ギコは小さく呟いた。
「みんな。管理AIをこれから監視してくれ」
レモナが空を見上げながら言った。
「何で?」
ギコが何も分かっていない様に聞く。
「管理AIたちは三ヶ月前の記憶がほとんど無い。
記憶を取り戻さないように見張っててほしいんだ」
「……もし記憶を取り戻してしまったら……?」
≫1は付け足すように聞いた。

「……この世界に悪夢が再度、舞い降りる事になる」

「……分かった」
全員揃って返事をした。
「んじゃ、俺とフサと兄者はしぃ」
フサと兄者を自分の隣に引き寄せてギコが言う。
「それじゃあ僕とおにぎり君はモララーだね」
≫1とおにぎりはモララー担当になった。
「あたしたちは八頭身たちを」
「……つーは妹者で、モナーは弟者でいいか?」
「いいだろ」
「ちょっと弟者と妹者は心配だが……」
フサが独り言のように呟いた。
「大丈夫だ。あいつらは流石家では一番しっかりしているからな」
兄者は微笑んだ。と、同時に弟者と妹者が到着した。
「すまん、みんな。遅くなった」
「すまんのじゃ。学校抜け出す途中で先生に捕まったのじゃ」
妹者は困った顔でしぶしぶ言う。
「急にすまんな。だが、これで全員集合だ」
兄者は弟者と妹者に今話していたことを全部話した。
二人とも管理AIの件をしっかと受け止めてくれた。
「少しでも変化があったら連絡をくれ」
「ああ!」


現実世界のテスターの集結と、仮想空間の管理AIの集結。


…………空は青く、雲一つ無い晴天である。
太陽も陰り一つない。


―――彼等を包む空はあの悲劇の直前のように青く澄んでいた……。



**********************************************************************

第二章*蘇る記憶*


++recollectⅠモナー++

正直、俺は管理AIという存在に関わるのは反対だった。
もしかしたらまた死者がでるかもしれない……という恐怖も溢れている。
次は誰が犠牲者になるのか分からない。
「はぁ……」
弟者は深くため息をついた。
その様子を見て駆け寄ってきた一人の銀髪の少年。
「……元気ないモナね。大丈夫モナ?」
モナーだ。至って普通の男子生徒だが……いつ何をしてくるか……。
弟者の心は警戒心でいっぱいだった。
「いや、何でもないんだが……」
「そうモナ? なら、よかったモナ」
モナーはニッコリ笑った。

「……モナー……でいいか?」

弟者が口走った言葉にモナーは瞳を輝かせた。
「うん! いいモナよ! じゃあ……」
「弟者だ」
「弟者、よろしくモナ!」
二人はいきなり仲良くなってしまった。
弟者はモナーのことを監視しやすくする為に
友達になれと兄者に言われていた。
だが、弟者はこのやり方にあまり気が進まなかった。
「なぁ、モナー。今日ゲーセン寄って行かないか?」
「えッ? いいよ! 行くモナ!!」
弟者の心の中には警戒心と、恐怖心と
モナーと本当の友達として接したいという気持ちがごちゃ混ぜになっていた。
「じゃあ、今日帰ったら駅前集合な」
「わかったモナ!」
モナーは弟者の誘いがよっぽど嬉しかったのか
飛び跳ねながら教室を出て行った。
その後に続いて弟者も教室を後にした。


++ゲーセン++

弟者とモナーは予定通りゲーセンに遊びに行った。
「ぅわ~っ、久しぶりモナ~」
「来たことあるのか?」
「うん。いつか分からないけどずっと前に」
「へぇ~」
雑談も途切れることなく、そのまま二人は奥へと進んで行く。
「なぁ、アレしようぜ!」
「あ! これ得意モナ!」
「じゃあ、負けた方がジュースおごりな。俺もこれ得意だから負けねェぞ」
「負けないモナよ」
二人は格ゲーや、シューティングなどをして思いっきり楽しんだ。
弟者は、これがモナーとの最後の思い出だと思っていたのだ。
この後、なんだかモナーが離れてしまう気がしてならなかった。
「あっ! 弟者! プリクラがあるモナ!」
考え込む弟者に、モナーはプリクラ機を指差して弟者の服を引っ張った。
「あ、ああ……ってまさか……」
「え? 撮らないモナ??」
驚きのあまり弟者は唖然とした。
「……分かった。撮る」
「やったモナー!」
モナーは弟者の背中を押してプリクラ機の中に入っていった。
「……お前、こんなのが趣味だったのか?」
弟者はおそるおそるモナーに尋ねた。
「え? ううん。初めてモナ。一回撮ってみたかったモナっ♪」
ルンルン気分のモナーに弟者は仕方なく付き合った。
『二人で並んでピース!』
甲高い機械の声が響く。

カシャッ

弟者はモナーの後ろで普通に突っ立っていた。
モナーは前で満面の笑みを浮かべている。
しばらくして、撮られた一枚目の写真が画面に出てきた。

「え……?」
「何……これ……」
二人は画面を見つめたまま立ち尽くした。

画面に映った写真には、少し後ろで突っ立っている弟者だけだった。

―――モナーが映っていない…………?

弟者はハッを息をのんだ。
モナーは管理AIであり、この世界の人間ではない。
仮想空間の存在が現実世界に実在することはできないのだ。
その存在が機械の瞳に映ることは決してない。

「何で……僕が映ってないモナ……?」


人の瞳はごまかせても、機械の瞳はごまかせなかった。


ドクン……

「モナー……これは多分機械の故障だ。店員に言って直してもらおう」
弟者は冷静に振舞った。
モナーの記憶を起こさないようにしながら。
「映らない……どうしてモナ……?」
モナーはうわ言のように呟いている。
「映らない……存在しない……」
弟者は視界の横からわずかな反射光が入ってきたのを感じた。
鏡だ。等身大の鏡が両脇に設置されている。

―――その鏡に、やはりモナーは映っていなかった。

「僕はこの世界に存在しないモナ……? なら……僕は何処に……」
カバンから携帯を取り出し、兄者に電話をかけようとした弟者。

その時……

「……仮想空間の存在……NIGHTMARECITYの……」

「……! モナー……!!」
モナーの瞳はあの時の闇の色に変わっていた。


「僕は……管理AI……No.23、モナー」


ドォォォンッ!

モナーはゲーセンのほとんどを破壊して街に出て行った。

「モナぁぁ――ッ!!」

弟者はモナーをただ見ているしかなかった。
目覚めてしまったモナーはそのまま消えた。


―――悪夢への扉を開く鍵が一つ。



++recollectⅡ八頭身++

「ちょっといいですか?」
「え?」
レモナたちに話しかけてきたのは八頭身たちだった。
「……あんたらずっと一緒なのか?」
「うん。僕たちずっと一緒だよね」
「ねぇ~」
随分気持ち悪い三つ子だが、
特に何か仕掛けようとしているようには見えない。
「何? なんか話?」
「あ、えっと。僕たちコンピュータ部に入りたいんですが……」
「そうなの? 分かった。案内したげる。
職員室の前行っといて」
「分かったぁ~」
八頭身たちは荷物を持って職員室に向かって去っていった。
「……いいのか? レモナ」
「大丈夫だ。今の間はまだ……」
「本当か? いつ攻撃してくるか分からないニダ」
ぼるじょあとニダはレモナの答えに少し反対気味だった。
「大丈夫大丈夫。よっぽどの事が無い限り
あいつらは目覚めないからな」
「そうだけど……」
「ほらっ! 早く職員室行くぞ! あいつらが待ってる」
レモナはぼるじょあとニダの肩を叩いて手を引っ張っていった。


++職員室前++

「ごめんなー! 遅くなっちゃって」
「いいよいいよ。僕らも急にだったから」
八頭身は少し肩を落として謝った。
「ま、そんなこと気にしてないで、早く行こう」
八頭身に優しく接するレモナに二人は不安を抱えていた。
職員室の隣にある道の奥……そこに密かに佇んでいる鏡があった。
「……!!」
ニダはその鏡を見て絶句した。
―――八頭身の姿が映っていない。
だが、ニダが見ている光景には八頭身は映っている。
しかし、影は三人とも無い。
「……ぼるじょあ……ちょっと」
ニダはレモナにバレないようにぼるじょあを呼び寄せた。
「どうしたんだ?」
「……今銃持ってるニダ?」
「銃……? そんなの持ってないよ」
ぼるじょあは確認のため、内ポケットを探りながら答えた。
「……コンピューター室の俺たちのパソコンには……
NIGHTMARE CITYのデータがあるニダ」
「……ヤバイな」
「そういうことニダ」
二人は八頭身と共に前を行っているレモナの背中を見ていた。


++コンピューター室++

「ここだよ」
「わぁ~お! すごいねぇ!!」
八頭身たちはスキップしながら部屋に入っていった。
「ここだったのかぁ~。覚えておかないとねぇ♪」
「ってことだから、今日はもう帰りな。
また明日色んなこと教えてあげっけらさ」
レモナはそう言って自分のパソコンに手をかけた。
「わかったぁ~。ありがとうねぇ」
「うん」

ガララ…… ピシャンッ

八頭身たちは部屋だけ見て、素直に帰っていった。
「……じゃ、あたしらはいつも通り始めるよ」
「ああ」
レモナはパソコンの前に座った。
「今日は大丈夫ニダ」
「うん。八頭身は帰ったからな」
ニダとぼるじょあは風に紛れるような小声で話した。
そして、二人も自分のパソコンの前に座った。
全員がパソコンの電源を入れる。
「早く理由を突き止めないと……管理AIたちを止められない……!」
「NIGHTMARE CITYもいつ復活するか……」
「あたしたちの未来が
有るか無いかの大きな事だからな……
管理AIが全員攻撃に出るまであたしたちが食い止めないと!」
「とにかく今分かっているのは、管理AIたちは何も覚えていない事。
その記憶を呼び覚まさないように、気をつけないといけないニダ」
三人はそんな会話をしながらパソコンにむかっている。

カララ……

「!!」
部屋のドアがゆっくり開いた。
そこに立っていたのは八頭身たちだった。

「……NIGHTMARE CITY?」

「管理……AI?」

「攻撃……?」

八頭身たちはこんな言葉を繰り返し呟いている。
「八頭身……!! 帰ったんじゃ……ッ」
「……荷物を忘れて取りにきた」
八頭身の異変に、一番に気がついたのはレモナだった。
「……! 瞳の色が……違う……!?」
八頭身たちの瞳が闇の色に染まっていることを。
「管理AI……」
「僕たちの……」
「名前は……」

「……終わりだ……っ」

ニダは歯を食いしばって拳を握った。


「NIGHTMARE CITY管理AI
No.10~13……八頭身」


「八頭身……!!」
「……思い出したニダ……ッ」
「くそ……!」

三人は管理AIであることを思い出した八頭身たちを
ただ見つめていた。
武器を持っていない三人には何もできなかった。

あの時の恐怖が蘇る。


―――悪夢への扉を開く鍵が二つ。



++recollectⅢつー++

「妹者ちゃーん。一緒に帰ろー」
「あ、待って。すぐ行くのじゃ」
小さな学校のチャイムとともに、大勢の生徒たちが下校をしていく。
妹者は友達と一緒に学校を出て行った。
二人はいつものように学校から狭い一本道に入っていった。
「ねぇ、今日転校してきた……」
「あ。つー君?」
「そうそう! あの子髪の毛赤かったね! かっこよかったぁ」
友達はニコニコしながら話を続けている。
「……でも、本当は怖いのじゃ」
妹者は、つい小声であの世界であったことを口にしてしまった。
「え? 何で??」
ハッとして妹者は両手を大げさに左右に振った。
「えっ……だッ、だって何かおとなしい子だったし、怒ったら怖そうだなって……」
「ふぅ~ん」
なんとかごまかし、ホッと息を吐いた。
「あ、お別れだね~」
「ホントだ。また明日ね」
「うん! バイバイ!」
二人は二本に分かれた道をそれぞれ歩んでいった。
妹者はいつも通る小さな公園の前を通る。
「あれ……?」
妹者の視線の先には、
すべり台の真下で座り込んでいる赤い髪の男の子がいた。
「……つー……くん……だよね?」
妹者はつーのすぐ横まで駆け寄って声をかけた。
つーは妹者の顔を見上げた。
その瞳は涙で濡れている。
「えっ……どっ、どうしたのじゃッ!? 私何かイケナイことしちゃった!?」
妹者は一人で騒いでいる。その様子を見てつーは言った。
「……別に、キミ何もしてないよ? 僕が勝手に泣いちゃってるだけだし」
「そ……そう? ならいいのじゃ……」
「……キミ、確か同じクラスだった……」
「妹者じゃ。よろしくなのじゃ」
「うん」
妹者はつーに微笑みを見せた。その笑みにつーも優しく返した。
そのまま妹者はつーの隣にしゃがみこんだ。
「……何の絵? これ……」
細かい砂の上から、指で何かをかいた跡がある。
人……いや、猫だ。
猫が四匹と、人間の姿に近い女の子が一人。
その五人が銃や剣を持って争っている様子がすぐに分かった。
「……何なのじゃ? これ……」
妹者は心当たりがあるが、あえて聞いてみた。
つーはまた俯いた。
彼の瞳からは大粒の涙が一粒滴り落ちた。
「……僕の記憶。この光景が残ってるんだ」
「……どういう意味じゃ?」
「僕……記憶が無いんだ」
「……え?」
妹者は弾かれたように、つーの方を向いた。
「三匹の猫と、一人の女の子と僕……。
みんなが戦っている光景しか思い出せないんだ」
「そ……うなんだ」
妹者も俯いた。
そう。この絵はあの世界で起きたあの時の悪夢の光景そのものだった。

この世界の『つー』は普通の心優しい男の子。
あの世界の『つー』は自分の命を奪おうとした管理AI。
どっちも同一人物。どっちにでもなる事ができる。

妹者は急に目の前にいるつーが怖くなってきた。
またいつ襲ってくるか分からない。
いつ記憶が蘇るかも分からない。
妹者は恐怖心でいっぱいになった。

「あ……すまぬが今日は帰るのじゃ! 母者に怒られるから……ッ」
「そうなんだ……じゃあね」
「うん……」
妹者はつーから逃げるようにして公園を去って行った。


++家++

家には母者も居ず、静かな空間が待っているだけだった。
兄者と弟者はまだ帰っていない。
それもそのはず。今はまだ夕方の五時だ。
中学生が帰るにはまだ早い時間帯である。
「……誰も居ないのじゃ……」
妹者は部屋を見回して呟いた。
カバンを投げるようにテーブルの上に置く。
母者は買い物に行っているのか、
いつも持っているカバンとサイフが無かった。
妹者はそのまま自分の部屋へ足を踏み入れようと二階へ続く階段を上ろうとした。

ふと、妹者は足を止めた。

―――つーはどうしているだろう……?

あのまま逃げるように、つーから離れた妹者。
つーは今……何をしているのだろう。
まだ公園であの絵を見つめているのだろうか。
もし一人であの時の記憶を思い出し、
誰も止める者がいず、
管理AIだと覚醒したら取り返しのつかないことになる……。
妹者の中に疑問と不安がこみ上げる。


++公園++

いつしか妹者の足は公園の地面を踏みしめていた。
妹者は公園を見回す。すべり台の真下には……
さっきと同じくしゃがんだまま、地面を見つめているつーが居た。
妹者は無意識にホッと安心したような息を吐き、肩の力を抜いた。
「……つー君? まだ居たのじゃ?」
「…………」
何故かつーからは応答が無い。
妹者は初めて会った時のように、つーの隣にしゃがみこんだ。
「つー……君?」
妹者はまた泣いているのかと思い、つーの瞳を覗き込んだ。
「……!?」
妹者は、はっと息をのんだ。
「つー……く……ん!?」
妹者の瞳に映った彼は、さっきまでの彼ではなかった。
瞳はあの世界に居た時とまるで同じ……

……暗黒……闇の色に染まっている。

あの純粋な表情の彼はどこにも居ない。
今、目の前にいるこのつーは……

妹者が恐れている
“自分の命を奪おうとした……あの世界の『つー』”

血のように赤い髪。悪魔の眼差し。
今のつーは妹者の恐怖心を一気に膨らました。
「ぁ……あ……」
足がすくんで動けない。そんな妹者につーは口を開いた。
「……ねぇ。僕の記憶に深く残ってる光景のこの女の子……」
つーが指差している絵の女の子は妹者のあの世界での姿だった。
「この女の子の声が……キミにすっごく似てるんだ。
それに、この子が他の猫に呼ばれてた名前は……」
妹者はごくりと喉を鳴らした。
「“妹者”……。キミと全く同じ名前・声の女の子」
妹者はつーの顔を、まともに見ることができなかった。
「……そして僕はこの子に銃で頭を撃ちぬかれた」
「……つー……!!」
「僕は蘇ったんだ……! この世界に!! キミたちに復讐をする為に!!」
つーは飛ぶように空へジャンプした。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
彼は街へ消えていく。


―――悪夢への扉を開く鍵が三つ。



++recollectⅣモララー++

「モララー……」
おにぎりと≫1は机にひじをついて考え込んでいた。
「何でこの世界に管理AIが全員来ちゃったのかなぁ?」
「分からない……どこかのプログラムが壊れたのかな……」
おにぎりはため息をつきながら言った。
「こんな事考えてもしょうがないよ。帰ろう」
「……うん」
≫1は椅子を静かに戻し、おにぎりと共に教室をでていく。

静かな廊下を歩いている二人。
「……!?」
≫1がバッと後ろを振り返った。
「どうしたのぉ? ≫1さぁん」
「え……今誰かいたような……」
視線を感じたが、背後には誰もいない。
「気のせいじゃないのぉ?」
「……そうかなぁ……」
そのまま≫1は前を向いた。そして再び歩き出す。

それと共に、後ろの人陰も歩き出す……。


++商店街++

「ぁーあ。今頃みんなどうしてるかなぁ……」
「≫1さん……気にしすぎだよぉ?」
おにぎりがアイスを片手に持ったまま言う。
「……ホント。自分でも何でか分かんないよ……」
「…………」
おにぎりはアイスを見つめている。
≫1は俯きながら歩いている。
「ねぇッ! ≫1さんっ」
「……?」
「このアイスおいしいから食べないっ?」
アイスを差し出しておにぎりが言う。
「え……? なんでまた急に……
いつもは絶対くれないし……」
「いらないのぉ?」
「……おにぎり君がそう言うんならもらうっ」
この行動は不器用なおにぎりのささやかな励ましだった。
「ありがとう。おにぎり君……」
そう言いながら、≫1はいきなり泣き出してしまった。
「ぇッ? どっ、どうしたの!? ≫1さんっ」
≫1は何も言わずにおにぎりがくれたアイスを食べていた。

そのまま二人は街の巨大ビジョンの前を通っていった。
「あ……≫1さん! あれ……」
おにぎりが指差した先には、
あの時の事件が報道されているニュースが放送されていた。
「NIGHTMARE CITY……」
「今日で三ヶ月だったよね……」
「……うん」


「こんな所で思い出話か。随分と暢気だな」


「ッ!?」
「モ……ッ」
聞いたことのある声。感じたことのある殺気。
「モララー……!!」
二人はモララーを見て立ち尽くした。
足がガクガクと震えている。
「……記憶……もう思い出してる……!?」
「ふん。この俺がそうタラタラとしてられるワケがないだろう」
≫1は呆然とした。
モララーの記憶はもう既に蘇っている。
自分たちが出る幕はなかったのだ。
「どうして……記憶を……!」
「俺は何も忘れてなどいない。元からあの世界での記憶は全て残っている」
「そんな……!!」
「モナーたちは記憶を失っているらしいがな……。あいつらの“気”で分かる」
≫1は兄者が話していたのと、全く違う状況に絶句した。
モララーの記憶はこっちの世界に来ても消えていなかったのだ。
「≫1さん……これって……」
おにぎりが≫1を見上げて言う。≫1を見ておにぎりは事の重大さを悟った。

―――これはあの時の悪夢だ。
悪夢の再来だ……全てが蘇る日だ。

真実は偽りを語らない。偽りも真実を語らない。

……この目の前にいるモララーは真実だ。

「……奴は何処にいる?」
「奴……?」
「ギコとかいう小生意気な小僧だ。アイツは何処にいる?」
「ギコ……? ギコなら――……」
学校にいる……素直なおにぎりは正直に言いそうになったが、
教えてはいけないと思い口を両手で押さえた。
「……そんなの誰が教えると思ってるんだよ」
≫1は強気でモララーに言った。
顔には恐怖心からか、冷や汗が一筋頬を伝っている。
「そうか。教えてくれないのなら……」
モララーの右手に赤い光の粒が次々に集まってくる。
「な……ッ!?」
「どうして……あの力をこの世界で……!」
モララーはニヤリと笑いながら剣を手にした。
そう……あの時の悪夢の武器だ。
あの街を血のように染めた赤く光る剣。

「勝手に探させてもらうぞ……!」

ドォォォンッッ!!

「ぅわあっ!」
モララーはこの街をも破壊しようとしている。

自分の復讐を果たす為に、全ての者に絶望を与える為に。

ビルを一つ跡形も無く消滅させて、モララーは姿を消してしまった。
「たっ……、大変だ……!!」
≫1はあわてて携帯を取り出した。さっきまで片手に握られていたアイスは、
既に地面に落ちている。そのアイスを食べるように地面が吸収していく。
≫1は震える手で弟者のメモリを選択した。
兄者の番号を聞き逃した≫1は、一番身近な弟者に連絡しようとしたのだ。
プルルルル…… プルル……
《……≫1か?》
「弟者! 大変なんだ! モララーが……」
《こっちもヤバイ……》
「え……?」
弟者の声は震えている。電話むこうからは弟者とは違う別の声が幾つも聞こえてくる。
《……モナーが記憶を取り戻した》
「モナー……まで……」
《ゲーセンから姿を消したまま見つからない。
たった今思い出したばっかりだったんだが……ゲーセンを半壊させて行ってしまったんだ》
その言葉で、他にも聞こえてくる声は混乱している人々の声だと悟った。
《……兄者に電話してこのことを伝えておく。
≫1とおにぎりは2ch中学校に戻ってきてくれ。全員呼び出すように頼むから》
「……分かったよ」

ピッ…………

「……≫1さん、ギコ大丈夫かなぁ……
もし学校にいたら絶対モララーに見つかるよ……」
「……おにぎり君。学校に戻るよ」
「え? 何で……?」
おにぎりは問う。何故わざわざ危険な場所に行くのか。
その問いに≫1は暗い表情で答えた。

「……悪夢の前の最期の集合かもしれない……」

そう言った≫1の表情は、薄暗く不安に満ち溢れていた。


―――悪夢への扉を開く鍵が四つ。



++recollectⅦしぃ++

“……初めまして……だよね……?”

あの少女は“しぃ”じゃないのか……?
俺の知っている一人の少女。
いつの間にかかけがえのない存在になっていた少女。

―――そして、護りとおせなかった存在。


++二年三組の教室++

「しぃじゃ……ないのか…………?」
ギコは一人、机にうつ伏せになり独り言を言っている。
(でも……あの声、髪、瞳の色……全部しぃと同じなのに……?)

信じることができなかった。

どっちの真実も受け入れがたいものだった。

“しぃ”が仮想空間での存在であるのに現実世界に存在している事。
“しぃ”であるのに自分の知っている彼女ではない事――……。

ギコは放課後、空っぽの教室で考えていた。
フサには明るく振舞ったものの、やはり深刻に考えてしまうものである。
「何で……あれがしぃじゃねェんだよ……」
急に頬に冷たい感覚が走った。ギコは驚いて顔を素早く上げた。
目の前には、冷えたジュースを一つずつ両手に持ったフサが立っていた。
「お前らしくないな。考え込むなんて」
「フサ!? 何でお前……」
「お前一向に帰ろうとしねェから帰ってきたんだよ」
「…………」
「まだしぃの事考えてんのか?」
フサはオレンジジュースを机に置き、コーラのフタを開ける。
「飲め。俺、オレンジ嫌いだから」
「……サンキュ」
ギコは机に置かれたオレンジジュースを手にとった。
「…………何回も言うが、あの女はしぃじゃねェ。
ちゃんと受け止めろ。ここは現実世界だ。あの世界のような偽りはねェ」

ここは現実世界……仮想空間ではない。


―――もし、ここが仮想空間だったら……?


「ここは……現実世界だよな……?」

フサは思ってもいなかったギコの言葉に驚きを隠せなかった。
「お前……何言ってんだ……?」
「え……。な、何でもない……」
ギコの言葉はフサの心に深く刻まれた。
自分自身でも何でこんなことを言ったのか分からなかった。


―――この世界が仮想空間だったら……
―――俺たちも全部造られた存在……。

……俺は何を考えてんだ?
今はしぃの記憶を蘇らせないように見とかないといけない。
でも、この気持ちは見かけだけ。本当はしぃの記憶を蘇らせたい。
そして……謝りたいんだ。あの時のこと。

「なんか……今日のお前おかしいぞ。
元気ねェっていうか……静かというか……考えすぎだ」
「…………」
ギコは黙ってジュースを飲んでいる。
「しぃの事は忘れろ。このまま記憶を無くしたままの方がいいからな」

……そうだ、このまま新しい形で接すればいいんだ。
現実世界の人間として。
もう管理AIと現実世界の存在という境界線は無いんだ。
あの子は普通の女の子なんだ。
記憶が戻らない限り……

―――しぃじゃないんだ…………。

「……なぁ、フサ」
「あん?」
ギコがジュースを机の上に置いて話しかけた。

「しぃの記憶は戻しちゃいけないのか……?」

ギコは思い切ってフサに問いかけた。
「だから忘れろって。しぃも忘れてるん……」
「忘れられねェんだ……俺が」

ただの未練がましい行為だと思われても構わない。
再び悪夢を呼ぶかもしれないと言われて責められても構わない。


『―――こ……世界……造ら……存……だった……し……もか……?』


ギコの脳裏に声が聞こえた。どこかできいたことのある声。
その言葉は途切れ途切れで聞こえた。あまりよく聞き取れなかった。
(“造られた存在”……?)
「……ギコ。俺言ったよな?
悲しい顔したらしぃを殺すって」
フサの突然の言葉にギコは驚いた。
「アレ、本気だからな。俺はあいつを殺すぞ」
「……分かったよ。もう、しぃは諦める」
ギコは開き直ったように言う。そのギコを見てフサは即座に言った。
「嘘はつくなって言ってるだろ」
「……さすがフサだ。
俺がそんな諦めの早い人材じゃないってこと、よく分かってるじゃねェか」
「へ……っ。なにかと付き合いが長いもんでな」
フサは果てしなく広がる青い空を見据える。
その顔は笑っていた。
「お前も嘘つくなよ」
ギコがボソリと付け足した。
「……バレたか」
「なにかと付き合いが長いもんでっ」
ギコは笑いながら言った。それと同時にフサも小さく笑う。
「しぃを殺しちまったらもっとお前悲しむからな」
「へへっ」
そのまま窓の外の綺麗な空を見る。
―――その瞬間、二人はある事に気づいた。

「おい……フサ……」
「……ああ……」


―――太陽が黒くなっている……。


二人の表情は一気に暗くかげった。
窓に駆け寄り扉を開ける。確かに黒い太陽がある。

―――何故この世界の太陽が黒くなる?
―――仮想空間で起こったことが現実世界に起こっている。
―――悪夢の再来。虐殺の始まり。


―――管理AIの復活……


カラ……

教室のドアがゆっくりと開く。
「……!?」
「し……ッ!?」
そこに立っていたのは一人の少女だった。
瞳の色は青く澄んでいる。
しかし、表情には暗い陰りがある。
「なっ……なんでキミいるんだ? もうとっくに帰ったはず……」
ギコはしぃとは呼ばず、キミと呼んだ。
記憶が蘇っていないと思ったからである。
いきなりシィと呼ばれたら、相手も気も引くものだと思ったのだろう。
「ギコ……君……」
「えっ……!? 今……俺の名前……」
「ギコ君……ギコ君……っ」
しぃの目から涙が溢れる。
驚いた二人。だが、とっさにこう思った。

“記憶が蘇った”―――……

“悪夢が始まる”―――……

「しぃ……お前……記憶……」
「全部……思い出したよ……。
ギコ君と一緒にあの世界を駆け巡ったことも……
モララーから命がけで護ってくれ……た……ことも……」
しぃはその場に膝から崩れ、座り込んだ。
「しぃッ!」
ギコはすぐさましぃに駆け寄った。
しゃがみこんで両手をしぃの両肩に置く。
「ねぇ。ギコ君」
「なんだ……?」
しぃの肩にかけていたギコの手に力がこもる。

「私は死んだんだよ? なのにどうしてここにいると思う……?」

「え……?」
不思議に思い、ギコはしぃの顔を覗き込んだ。
その瞬間、しぃの両手にはあの武器が握られていた。
しかし、その事にギコは気づいていない。

「あなたたちテスターに復讐しにきたの……
管理AIの虐殺法でこの世界もあの時と同じようにするために……!!」

「っ!? ギコ……っ!!」
「“聖斬光”」

キィンッ!

フサが瞬時にギコに飛び込んでいった。
二人はそのまま教室の壁に転がっていった。
なんとか攻撃を免れたのだ。
「しぃ……お前……どうして……」
ギコは呆然としている。フサもこの事態はカケラも予測していなかった。
―――彼女の瞳は暗く濁っていた。
さっきまでの青い瞳は嘘だったかのように。
「ギコ! 早く外に出るんだ!
武器がなかったら太刀打ちもできねェ……!!」
フサはギコの手を引っ張り立ち上がり、ドアを開けて外へと飛び出した。
必死に手を引っ張って走るフサに、ギコは倒れそうな弱い足取りでついていく。
「逃がしはしないよ?
武器を持っていない人間なんか私でも簡単に殺せるんだから」
そう言い残してしぃは姿を消した。

―――どうしてしぃが……?
―――記憶が戻ったら……あの時の彼女になると思っていた。
―――それは間違いだったのか……?


『―――この世界……が造ら……れた存在だった……とし……てもか……?』


再びよぎるあの声。途切れ途切れではあるが、ハッキリと聞き取れた。

“―――この世界が造られた存在だったとしてもか……?”

信じられなかった。この声は誰の声だ?
この世界って何処だ? 仮想空間の事を言っているのか?


―――もし、ここが仮想空間だったら……?

             「ここは……現実世界だよな……?」

―――この世界が仮想空間だったら……

        ―――俺たちも全部造られた存在……。


あの時……ギコがふと思った事だ。

―――ここは本当に現実世界なのか?
―――あの世界は本当に仮想空間だったのか?


―――悪夢への扉を開く鍵が五つ。



**********************************************************************

第三章*悪夢の再来*


悪夢への扉を開く五つ、全てそろった。
この世界もあの世界のように黒く染まってしまう。

・・・つづく
もぅ何がなんだか……(^ー^;)

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